13
目をあけたら、レンキン先生が心配そうに私を見ていた。
「…ん?」
「気がつかれましたか…無茶をしすぎです、姫様。」
「レンキン先生?」
「目を覚ましたのか!」
同じ部屋にいたのか、お祖父様の声がした。
すぐに私が寝ている横にお祖父様があらわれて、手を握られる。
壊れそうなものを扱うようにそっと握られた手からお祖父様の温かさが伝わってくる。
「…私、どうしたのですか?」
どうしてここに寝かされているんだろう。
倒れたのだとは思うけど、その前は何していた?
怒り狂うイライザと女官長の顔が浮かんで、そういえばと思い出す。
「もう大丈夫だ。もう心配することは何もないんだ。
女官長をはじめとしたお前に嫌がらせをしていたものはすべて捕らえた。
証拠も十分集まったし、何より女官長は直接的に危害を加えようとした。
地下牢に入れて取り調べを続けている。
…お前は二日間も目を覚まさずにいたのだよ。」
「二日も?」
「そうだ。もう証拠を集める必要もない。
ここは本宮に用意したお前の部屋だ。
わしの部屋のすぐ近くにある。
…護衛たちもつけたから、もうお前が心配することはないよ。」
護衛…あの時助けてくれた監視人さんたちかな。
お礼を言いたいけれど、まだ起き上がれそうになかった。
「お前の部屋につける侍女も用意した。来なさい。」
「「はい。」」
そっくりな顔の侍女が二人、お祖父様の後ろに立った。
お母様と同じ年頃の侍女ということは、長年ここに勤めているのだろうけど、
私は見たことがないから、本宮でだけ仕事をしていた侍女なのかもしれない。
本宮付きの侍女ということなら、貴族出身の侍女ということになる。
二人は私の顔を見て、にっこりと笑った。
同情するでもなく、見定めるわけでもなく、自然な笑顔だった。
私の評判の悪さは聞いているだろうに、そういった悪感情は無いように見える。
「リサと申します。」「ユナと申します。」
「この二人は儂付きの侍女の娘たちだ。
しっかり教育されているから、安心していい。
専属の侍女はまたちゃんと選ぶことになるが、
とりあえずこの二人はお前につけておく。」
お祖父様つきの侍女の娘ならば間違いないだろう。
本来ならお父様かお母様につくべきなのかもしれないけれど。
「ありがとうございます。」
「うむ。まずは休め…詳しい話はそれからだ。」
「はい。」
レンキン先生の話だと、イライザに蹴られた太ももは骨にひびが入っていたそうだ。
痛みのために気を失った後、ケガにより発熱したのだろうと。
私の身体は小さいし、体力がないために強い薬は使えない。
治癒をかけて骨はくっつけてあるけれど、魔術で完全に戻すことはできない。
まずはじっくりと休んで、元の身体に戻すように頑張りましょうとのことだった。
イライザは…叔父様たちはどうなったんだろう。
聞きたいことはあったけれど、元気にならないうちは話してくれないようだった。
リサとユナに世話をされ、少しずつ食事をとるようになり、
起き上がってソファに座れるようになるまで二週間ほど何も知らされることはなかった。
ようやく一人で部屋の中を歩き回れるほどに回復すると、
お祖父様が私を訪ねてきた。レンキン先生とオイゲンも後から部屋に入ってくる。
「おお。歩けるようになったんだな。良かった。」
「はい。もう痛みもないですし、大丈夫です。」
「うん、うん。今日はお前に護衛たちを紹介しようと思ってな。」
「紹介ですか?」
この部屋で寝たきりになっている時も、監視人さんたちの気配は感じていた。
もう証拠を集める必要もないのにそばに居るなぁとは思っていたが、
あれは監視ではなく護衛任務だったようだ。
「入ってこい。」
今日は天井から降りてくるのではなく、ちゃんと部屋のドアを開けて入ってくる。
覆面で体格のいい男性が三人と細身で少年と思われる二人が入ってくる。
「覆面の三人は影と呼ばれるものたちだ。
この三人は今後お前の護衛としてつかせる。
左から順にユン、イル、ダナだ。」
お祖父様が名を呼ぶと一人ずつぺこりと頭を下げた。
魔力で違いがわかるからいいけれど、覆面は外してくれないようだ。
「それで、この二人はお前の専属護衛騎士になる。
影とは違い、目に見える形でそばにいて護衛することになる。
二人とも自分で名乗れるな?」
一人目の少年が前に出ると名乗り始める。
銀髪に緑目…高位貴族の色を持つ綺麗な顔立ちの少年だった。
髪を耳のあたりで短くしていなければ、少女に見えるほど中性的な感じに見える。
微笑んだら可愛らしいだろうと思ったが、にこりともしない。
「俺はクリス・バルテンと申します。」




