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食事もとらずに寝室にこもり、ずっと同じようなことを考え続けていた。
答えは出ない…。
もし…この計画を実施して、
どうしてそんなことを知っているのかと聞かれたら。
前世が魔女だったことがみんなに知られてしまったら。
クリスとカイルに嫌われてしまったら…どうしよう。
そう思ったらあの場では言えなかった。
ずっとココディアと開戦せずに済むにはどうしたらいいか考えていた。
いい案を思いついたとは思ったけれど、
私の前世のことを話さずに説明するのは難しかった。
アーレンスから買い取った古い資料を読んで思いついたようにしたかったが、
国王代理の仕事が忙しく、あまり読めていない。
そもそもカイルがほとんどの資料を読んだことがあると言っていた。
私が読んだからといって、今まで知られていないことがわかるとは思えない。
どう考えても言い訳が思いつかなかった。
「入っていいか?」
寝室のドアの外から声が聞こえた。カイルの声だ。
「俺もいる。姫さん、入るぞ?」
「お、おい。勝手に開けるなよ。」
クリスもいるようだ。
私が返事をする前にクリスがドアを開け、カイルに止められていた。
「どうしたの?」
「どうしたのじゃない。
食事もとらないで部屋に閉じこもってるから様子見にきたんだ。」
「ほら、スープくらいは飲めるだろう?」
トレイに乗せられていたのはじゃがいものポタージュだった。
隣にナッツの焼き菓子も小皿に置かれていた。
今まで空腹を感じなかったのに、それを見た瞬間にお腹がくうと鳴った。
「ほらみろ。空腹で考え事してもいいことはないぞ。」
「…うん。食べる。」
トレイを受け取って、じゃがいものスープをスプーンですくう。
口に入れると、いつもの優しい味がのどを通っていく。
美味しい…
私が食べ始めると、二人はほっとした顔になった。
何も言わずに閉じこもったから心配させてしまったかもしれない。
こんな風にいつもそばにいてくれるクリスとカイルに嫌われたくはない。
だけど、開戦したらどうしても死者は出る。
前世のことを知られたくないと、黙っていることはできる。
誰も知らないのだから、責められることはない。
開戦して、領土が荒れて、死者が出て。
この国が平和じゃなくなった時、私は平気でいられるだろうか。
平気な顔をして、クリスとカイルの手を取れるだろうか。
「なぁ、姫さん。何かやろうとしていることがあるんだろう?」
「え?」
「ソフィアが考え込んでいるのはわかってた。
ココディアと開戦しないようにいろいろ手を打っていたのも。
…これだけ状況が押し迫っているのに、
ココディアとの開戦準備を止めたのは理由があるんだろ?」
「…どうして?」
なぜクリスとカイルがわかっているんだろう?
スープをすくっていた手を止めて、二人を見る。
「あのな?姫さんは自分で思っているよりも考えていることが出やすい。」
「え?顔に出てる?」
「いや、顔には一切出てない。」
じゃあ、なんで?と言う前にカイルに示される。
「ほら、魔力が漏れてる。…ソフィアは何かあると魔力に影響が出る。」
「うそ!」
「本当だって。ほら。」
そう言われて自分の手を見ると、たしかに魔力が漏れている。
…ええ?今までもそうだったの?
「…落ち着け?悩んでいることを全部話せとは言わない。
ただ、何かやろうとしていることがあって、悩んでいるのはわかる。
それは…成功しないかもしれないと思って悩んでいるのか?」
「…ううん。成功すると思う。」
「じゃあ、もう悩むな。」
「え?」
悩むな?だって、そんなこと言われても…。
「俺もカイルも、みんなも。姫さんが言うならそれに従う。
誰も反対したりしない。
どんな馬鹿げた作戦でも、姫さんが成功するというのなら。」
「反対しない?」
「ああ。今まで、ソフィアがしてきたことをみんなわかってる。
考えなしに行動したりしないって、わかってるんだ。
大丈夫だ。成功するって思っているんだろう?
みんな、止めたりしない。俺たちを信じてくれ。」
「カイルを?クリスを?信じてって…。」
「何があっても、最後までそばにいるって約束した。」
「姫さんとカイルと、一緒にこの国を守るって言っただろう。
もう少し俺たちのことを信じようとしてくれ。」
二人を信じたい。何があってもそばにいてくれるって。
だけど、怖い。二人が大好きだから。
「ほら、もう夜も遅い。これ食べたら、一緒に寝よう。」
「一緒に?二人とも一緒にいてくれるの?」
「一人にしてたらろくなこと考え無さそうだからな。
俺たちが添い寝してやるから寝るぞ。」
「ほら、残りも食べてしまいな。」
そう言われてスープをすくって口に入れたら、ほっとして涙が出そうだった。
全部食べ終わったら、えらいなって頭を撫でられて、
抱き上げられて寝台に寝かされた。
右手をクリスに、左手をカイルにつながれて、
なんども頭を撫でられながら眠りについた。
…信じていいのかな。大丈夫なのかな。
何があっても、二人は離れていかないって。
朝、目が覚めても二人はすぐそばにいた。
迷いが消えたわけではないけれど、心は決まった。
「準備ができ次第、謁見室に行くわ。」




