122
三人目の王配候補にダグラスが決まり、正式に婚約者となった。
お披露目は収穫祭の夜会で行われたが、
学友でもあったダグラスが王配になると貴族たちが予想していたこともあり、
すんなりと受け入れられることになった。
「意外と騒がれないもんだな。」
「本当にダグラスが王配になると思われていたのね。」
「A教室のみんなはそう思っていたかもしれませんね。
昼の食事も王族用の専用個室で一緒にしていましたし。」
「あぁ、そういえばそうね。それもそう思われるわよね。」
「…まぁ、否定されなくてほっとしているけど。
ソフィア様が良くても陛下に認められなかったらダメだっただろうし。」
「ダグラスは否定するところがなかったもの。
お祖父様だってダグラスが王配候補だと思ってたんじゃないかな。
報告したらあっさりとわかったって返事だったわよ。
あんなに悩んだのにね。」
「…いや、いいよ。あれも無駄なことじゃなかったから。」
「それはそうだけど。早くエマと一緒に住めるといいね。」
「ああ。」
ダグラスの公妾にエマを推薦するのは、エマが私の専属侍女になってからだ。
それまではエマは一度離縁されて侯爵家の侍女になった、元伯爵令嬢でしかない。
学園を卒業すればダグラスを王配にすることに問題はない。
クリスとカイルは私が学園を卒業して半年後に王配になることが決定されている。
だが、ダグラスを同時に王配にすれば、
ダグラスの公妾になりたいという令嬢が出てくることが予想された。
それをいちいち断るのも大変になるし、エマのことを公表することもできない。
そのためダグラスを王配にするのはエマが専属侍女になってからということになった。
ダグラスは卒業後は王太子室ではなく、国王の執務室に入ってもらうことにした。
王太子と王太子妃の仕事はエディとディアナに引き継いでいる最中で、
今の時点でダグラスに覚えてもらっても、すぐに引き継ぐことになる。
それでは意味が無いので、最初から国王の仕事を覚えてもらうことにした。
私も卒業後はお祖父様から国王の仕事を少しずつ引き継いでいくことになる。
王妃の仕事はもうすでに引継ぎが終わっているが、
これはセリーヌとクロエのおかげで大した負担にはなっていない。
数年後に女王になるまえにお祖父様の負担を少しでも軽くしたい。
高齢のお祖父様は疲れやすくなっていて、
無理しないようにとレンキン先生から注意を受けている。
早くお祖父様を休ませないとなと思っていた矢先のことだった。
あと一か月で学園を卒業するという頃になって、お祖父様が倒れた。
冬の寒さで風邪をひいたのかと思っていたが、肺の炎症と身体のしびれがあり、
レンキン先生には過労だと診断された。
知らせを受けて学園から早退しお祖父様の私室にかけつけると、
すぐにレンキン先生に声をかけられる。
「…ついさきほど薬を飲んで、眠ったところです。
熱が下がらずに、体力が落ちています。」
寝台で眠っているのに、苦しそうなままのお祖父様に心配が増す。
「……お祖父様は元気になるのよね?」
「大丈夫です。治りますとも。
ですが…陛下は無理をしすぎました。
姫様と同じです。」
「え?」
「陛下も魔力が多いために、少々無茶をしてもなんとかなってしまうのです。
身体が疲れて休みたいと思っても、魔力で補ってしまう。
ですが、それは休んだことにはならないのです。
疲れたという身体からの声を消しているだけなのですよ。
それが続くと、こうしてごまかしきれない日が来るのです。
陛下の身体は休養を求めています。
そうですね…三か月から半年ほどは安静にしたほうがいいでしょう。」
「そう…お祖父様はそんなに無茶を。
そうよね…ずっと一人でこの国を守ってきたのだもの。」
お祖母様が早くに亡くなり、お父様とお母様もいなくなった。
ずっとお祖父様が一人でこの国を支えていた。
こんなになるまで疲れるのも当たり前な話だった。
「陛下が即位したのは十五歳の時でした。
前王弟が戦死し、その数年後に前国王は病死しました。
智の国王と武の王弟と呼ばれていて、
二人で国を治めていると言われるほど仲が良かった。
だから王弟の死を知らされても受けいれられず、
もとから身体が弱かった国王はますます弱っていって。
亡くなった時、陛下はまだ十四歳だったのです。
陛下がこの国を継いだ時は戦争中なこともあって、
めちゃくちゃな状況でした。」
「チュルニアは他国と戦争中でこの国とは断絶していて、
ココディアとは十年戦争が続いたのよね?」
「そうです。長い戦争でした。
陛下が即位して、二年たったころココディアとの戦争を終えました。
勝敗がついたからではありませんでした。
どちらの国も人も疲弊して、これ以上戦ったら両方の国がつぶれる、
そう判断したからです。」
「…そんなにひどい状況だったのね。」
史実ではわかっている。
だけど、これほどまで豊かになったユーギニス国内を見ていると、嘘のように思える。
それでもこの国は飢えて人が亡くなるほど食糧難だった時代がある。
戦争で田畑を焼かれ、耕す人が減り、蓄えを略奪されたせいだ。
「陛下は智と武を兼ね備えた王子でした。
それでも、十五歳で国王になった時、周りは敵ばかりでした。
私は当時は十三歳のただの侍従で…何も手助けできなかった。
医師の知識もなく、そばで見ているだけでした。」
「そういえばレンキン先生、侍従長だった。
最初から医師じゃなかったのね。」




