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「あぁ!そうだ!そういえばそうじゃないか。
公妾となってしまうが、正式な妻として娶ることができる!」
「でしょ?しかも、王配候補になった時点でダグラスは準王族になる。
そうなればダグラスの結婚相手を侯爵夫妻が決めることはできない。
王配の公妾を承認できるのは女王だけだもの。
ほら、私の許可があればいいの。
ダグラスを王配にするのは私が女王に即位する時でいい。
その時、私の専属侍女であるエマを公妾にするとすれば誰も文句を言えないわ。
王配の妻は私が信用できる者にしたい。だから専属侍女のエマを、と。
おかしなことではないでしょう?」
「いや、全然おかしくない。むしろ正しい。
王配の公妾は信用できる者じゃないと任せられない。
王配に変な影響があっては困るからな。…完璧じゃないか。
よく気が付いたな、ソフィア。」
「あぁ、ダグラスは王配候補には無理だと最初に決めつけてしまったから、
こんなことは考えもしなかった。」
「ふふふ。ダグラスのおかげかもしれないわ。」
「え?俺のおかげ?」
「エディに言われたことがあるのよ。
クリスとカイルの二人と一緒にいて、
平気でいられるようじゃなきゃ王配になれないって。」
「…それはそうだろう。だって、この二人だぞ。」
「ダグラス、いつも一緒にいるじゃない。平気でしょ?
私を含めて四人でいても気にならないでしょ。」
「え、あ、そうか…よく考えたらそうだな。」
「ほら。考えたら他にいなかったのよ。
ダグラスなら学園でずっと一緒にいても平気だったでしょう?
クリスとカイルと普通に話せるし、私に意見も言える。
ルリとも仲良しだし、エディ達にも慕われている。
ほら、完璧じゃない。」
「本当だな。ダグラスしかいないじゃないか。」
「でも、ダグラスは侯爵家を継ぐために領地に行くと思ってたから、
無理だなって思ってたんだよね。
公妾だって、正式な妻とはいえ社交界には出てこれないし、
普通の令嬢だったら嫌がるだろうなぁって。
だけど、エマは事情もあるし、もしかしたらと思って。」
王配の公妾は戸籍としては正式な妻として扱われる。
財産を共有し、産まれてきた子どもも正式に貴族として認定される。
ただし、公の場では王配は女王の夫であるため、夜会などには出席できない。
でもエマは夜会に出る機会がないほうがいい事情がある。
侯爵家の妻になった後、ポネット伯爵家の者と顔を合わせたら揉める可能性がある。
エマがダグラスの公妾になるのは私が女王になる時期だと思うから、
それまでにポネット伯爵家に子どもが産まれればいいが、こればかりは祈るしかない。
社交界に出る機会がなければエマに危害が加えられる心配も少ないし、
王配の公妾に何かすれば伯爵家がつぶされると思うはず。
ダグラスが私の王配になれば、
そういう意味でもエマと子どもを守ってあげられることになる。
「…だけど、俺が王配に?ソフィア様と結婚することになるのか?」
エマのことは解決できるけど、私と結婚するとなると複雑な気持ちになるらしい。
ダグラスが見たこともない微妙な顔をしている。
うん、わかる。私もまったく同じ気持ちだから。
ダグラスとはあくまでも友人。とても親しい友人で、信頼している。
だけど、夫として考えられるかというと、無理だなって思う。
「王配…という名の参謀になってくれない?」
「は?」
「だって、ダグラスのこと、夫だと思えないのよ。
ダグラスだってそうでしょう?私のこと妻だって思える?」
「…難しいな。いや、ソフィア様に魅力がないとか思ってないからな。
ただ、純粋な友人だと思っているのに、妻となると…ちょっと。」
「わかる。私もまったく同じ気持ちだから。
だから、ダグラスは王配の一人ではあるけど、夫にならなくていい。
表向きは夫の一人ではあるけど、実際には側近として働いてほしいの。
残念ながら領地に帰してあげることはできないから、
侯爵家は領主代理に任せることになってしまうけど…。
エマが専属侍女になれば、エマも王宮に住むことになるわ。
その時、ダグラスとエマと子どもを一緒に住まわせることもできると思う。」
「…いいのか?俺にとっては願っても無いことだが…。」
「いいの。私が子どもを産まなければいけないとは思ってないの。
だから夫としての役目は求めていないのよ。
将来的にはエディとディアナの子どもを養子にしてもいいと考えているし。
だから、ダグラスは友人として側近としてそばにいてくれるとうれしい。
この国を守るために手を貸してくれないかな。」
「あぁ、ああ!もちろんだ!」
「良かった。エマ、もういいんだよ。
ダグラスの手を取っても大丈夫。受けいれてもいいんだよ。」




