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三学年も残り半年となった頃、食堂の専用個室でエディとディアナ、
アルノーとルリ、クリスとカイルと昼食を取っていた。
いつも通りの光景とは違い、皆の顔は曇っていた。
ここにいるはずのダグラスがいないせいだった。
「今日もダグラス先輩いないんだね。
どうしたんだろう。」
「それがわからないのよね。
急に休んだと思ったら、もう十日も来ていないの。
いったい何があったのかしら。」
それまで休むことなく毎日来ていたダグラスが十日前から休んでいる。
休むようなことがあれば学園に連絡が来ていておかしくないのだが、
学園にも何も連絡は来ていないらしい。
休む前日まで何も変わった様子はなかった。
体調が悪そうだとか、そういったことはなく元気に見えていた。
事故だとかケガしたとか、そういったことなら届け出が出ているはずだ。
ダグラスの両親、テイラー侯爵夫妻はずっと領地にいるため、
王都の屋敷にはダグラスが使用人たちと暮らしていると聞いていた。
領地に急ぎ戻るようなことでもあったのだろうか。
「屋敷に問い合わせてみようかな…。」
「うん、それが良いと思う。
こんなに休み続けているのなら、何か理由があるんだろうし。
何かあったとしてもダグラス先輩はソフィア姉様に頼れなくて困ってるかもしれない。」
「そうかもしれない。」
例え困ったことがあったとしても、ダグラスが私を頼るとは思えない。
そういう意味で仲良くしていたわけじゃないとか言いそう。
私にできることなら頼ってくれてもいいと思うけれど、
潔癖なダグラスだからこそ仲良くなれたともいえる。
まぁ、頼られたとしても貴族家の問題に口を出すのは難しいけれど。
それがわかっているから、問い合わせするかどうか迷って十日もたっている。
「影に調べさせるか?」
「影に?そんなことできるの?」
いつも私の護衛としてそばにいる影の三人に調べさせる?
必ず二人はそばにいるし、交代で休憩をとっている。
調べるような暇があるのだろうか。
「イル、ユン、ダナにはそれぞれ部下がいる。
姫さんの護衛はその三人じゃなきゃ陛下の許可がおりないが、
他の任務なら部下たちで十分。」
「そうなんだ。影さんって多かったんだね。」
そんなにいるなんて知らなかった。
お祖父様の護衛にもいるはずだから、他にもいると思っていたけれど。
それぞれに部下がいるほど多いとは思っていなかった。
「じゃあ、調べさせるぞ。」
「うん。でも、いいのかな。調べちゃって。」
「今さらだな。ソフィアの学友となった時点でいろいろ調べられているし、
そのことはダグラスにも伝えられているはずだ。
王太子と一緒にいるのだから、そのくらいは当然だ。」
「え?あぁ、そうなんだね。
…私のことで巻き込まれているかもしれないってことだよね。」
「王太子の学友になったからには卒業まである程度守られることになる。
ダグラスを利用してソフィアに何かされることのないようにな。
だから、影を使って調べることができるんだ。
いくらなんても理由なく調べたりしないぞ。」
「わかった。じゃあ、ちゃんと調べて欲しい。」
もし休んでいる理由に私が関わっているのなら、どうにかしてあげたい。
このまま学園に来なくなってしまったら卒業できないかもしれない。
最後までダグラスと試験の成績を争って、ルリと三人で卒業したい。
…本当に何があったんだろう。
それから三日後。
私とクリスとカイルは王都のはずれにある家の前に立っていた。
貴族の屋敷とは違い、小さな二階建ての家。
この小さな家は王都の平民が暮らすのに標準的なものだそうだ。
家族で住むにはこの大きさでちょうどいいという。
「ここに本当にいるの?」
「影からの報告は読んだだろう?」
「うん、そうなんだけど…。」
呼び鈴を鳴らすと、家の中で人が動く気配がした。
だが、こちらの様子を見ているだけで出てくることはない。
…やっぱり隠れているんだ。
「ダグラス、私よ。ソフィアよ。
出てきてもらえないかしら。」
少し大きい声で呼びかけると、家の中にいる者がこちらに向かってくるのがわかる。
あぁ、この魔力。ダグラスだ。
扉が開けられると、どうしてここにと言いたそうな顔があった。
聞きたいことがあるのはこちらもだ。
「久しぶりね、ダグラス。
話があってきたの。中に入れてもらえない?」
「…わかった。入って。」




