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【書籍化・コミカライズ2巻4/16発売】ハズレ姫は意外と愛されている?  作者: gacchi(がっち)


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三学年開始の日、午前だけの授業が終わりルリとダグラスと馬車置き場へと向かう。

クリスとカイルはもちろんついているし、近衛騎士が遠巻きに護衛している。

私とエディ、エディの婚約者になったディアナがいることで、

学園内の警備はますます厳重になっていた。


「あーまたダグラスに負けちゃった。」


「負けたって言っても同点でしょ。」


「でも、去年もそうだったけど、

 ダグラスが間違えない限りこのままなんだもの。

 でも、仕方ないわよね。卒業試験も頑張るしかないわ。」


三学年最初の試験でもダグラスは満点を取り、私も満点ではあったが、

その場合順位は前年度順位が上位だったものが上になる。

二学年も同点のため、主席はダグラスだった。

今年こそはと思ったのだが、ダグラスが満点を取り続けているために勝てない。


だが、ダグラスが間違えるのを望むというのもおかしい。

私は私で全力で頑張るしかないのだと結論付けた。


「卒業試験か…もう最終学年なんだな。」


「そうね。あと一年しかないのね。

 ダグラスは侯爵家を継ぐから、王宮の試験は受けないのでしょう?」


「ああ。しばらくは領地に行って仕事を覚えるのが優先だな。」


侯爵家の一人息子のダグラスは就職先を探す必要がない。

同じように就職先を探すことのない私や、

もうすでに私の専属侍女として就職先が決まっているルリ、

この三人はA教室の中で雰囲気が違っている。


もう半年もすれば王宮の文官と女官の採用試験が始まる。

A教室のほとんどがその試験を受ける予定のようで、

顔つきが変わってきている。


…採用する側とすれば、少し気まずい。

もちろん優遇したりすることはないし、誰かからお願いされることも無い。

ただなんとなく圧を感じ、教室内でおしゃべりをするのがためらわれる。


「じゃあ、また明日。」


「ああ、また明日。」



いつものように見送られ、馬車に乗って王宮へと帰る。

帰ったら昼食をとって、午後は王太子室で仕事をする予定だ。


馬車の中くらいはのんびりしたいなと思ったら、隣の席がカイルに変わった。


「初日だから、少し疲れただろう。

 王宮に着くまでくらい休め。」


何も言っていないのに横抱きにされ、膝の上に座らされる。

これは少し寝なさいってことかな。

おとなしくカイルの胸に頭を寄せると、温かさで眠くなる。


誰も会話しない静かな空間。

カタコト揺れる馬車の振動が心地よくなって、目を閉じた。

ちょっと目を閉じただけだったのに、次に目を開けた時には王宮に着いていた。


「着いたよ。歩けるか?」


「ん。大丈夫。目を覚ましたいから自分で歩く。」


「わかった。」


手を借りて馬車から下りたら、リサとユナが迎えに出ていた。

リサとユナが馬車付き場まで迎えに来るなんてめずらしい。

何かあったのだろうか。


「どうかした?」


「陛下がお呼びです。すぐに謁見室に向かってください。」


「え?お祖父様が?そう、わかったわ。」


何かあったらしい。謁見室に来いというのはそういうことだ。

カイルとクリスを見ると、二人も真剣な顔つきになっている。

…この時期、呼び出されるとしたらココディアだろうか。

もしかしたら開戦する…?


謁見室に入ると、レンキン先生とオイゲンの他にも執務室長のピエール、

女官長ミランと時期女官長セリーヌ。

ディビットとヨルダンも呼ばれたのか同室している。

これだけの者を集めているというのなら、やはり開戦したのだろうか。


「ただ今戻りました。」


「…おかえり。着替える時間もなく呼び出してしまったな。」


「いいえ、これだけの者を集めたとなれば緊急のことでしょう。

 何が起きたのですか?」



「…ダニエルが、お前の父が亡くなった。」


「………え?」


「今朝、起きてこなかったらしい。

 それで影に確認させたら、亡くなっていた。

 夜中に亡くなったらしいが、原因はわかっていない。

 心臓が弱いという報告はなかったのだが…。」


「…お父様が…そうですか。」


その後、お祖父様と何を話したのか覚えていない。

いつのまにか私室に戻って、ソファに深く座り込んでいた。


右手はクリスに、左手はカイルにつながれていた。

クリスに頭を撫でられ、カイルに頬を撫でられている。

あれ、いつも温かいはずのカイルの手が冷たい。

違う…私の頬が濡れているんだ。私、泣いてる…。


「…大丈夫じゃないよな。」


「…無理はしなくていい。泣けるなら、泣いたほうがいい。」


両側から二人が慰めてくれる。

だけど、それに何も答えられない。


お父様が亡くなって、泣くなんて思わなかった。

ほとんど会話も交わしたことも無い父親。

私が虐げられていても関わろうとしてこなかった父親。

お母様よりも愛人をとって、塔に幽閉されていた父親。

どれ一つとっても、悲しくて泣けるような父親には思えない。


なのに、どうして私は泣いているんだろう。



目をあけたら朝になっていた。

あのままの状態で寝てしまっていた。

まだ右手はクリスに、左手はカイルにつながれたままだった。

その上で、カイルにもたれかかるようにして寝ていたらしい。


「…起きたか?」


私が起きたことに気が付いたクリスに声をかけられる。


「うん。」


「ちょっと待ってろ。今、目を何とかする。」


泣きすぎて腫れているのか、クリスが私の目に手を当てる。

冷たくて気持ちいいクリスの手から、魔力が流れてくる。

手は冷たいのに、魔力は温かい。

いつも不思議に思うけれど、それが心地いい。


「今日は何もしなくていい。

 俺とカイルはずっとそばにいる。

 だから、このまま好きにしてていい。」


「うん…ありがとう。」


話していたらカイルも目を覚ましたようだ。

起きてすぐに私の顔を覗き込んできた。


「あぁ、クリスが治したのか。」


「うん、今治してもらったとこ。」


「そっか…泣きたいなら、いくらでも泣いていい。

 だけど、その前に水分は取ろうな。」


テーブルに置いてあった水差しからグラスに注いで渡してくれる。

柑橘が絞ってある水は冷えていた。

一口飲んで、のどがカラカラだったのに気が付く。

昨日は水も飲まないで泣いていたのかもしれない。


「…どうしてあんなに泣いたのかな。

 お父様とはほとんど話したことも無いのに。」


「…まぁ、そうだろうな。

 だけど、だからといって泣いちゃいけないわけじゃない。」


「そうかな。」


「そうだよ。娘が父親の死を悲しんで何が悪い。

 好きなだけ悲しんで泣けばいい。

 それに理由なんていらない。」


「…そっか。悲しんでいいんだ。」


理由なんていらないんだ。

たとえ私のことを見てくれない父親だったとしても、

どんなにひどい父親だったとしても、

私が悲しむのには理由はいらないんだ。


泣いても、いいんだ。


何も言わず、またクリスが頭を撫でてくれる。

カイルが左手を包み込むように握ってくれる。


その日、本当に一日中泣いて、泣いて、悲しんで、

お父様にお別れをした。


病気で療養中だったお父様が亡くなっても、大きな葬儀はしない。

もうすでに王太子から下りて、王族からも籍を抜いている。

それでもお祖父様と私は身内として一年間、喪に服すことになる。


貴族へは通達だけ行われ、お父様はひっそりと埋葬された。

塔に一緒に幽閉されていた愛人と侍従たちは離れた場所にある王領に送られ、

離宮で幽閉され続けるそうだ。

愛人のお腹の中にいた子は死産だったと、その時初めて知った。

お父様とも愛人とも髪色が全く違う男の子だったらしい。

それをお父様がどう受け止めたのかはわからない。


私に兄弟がいたら、何か変わっただろうかと。

意味のないことを少しだけ考えた。





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