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【書籍化・コミカライズ2巻4/16発売】ハズレ姫は意外と愛されている?  作者: gacchi(がっち)


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「あぁ、クロエの家のことをセリーヌも知っているのね?」


「…はい。」


なるほど。女官として働くためには貴族の後ろ盾が必要だ。

他の女官と揉めたとなれば、クロエの父親はクロエを辞めさせるかもしれない。

クロエの仕事よりも、他の貴族家との関係を大事にするだろう。


…あ、今の状況ってまずい?


「デイビット、今回のことでクロエ辞めさせられたり…」


「しません。大丈夫です。」


「本当?クロエの父親は…」


「ソフィア様のお気に入りなので辞めさせることのないようにと、

 伯爵へ書簡を送ってあります。王太子室長の名で。」


「良かった…ありがとう、デイビット。」


「いいえ。私もせっかく育てた後輩を辞めさせたくないですからね。」


私は気が付いていなかったけれど、デイビットがちゃんとわかっていた。

伯爵がクロエの後ろ盾を取り消す前に書簡を送ってくれていたらしい。

あの三人の生家から圧力がかかってクロエが辞めさせられる前に、

私のお気に入りだから辞めさせるなと圧力をかけてくれていた。

デイビットの名でというのなら、問題はないだろう。

王太子室長というよりも、次期執務室長という風に思われている。

文官の長として側近になるデイビットに逆らうような貴族家はいないはずだ。


「でも、どうして清書だったの?」


自分の仕事を手伝わせるとか、他にもやりようはあったと思う。

クロエの字は綺麗だけど、それが理由だろうか。


「私の字がくせ字で、クロエの字がとても綺麗というのもありますが、

 清書を頼んだ理由はそれだけではありません。

 クロエは入学時から卒業時まで次席の成績でした。」


「あ、うん。それは聞いたわ。

 セリーヌが三席だって聞いて驚いたもの。

 学園ではクロエのほうが成績良かったのでしょう?」


「はい。首席は侯爵家の嫡男でした。それは当然だと思います。

 普通の家の令嬢はそこまで勉強しません。

 私は兄二人がいるのですが、三人まとめて同じ家庭教師をつけられましたので、

 令息たちと同じように教育されました。とてもめずらしいことだと思います。」


「令嬢はそこまで勉強しないというのはわかるわ。

 でも、クロエもセリーヌも三席に入っている。

 どちらもかなり頑張ったのね。」


「…違うのです。」


「ん?」


「クロエには家庭教師がつけられていなかったそうです。」


「え?」


次席の成績で入学したクロエに家庭教師がついていなかった?

何の冗談かと思ったが、セリーヌは真剣な顔をしていた。


「クロエは三歳年下の義弟の侍女として働いていたそうです。」


「は?」


「伯爵家では令嬢扱いされず、養子になった弟の下で働いていたそうです。」


「…そこまでひどかったなんて。でも、じゃあ、成績はどうして?」


「義弟が家庭教師に習う時に、部屋に同席していたそうです。

 侍女として、壁際に待機して…それだけで覚えたそうです。」


「…直接教わったわけじゃないのに、その成績だったの?」


弟につけられた家庭教師。その授業を聞いているだけで覚えてしまった?

それだけでセリーヌよりも上の成績…クロエは天才なんだわ。


「私も最初は疑いました。

 ですが、学園の授業に目を輝かせて喜んでいるクロエを見て、

 本当のことだったのだと思いました。

 そんなクロエですので、報告書の書き方を教えなくても、

 清書しているうちに覚えてしまうのではないかと思いました。」


「そういうことだったの…

 たしかにクロエはそれで仕事を覚えたと言っていたわ。」


すべてセリーヌの計画通りだったというわけか。

たしかに同じ女官として働いているのに、

セリーヌが仕事を教えるというわけにはいかない。

セリーヌも仕事があるし、そんな暇も無いだろう。


「ですが、そのせいで他の女官から仕事を押し付けられていたとは思いませんでした。

 やっとクロエにも担当の仕事ができたのだと、喜んでいたのですけど…。」


叱られた犬のようにシュンとなったセリーヌに、

本当にクロエのことを心配していたのだと思った。

…ミランの言うとおりだわ。


「ねぇ、セリーヌ。

 私はもうクロエのようなことは無くしたいの。

 虐げられているものが無いようにしたい。

 女官だけじゃなく、教会も孤児院も。

 誰かを虐げて喜ぶようなものを排除したいのよ。」


「ええ、素晴らしいことだと思います!」


「だから、その仕事をセリーヌが手伝ってくれない?」


「え?私がですか?」


「うん。セリーヌなら任せられる気がする。

 女官長について、女官長の仕事を覚えてくれない?

 ミランの次の女官長になってほしいの。」


「…私ではなく、クロエのほうが優秀です。」


「うん、それはそうかもしれない。

 優秀かどうかで言ったら、クロエのほうが上かもしれない。

 でも、それだけでは女官長は勤まらないわ。

 全ての女官を見て、問題が無いか助けが必要か判断して、

 的確に声をかけたり手を貸さなければいけない。

 場合によっては切り捨てることも必要な仕事よ。

 だからこそ、クロエではなくセリーヌにお願いするの。

 女官長にはセリーヌが向いていると思うから。

 引き受けてくれない?」


「……クロエではなく私に……。」


セリーヌはクロエと一緒にいて勉強していた分だけ、

クロエの優秀さに劣等感を持っていたのかもしれない。


それでも困っているクロエに手を差しだしたセリーヌは強い。

セリーヌなら、この先改革をしなければいけない女官たちをまとめられるだろう。

少しだけ考え込んだセリーヌだが、顔を上げた時には心が決まったようだ。


「お引き受けいたします。」


「ありがとう!」


「女官長に報告してきますね。」


いそいそとうれしそうな顔でデイビットが部屋から出て行く。

新しい女官長が決まった。

ミランから仕事を受け継いでもらったら、すぐにでも交代になる。


クロエとセリーヌ。

信頼できる女官に出会えたことで、女官だからと怖がることがなくなった。

もう大丈夫。女官の制服を見て震えたりしない。

また一つ、乗り越えられた気がした。





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