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【書籍化・コミカライズ2巻4/16発売】ハズレ姫は意外と愛されている?  作者: gacchi(がっち)


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翌日、午後になってクロエから事情を聞けた。

午後になったのは、近衛騎士による女官三人の取り調べが長引いたからだ。

おとなしく罪を認めるかと思ったら、三人で罪をなすりつけ合っていたらしい。

調べに立ち会っていた文官が呆れたように報告書を渡してくれた。


渡された報告書を読んで、また怒りがこみあげてくる。

クロエは三年も前から仕事を押し付けられていた。

暴力については一年ほど前から…。

一年もあんな風に暴力を受け続けていたなんて。


もう少し早く気が付いてあげられたら良かった。

文官とばかり仕事をして、女官はほとんど会う機会がなかった。

ちゃんと女官とも仕事をしていたら、もしかしたら防げたかもしれないのに。


一人で王太子室に来たクロエは、まだ自信なさげではあったが、

最初の頃のようにおどおどすることは無かった。

デイビットや私たちに慣れたのもあるだろうが、

女官三人が捕まったことで安心したのかもしれない。


「じゃあ、クロエがどうしてあの三人の仕事をするようになったのか、

 覚えていることを話してくれる?

 セリーヌの報告書を清書していたことも関係するの?」


「はい。最初のきっかけはセリーヌの報告書を清書したことだと思います。

 頼まれたのは四年ほど前でした。

 当時、女官になって三年が過ぎていましたが、

 仕事がまったくできなくて、毎日女官室の掃除ばかりしていました。」


「指導係の先輩が仕事を教えてくれなかったからよね?」


「はい。女官として仕事ができなくて、

 本当なら女官を辞めるべきだったのでしょうけど、

 私は仕事を辞めたら行く場所がないのです。

 …ですので、雑務しかできなくても女官を続けていました。」


そういえば、伯爵家は養子の弟が継ぐと言っていた。

クロエがいるのに愛人の子を引き取って、継がせると。

女官を辞めても家には帰れないんだろうな…。


「セリーヌとは学園の時からの友人で、

 おそらくまともに仕事をしていない私を見かねたのだと思います。

 報告書を清書してくれないかと言われました。

 たしかに女官長は目を悪くして報告書を読みにくそうにはしていましたけど、

 セリーヌの字はそこまで読みにくいわけではありません。

 でも、仕事を頼まれて…うれしくて引き受けました。」


「セリーヌはクロエを助けたくて清書を頼んだってこと?」


「私はそう感じました。

 私にできる仕事を考えてくれたのだと。

 セリーヌの報告書を何度も清書するうちに、報告書の書き方がだんだんわかってきて、

 一年がたつ頃には自分でも報告書が書けるのではと思うくらいになりました。


 …思えば、そんな風に考えていたのが悪かったのかもしれません。

 あの三人にセリーヌの報告書を書くのなら、

 自分たちの報告書も書くようにと言われたのです。

 セリーヌのは清書だけだと言っても聞いてもらえず、

 期日までに書き上げるようにと…。」


あぁ、そういうことなんだ。

仕事を教えてもらえず何もできなかったはずなのに、

どうしてクロエが報告書を書くことができたのか。

四人分の報告書の書き方がとてもよく似ていた理由も。

クロエはセリーヌの報告書から書き方を学んだからなんだ。


「暴力を受けたのは、どうして?」


「最初は三人の報告書を書くのも嫌ではありませんでした。

 自分の名前で提出できなくても、仕事ができるのがうれしくて。

 でも、だんだん押し付けられる仕事が増えてきて、

 ほとんどの仕事を私が代わりにするようになると、

 やっぱりこれはおかしいんじゃないかと思うようになりました。

 だから、もう仕事を引き受けないと断ろうとしたのです。

 それが三人には腹立たしいことだったようで、

 暴力を受けるようになりました…。」


「はぁぁ。そういうことだったの。

 わかったわ、昨日のようにクロエが断ろうとしたのね。

 デイビット、クロエは何か罪に問われる?」


クロエの話を静かに聞いていたデイビットだが、めずらしく微笑みが消えている。


「…そうですね。

 書類を偽造していたとも考えられますけど、

 違っていたのは署名だけで、報告書自体には問題はありませんでした。

 暴力を受けて脅されていたということもありますし、

 クロエの罪は軽いものでしょう。

 そうですね、ソフィア様からお叱りの言葉があればそれで済むと思います。」


「え?私から?」


私がクロエを叱るの?

…昨日の夜のカイルとクリス、リサとユナからの説教を思い出す。

私がクロエを叱れることなんてあるのだろうか。


「えっと…クロエ。」


「はい。」


「もう二度とあんなことしちゃダメよ?」


「…はい。」


「何かあったらちゃんとセリーヌやデイビットに報告できる?

 もうクロエだけで何とかしようとしないで、

 ちゃんとみんなに相談してね?わかった?」


「…っ。はいっ!」


私に叱られると思っていたのか、小さくなっていたクロエが、

泣きそうな顔で笑った。


もうあんな目に遭う前にちゃんと助けたい。

だから、みんなに相談してほしかった。


「デイビット、これでいい?」


「うーん、まぁ、いいんじゃないですか。

 お叱りとは違うかもしれませんけど、それが大事なことですね。

 クロエ、もうわかりましたよね。

 あなたに何かあればソフィア様が心配します。

 だから、もう一人で抱え込まないでくださいね。」


「はいっ。」


良かった。ちゃんとわかってくれたのか、笑顔で答えてくれた。



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