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31.理由

女伯爵と騎士では、背中を押す手がある。

でも、この世界では私には。


何度も繋いだひんやりとした手を思い出す。

アーサー様は私の中でこの世界を思い浮かべた時、まっさきに思い浮かぶ人。


そして、私はアーサー様のおそらくたった一人の友人.....。

でも私にとってアーサー様はこの世界でというか、生まれて初めて抱きついて、抱き上げられたお父さん以外の男性で。


友達でいるのが辛く感じるほど、好きになってしまった相手だ。


アーサー様が一声かけてくれたら決められるのに、

「友だちじゃなくて、愛しい人。」

とでも言ってくれたら帰らなくてもいいのにな。


そんなことを考えていると、マイカル王子がノックをして入ってきた。



「エリゼ氏。アーサー王子から聞いたのでシー?」


全てはこの王子の鉄オタが理由だと聞くと、どうしたものかと思ってしまうが、色んな人と出会わせてくれて、ものすごく広い世界を旅させてくれたのもこの人だ。


「聞きましたよ。正直、今となってはマイカル様のことを恨むんじゃなくて、この世界に連れて来てくれて、ありがとうとすら思っていますが。どうして言ってくれなかったのですか?」


「私は、アーサー王子にずいぶん前から言っていたでシー。エリゼ氏とは向こうの世界でどんな関係だったのかもだいぶ詰められたでシ。でも、エリゼ氏を帰す手段もないことはないという話をしたら、自分が時をみて話すから内緒にするよう言われていたでシ。」


アーサー様も私のことを役に立つと思ってくれたのかな。だからキリのいいところまで置いておこうと。


「いうとしたら、もう友達ではいられなくなった時だと言っていたでシ。」


友達ではいられなくなった時。それは、どういう意味だろう。たしかに3カ国はつながる見込みができて、隣接国の権力の中枢とも太いパイプももうできつつある。


そして、エリゼは中枢から遠のいたどころか、今や生きていることすら隠されている不安定な立場だ。


「帰ることに支障はないけれど、居残ると支障は出るということかしら。マイカル王子はどう考えてるの?ここにいるか、日本に帰るか。」


「僕は今に満足してるでシ。見る、乗る、撮るだけでなくひくという楽しみを覚えてしまうと逃れられないでシ。それはエリゼ氏もそうでシ?」


「たしかに、めぐる、泊まる、伝えると比べて創る醍醐味はすごいと思うけど。もうアーサー様とお友達ですらいられないのなら.......。」


それも叶わないかもと言おうとした時。


「ですら、とは期待してもいいということかな。」


アーサー王子が部屋に入ってきた。


「盗み聞きを自分でやってしまうなんて、王族として恥ずかしいが、答えを保留されている状態に我慢出来なくなって。今決断してきた。」


決断?


「エリゼが、今書いているシーンが実現できて、3カ国のルートができたら。」


「ワンデイ3カ国周遊ツアーができるルートですね!色々な人が行き来できる道を作って1日で3カ国とも足を踏み入れる。究極の旅のスタンプラリー。ブラックトライアングルがゴールデントライアングルに変わるとき。ということですね!」


「そう、この地に恒久的な平定をもたらせたとき。」


アーサー様は、そう言って私を見つめた。

「私は臣籍に下るよ。王子でなく公爵となって領地を。海辺から広がる何にもない広い土地が今は王家直轄領としてあるんだ。王位継承権と引き換えにその広大な領地を得るんだ。王位継承権を手放すだけでなく、ライバルの消える異母兄に対価を要求できるようになったのもエリゼたちが創り上げてくれたこの土地の力だ。ありがとう。」


ジュル......。エリゼとしての気品が継承していなかったら、よだれを垂らしてしまいそうな話だ。海辺.....。まだ何もない......。


「ちなみに海は珊瑚礁ですか。砂浜は白い?あと、遠浅ですか?足がつけられるぐらい?対岸は?島はありますか。」


「あ、あの今いいところなのだが?」

「一世一代のシーンでシにね。」


「私残ります!友人じゃなくなっても雇ってもらえませんか。私、いい働きしますよ。海辺、リゾート作らせてください!」


思いっきり頭を下げる。


「いや、そういうことじゃなくてな。」


少し焦った表情のアーサー様に、私は本当の自分の心のうちを伝える。


「そういうことじゃないかもしれませんが、私に理由を下さい。この世界に残る理由。この世界をまだまだ旅し続けられる理由。」


アーサー様が好きだから、とまでいう勇気はないけれど。


「その理由を作らせないために、私がどれだけ我慢して友人であり続けたと思うんだ?生きてきた世界と違う世界にきてどちらの世界を選ぶのか。その大きな選択だけは邪魔できない。そう思ってきた。が、いざ帰ってしまうかもしれないと思うと。どうしても、撒き餌をしてしまったようだ。

もう、これ以上は友人でいられそうにない。私の伴侶として新しい旅先を作っていかないか?」


伴侶......。


「もちろんです。」

私は、深くうなずいたあと、気になっていることを尋ねた。


「あの、あの、サラのことはいったい?サラは友人じゃないって言ってましたよね。」


「サラは友人じゃない?あ、ハロテロプテムの夜のことか。友人じゃないから大丈夫と言ったこと?サラは、ボンブの友人じゃないと言ったつもりだったのだが。あの二人は婚約者だ。サラが男を警戒するのは、ボンブ一筋だからだろう。だから、私はサラを信頼もしているし、大切にしている。サラは乳兄弟の婚約者だから当然だろう。」


えっ。究極の美少年と野獣......な組み合わせだよね。恋人というよりも、スレンダーな猛獣使いが猛獣と戯れているだけの図だよね。


だめだめ。私、今がアーサー様の告白受けている最高のときだというのに。サラとボンブの組み合わせが頭から離れてくれない。


「僕もいるでシからね。お忘れなく。」

「席を外してくれても良いのだが。こちらから外すか。」


私は、アーサー様を連れて、外に転移した。


今の私の魔力では、日本一の花火大会を超える大輪の花火を打ち上げられるほどの強さがあるけれど。そんな人迷惑なことも出来ず、私たちは出会って間もない頃の線香花火のような光をほのかに出しながら、今までの想いを語り合った。


「いつからか.......。そう聞かれると、きっと出会った瞬間に何か特別な関係になる感じがしたかな......。でも、その感情を騙されてはいけないと抑え込んでいた。」


所謂、『出会った時に鐘が鳴る』というもの。

私の中でもそうだったのかもしれない。


もし、目覚めた時目の前にいたのが、別の人だったら。お礼は言っても無意識に、抱きつく前に自制できていた......ような気もする。


話しているうちに照れと、嬉しさ、恥ずかしさ。色々な感情が出てしまって魔力が溢れ出しそうになってしまった。アーサー様は繋いでいた冷たい手から、その魔力を使って、宇宙に幻想的な光の色を描いた。

オーロラのように輝く光のカーテンは、そらいっぱいに優しい光を描いく。


音のない光のショーはその日3カ国から見え、その雰囲気に呑まれて婚姻誓ったカップルが他にもいるとかいないとか。

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