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29.更に繋ぐ

マーガレット王女の婚姻準備と競争する様に私は執筆活動に励んでいた。

『女伯爵と騎士』の小説は、私に取って願ってもないチャンス。聖地を発展させて広げることのできるストーリーとなるだろう。


何しろマーガレット王女が治める領地は岩場とほぼ開拓されていない大地。

旅作りという視点で言えば真っ白なキャンパスで何を描いてもいいのだ。ただ、そのキャンパスだけに着目してはいけない。

導線をどう繋ぐのかも重要な視点となる。


私はナルシア様との折衝でやろうとしていたハロテロプテムの国境の地とのつながりを深めることから始める。『市』つまりバザールを開くのだ。


そして、その市をフリーポート化させる。それこそが、元婚約者に恐怖を与えてまでやりたかった本当のこと。

フリーポート、マレーシア西の特定の島だけは免税という制度を真似て、この国境地帯に関税のかからない市を作る。


この市で取引をすれば関税がかからないとなるとこの地は商人にとって魅力的な街になるだろう。

そうなると隣接3国から必然的にものが集まり、お買い物に目がない観光客も集めることができるだろう。


設置する関税はかからなくても、魅力的な商品の売買が進めば、商人だけでなく産地や加工事業者などあらゆるものが儲かって、結果的に税収も上がって国が豊かになるという仕組みだ。


ハロテロプテムに設置すること自体はナルシア様にも承諾はいただいているが、問題はその立地だ。


ハロテロプテムの国境地帯から程近いところには鉱山があり、鉱物加工も重要産業であることからその産業村からも近く、広くひらけた場所というのが1ヶ所あるのだが。


その地にグレイトヒルドやディストレアンから向かおうとするといくつかの沼地が点在していて、鉄道路線を向かわせるには不向きな地なのだ。


私はルーク様にまず相談をする。この世界には馬車も船もある。鉄道に使う動力も。


組み合わせればきっとできる。

『水陸両用バス』

バスの車体に魔力の動力を載せて陸を走らせ、沼の前では車輪を収める。

リゾート地に行くと良く走っている光景を思い出す。

今まで陸地を走っていたものが、水の上を進む。

その切り替えの瞬間、観光客は一体化して歓声が上る。そんな情景を実現できないかを相談したところ。


「それなら初めから最後まで魔法で浮かせて進んだ方が早くないか?」


と、ルーク様のご意見。確かに、ルーク様の繊細な魔法式を組み合わせれば、それも開発できそうだ。

じゃあ、私なぜ水陸両用車をって思ったんだっけ。


でも、

「それは違うんじゃないか。」

と、助け舟をくれたのはアーサー様だった。


「魔法で何もかもできたとしても、不便さも旅の醍醐味という本質を忘れてはいけないのではないか。あえて、そこはちょっとした利便性を演出した方が効果が高いということだろう。」


なるほど。と、言い出した私が逆に納得してしまうほどの理屈。アーサー様は本当に人の機微を良く見ている。

「すべての車両から音が出なくなって滑るように走るようになったら?きっとアーサー王子は生きていけないだろう。日常の生活に少し潤いを与えて補完する。その使い方が良いと思うな。」


ルーク様もマイカル様の変質的なまでの、機会音へのこだわりを思い出して納得してくれたようだ。

私たちはその夜、水陸両用車の設計について話し合い、ルーク様は開発に、私は水陸両用車でディストレアンとハロテロプテムを繋ぐことに奮闘する女伯爵の物語での物語の描写に集中することになった。


そして、もう一つこの小説の中で、私は夢を実現しようとしていた。

それは、バーホテル。


3カ国の文化が混ざり合った商品が集まる場所だからこそできるホテルの運営だ。

エリコは関西人。そして、関西人は自分で選択肢から選び取ることが大好きな個の強い人が多いといわれる。


発想の始まりは温泉旅館のシャンプーバーだった。

庶民的なホテルや時には温泉旅館でも壁にずらっと市販のシャンプーボトルが並んでいて好きなものをお試し利用したりいつも使っているものを選んだりできる。

このシャンプーバー、とてもお手軽に特別な場所に来た感が味わえるのだ。


更に、市の中で試食をしたり、商品のテスターを試してみても、生活とかけ離れた場所で嗅いだ香りや、舐める程度の味わいではあまりよくわからないことも多い。


だから、市と隣り合った場所に大きな宿を建てるのだ。お客様はまず入るとラウンジに案内される。

そこで初めに出会うのは紅茶バーだ。

3カ国はそれぞれお茶畑の産地を持っている。

貴族の方々は色々な産地の茶葉を取り寄せて、マイブレンドなんかを作っているが、それだと庶民にはハードルが高い。

だから産地名別の特徴を書いたポップをつけてブレンドせずに出すのと、ホテルで売っているブレンドを数種類並べてみる。ここに来るだけで、自分の最も好みのお茶を見つけ出せるなんて素敵だ。


そして部屋に入る前に選ぶのはアロマバー。お部屋でどういう過ごし方をしたいか、心弾む滞在をしたいのか、しっとり落ち着きたいのか、甘い香りと柑橘の香り、リラックスの香りどれが好きなのか。アロマポットはこの世界にはないから、ハーブやポプリなどを集めておいておく。


そして、もう一つ。この世界に今までなかった発想、館内着バーだ。この世界、王侯貴族や富裕層は素敵なドレスをいつも着ているが、庶民の服は、白だったりベージュだったりのストーンとしたワンピースがほとんど。でももっとカラフルに自分の好きな色の服を選んでも良いかと思い、庶民ワンピースに染色を施して上下のツーピース館内着を作ってみた。

日本の色浴衣の発想だ。これは、庶民には気分が上がるものだし、富裕層の方には窮屈ドレスを脱いでリラックスできる役割を担っている。


そして、お部屋で選べるのは入浴剤バー。

大きなホテル全体に供給できるほどの温泉を掘り起こすのは至難の技だから、色々なハーブやミルク、レモンなどを入れられり準備をしておく。


そして、もちろんアルコールバー。お食事に合うお酒をいく種類も用意して、飲み比べもできる......。


書いていると、日本の生活のあまりの便利さに、少し恋しく気持ちになってしまった。私は色々なものとコトに囲まれて生きてきたな。そして、夢を持っていた。


執筆が進むにつれて、懐かしいなあというような発言が増えていく私にある日、アーサー様がこう告げた。


「エリゼと友だちでいられるうちに言っておかなければいけないことがあるんだ。」






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