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27.小説の中の世界

岩山の間を鉄道が通る。


鉄道整備はマイカル様の独壇場なので、そこはお任せだ。

繋ぐのは、ディストレアンの国境近くの街バリアリーという街路線の元終着駅と国境の森だ。


岩山が割れたことで鉄道路線の充実したディストレアン鉄道網から一本の路線を通して、国境を超え、アーリーマント村に繋がる路線を結ぶ。


当然国を超えるため、国境地帯には停車場があり、国境警備による入出国確認が行われるようになっていた。


この世界でははじめての国際列車だ。

いずれ、ホテル列車として1車両1室の豪華寝台車両等も走らせて一大社交場としたい野望等もあるが、それをするには、グレイトヒルド側の鉄道網も伸ばし、2泊、3泊車中泊ができるコースを組んでからのお楽しみだろう。

一旦は往来人数を増やすため、一般客車と貨物輸送を可能とする。


ただし、貨物はともかく、客車には、あえて汽車でこの森を通って移動することに意味付をしないと用事がなければ乗らないものとなってしまう。


そして、この世界では、王族か進軍、大商人でもない限り、なかなか他国まで用事のある方は少ないのだ。


「いやいや、なぜ汽車に乗るのかは、そこに汽車があるからでシー。」


などとほざく.......、おっしゃる方もそうはいない。庶民の日常遣いには贅沢すぎる輸送手段である。


鉄道好きは、放っておいても勝手に蒸気や車両記号、連結部などのためにそんな贅沢もしてくれそうだけれども。

まだ、鉄オタという大きな市場はこの世界では広がってはいない。


それより先に市場として広げるために、『お転婆王女と護衛騎士』の小説のヒットを狙う。小説が売れるには.....。中身も大事だけれど、まずは表紙だ。この世界ではまだまだ厳しい皮や布張りのものが多い。そしてタイトルは文字だけだ。


私はマーガレット王女の美麗イラストをモチーフに焼印を作り、表紙と背表紙にイラストをつけた。また、これまでになかった本の中の挿絵についてもふんだんに入れる。


そして、もう一つの技は、テーマ曲である。

文字で心の琴線にふれるためには、読解力や想像力によるものも大きいが、それを補完するために本の最後のページを開けた時。ソープカービングの時に使った魔法を応用して切ないメロディーが流れるようにした。そうしたことで、読者は余韻に浸って本の感動を周りの誰かに伝えたくなるだろう。


本の製作は、新たな事業にとルーク様に魔力テーマ曲を綴じ込みできる製造機械自体を作っていただいて、グレイトヒルド、ディストレアンで商人を通して王都や大都市にも流通してもらったおかげで大ヒットした。


そして、私へのお供え!?として入手したところ、あまりにも素敵なお話だったのでという理由を作り出してハロテロプテムでの流通経路も作り上げた。


そのおかげもあって、若い女性たちの間で大ヒットすることとなった。


そして、小説がヒットするのとともに自然発生的に増加するもの。


それは、聖地巡礼である。小説の主人公の通ったあとを追って思い出に浸り、完全に主人公になりきれる旅。

今回の私は、旅ライターらしく聖地づくりと並行して小説を書いていた。


マーガレット王女がお転婆だった子ども時代のシーンに描いたのはアーリーマント村だ。


お転婆という言葉ですむかはともかくとして、グランピングリゾートとそれを取り囲む森はお転婆大歓迎の雰囲気がある。特に森は、ロープを吊るしてブランコ造りをしたり、キノコ狩りをしたり、川で手掴み釣りをしたり。いずれもわくわくもするけれど、ちょっとした危険も隣り合わせだ。


私が森に食材探しに入った時には、野生児のボンブや弓の名手のアーサー様など、危険の方が逃げていってしまいそうな人達と入ったためとてつもない安心感があった。

その見守られて安心感を得られるということ自体が主従恋愛の醍醐味でもあるので、私の気持ちを代弁してくれるようなほんわか過保護シーンを豊かな自然の風景とともに描いた。

そのシーンを描いている間、私の頭の中ではマーガレット王女は私に、失礼ながら護衛騎士はアーサー様に置き換わっていて感情移入はマックス状態だったから。

きっと聖地としてこの森を訪れた時には、自分の理想の護衛騎士さまを思い浮かべると、森の自然に輝きが見えたりするだろう。


ドキドキシーンの後に、その日の思い出を一緒に語るシーンの背景はグランピングリゾートのラウンジだ。

揺れる炎を一緒にじっと見つめるというところは実体験してみたいと思てくれると期待している。


思い出は食材とともに。聖地巡礼に潤いを追加するのは、美味しいお菓子や食事だ。森でとった食材を蒸すシーンでは、王女が蒸し器を取り出す体験をするとすかさず護衛騎士が、氷で手を冷やしてくれる。この体験談はアーサー様の心地よく冷たい手の感触。私の思い出話をしっかり盛り込ませてもらった。聖地巡礼でこのシーンを味わえるよう冷たい手のお相手はご用意できていないが、熱い蒸し器取り上げたあと、爽やかな風で手を落ち着かせてくれる装置をルーク様に作ってもらった。


このグランピングリゾートの後は、ここから一等列車に乗り込む。

一等列車も巡礼先の一つとして小説にも二度出てくる。一度目は騎士と二人の視察に向かう幸せシーン。

一等車らしいふわふわの座席に腰掛けて、アフターヌーンティーを食べながら移動するシーンだ。

王族視察であるから、列車は貸切で、危険がないにもかかわらず、お茶が揺れで溢れ落ちないか、お菓子が溢れてしまわないか、突然の揺れで口の中を噛んだりしないかと、王女が笑ってしまうほどの過保護っぷりを描いたもの。


そして二回目のシーンはフィクションクライマックスのシーン。岩場が割れる終着地まで、王女一人で列車でロイを追いかけるシーンだ。


一度目の列車シーンと同じ内装車輌を描くことで王女はロイを追いかけている間、幸せだったあの日を思い出して、やはりロイを手放せないという想いを強くしていく。


列車という聖地巡礼をされる方にとっても非日常の世界で、きっと読者はどっぷりロマンスに浸ることができるよう、列車では再現アフターヌーンティーも実際に出せるようにした。


再現アフターヌーンティーをいただきながら岩場に向かうと、クライマックスシーンである、割れた岩場に光る水の粒が降り注ぐ様子が3Dマッピング魔術で再現されるようにしている。


割れた岩の間を列車が通り過ぎる間、車窓は光の粒たちに包まれて、車内も幻想的な光に溢れる演出だ。


このシーンの後、平坦な岩場の奥に建てる建物は3Dマッピングで王女とロイが幸せに暮らす様子が再現される。






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