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24.復讐は綿密な計画で。

マーガレット王女様の説得を、マイカル王子に託して待つ間、私たちはデューイ王太子側の作戦の決行に向けて準備を開始した。


まず、冷静に計算ができそうなナルシア様に協力者となってもらう必要がある。ナルシア様はマリー様の助言に従って、か弱いフリを天才的にこなしているだけだろうから、彼女にはありのままの事情と、目的を話して味方につけておく。


接点があるのは、マリー様。なんと恐ろしいことにマリー様はナルシア様が王太子の婚約者となって王城に上がってからも一見して普通の手紙に暗号文を混ぜておくということを継続できるようにしていると、私たちに明かした。


「ナルシア……様には、私が全てを暴露されてこの地にいることも知っているし、辺境伯様とトリムもきちんとした絆で通じ合ったことも知らせています。その上で、トリムが将来治める地が発展して武力なしでも国に貢献を認めさせるようになるというのであれば、間違いなく協力してくれるでしょう。」


あと、デューイ王太子については、今となっては黒歴史だが、私が最も長く婚約者期間を過ごしてきたため、私から説明をする。


「デューイ様がナルシア様に権限を渡すとすれば、自分可愛さで逃げたい時だわ。あの人は自分を犠牲にしてという言葉を知らないの。自分を引き立ててくれるナルシア様も自分の次には好きだと思うけれども。あと、本人の魔力と魔力感知力は高くはない。全くないわけではないけれども。」


「酷い評価だな。だが、魔力感知力が微力でもあるのなら、近寄るメンバーは魔力がないものに限るな。遠くからどこまでできるか。エリゼが生きていることを相手が知らないことを活かして。」


「ルーク様、こういった装置はお願いできそうでしょうか。」

「コリース様、私と一緒にルーク様の装置に組み込む魔術式作りにご協力いただけますか。後、魔力を死者が使っているように見せかけるような魔術式が作れないかどうか考察したいの。」

「サラ。あなたには絵柄をお願いしたいの。」

「ボンブ、魔力なしで最も動けるのは君だ。ハロテロプテム城に潜入して屋根裏への侵入経路を図面にしてもらえるか。」


アーサー様と私のお願いに従い、精鋭軍総出で準備にあたる。

その間にマリー様からナルシア様に文を出し、承諾の返事を得ていた。しかも、作戦を知ってなお、演技できる自信があるため、当日も助力するとのことだ。対価として、詳細打ち合わせの際は、グランピングリゾートで双子のトリムと会いたいとあった。アーサー様はマリー様にその約束を承諾すると伝えていた。



死者が使っている魔力というものだけが、エリゼとして魔力スキルを完全にとり戻した今でも想像できない。


「今まで見たこともないくらいネバネバした魔力を組み上げて腐臭と冷気を混ぜこむ。で。あとはあえて、死を連想させる色を魔術に混ぜることですね。」


と、コリース様が私に見せてくれたのは、スライム状の真っ黒と真っ赤な固まり。


「ポイントは、腐臭と冷気の比率ですね。かすかに感じるという程度に混ぜ込むと、魔力感知力が鋭敏でない人が魔力を感じるのと同程度に感じる。あとは腐臭と冷気の持続性。香水でいうと、はじめにふわっと香るトップノートが魔力、ミドルノートを腐臭にして、最後に残る感覚ラストノートを冷気とする。そうすると効果的ですね。」

論理的に恐怖作りを語るコリース様にかかれば、幽霊だって輪切り分析されそうな恐怖に逃げ出してしまいそうだ。


絵柄づくりは、アーサー様、ルーク様の写実チームと、私とサラのイメージチームに分かれた。エリゼは完璧令嬢だといわれていたが、この絵の才能のなさはどうなんだろうと思うが、精密な魔術式を書き込む能力や、女性ながら備える剣の技術力とは全く関係ないから今まで周囲には知られてなかったのだろう。

家庭教師で学ぶこの世界の女性の弱点は、家庭教師と両親以外は知る由もないのだろう。


私たちは決行に向けてハロテロプテムの王城近くに転移した。フルスペックの魔力を持ってすれば、生まれ育った馴染み深い土地に複数人を同時に運ぶことなど造作もないと思ったのだが。


一緒に飛んだ面々は驚愕の表情でこちらを見ていた。転移魔法はたしかに使える人も少ない高度魔法。複数人となればなおさらだ。それをその土地に行ったこともない何名もの人を同時に飛ばせることを知って。

「国防って、いったい……。」

と、軍務に疑問を持たれてしまってもアーサー様に迷惑をかけるだけなので、作戦に集中してもらうよう発破をかける。

「奇襲作戦で成功の確率があるのは、たった一回。頑張りましょう!」


エリゼであって、エリゼでない私が、公爵家に帰るわけにもいかないため、宿屋に泊まってひとまず準備をする。身分を隠しているが王子のアーサー様を止めるのに安宿という訳にはいかず、目立たないように中級程度の宿に泊まる。

ふと、この世界に来て、お客様としては初めてのホテルだわ。と旅マニアとしては、ビジネスホテル並みの設備の宿でも、アンティーク調の家具を見たり、寝心地の違いを感じたりとテンションが上がってしまうのは、仕方ないだろう。


作戦のポジションは3箇所。最前線となる城デューイの私室担当は、魔力を持たず身体能力の高さが必要となるため、ボンブとサラだ。その状況把握と遠隔地を繋ぐ中継点の役割はアーサー様とコリース様。察知能力、遠隔攻撃能力、遠隔地との魔力を用いた交信能力に長けた二人だ。最後は遠隔地で、ルーク様と私だ。


アーサー様は、密室となる遠隔地部屋で、ルーク様と私を二人きりにすることに強固に反対したようだが、

「今、エリゼ様に無体を働けるはずものは、この世界には存在しません。そうしようとした瞬間に火山の噴火口にでも転移させられるのがオチですから。あと、部屋の出入りに転移を使えば、部屋に二人きりになったという事実はここにいるメンバー以外に知られることもなく、変な評判も立ちません。」

と説得して、やっと折れてくれたようだ。


「こんなことならマイカル王子にもきてもらったら良かった」

などと言いながら……。

「でもサラもボンブと二人きりですよね。それは認めるんですか。」

と抗議してみると。

「サラは大丈夫だ。友人じゃないから。」

友人じゃなかったら何なのですか。

思わず出そうになった質問を、無理に飲み込み、私は話を終わらせた。


「もう!私への心配っぷりは、じゃあ私のお父様ということですか!?」

「お父様????」

アーサー様は突拍子もないことを言われて珍しく動揺していた。


友人......。その関係は、素敵でもあるけど、硬くて......、重い.......。



王太子様とは、まだ婚約段階のナルシア様は王太子様私室と一枚扉で繋がっている隣の部屋に私室をもらっている。

作戦を決行するのに非常にありがたいその部屋には、今日は人払いをしてもらっていた。

少し気分が臥せっているからほっておいてと侍女に告げる演技を屋根裏からみてサラとボンブは、

「やっぱりその演技力怖い。」

と、ナルシア様は敵に回してはいけない相手だと再認識したようだが、当のナルシア様は、サラが屋根裏から下りて目の前に現れた瞬間、演技を忘れてサラに見入ってしまっていたようだった。


「私の王子様。」


と、サラに向かって呟くナルシア様に、

「いやいや、あなたの本当の王子様は正真正銘の王子様でしかも隣の部屋にいるから!」

というツッコミを抑えるのに苦労したという。

とはいえ、これでナルシア様は完全にこちら側に引き入れることができただろう。


ナルシア様の部屋で深夜になるのを待ち、ボンブの動物的聴力で扉を介してもの音を聞き、王太子様の寝息を確認して王太子部屋の天井裏に移る。


中継班はルーク様特製魔法器具を王太子の部屋が覗ける位置にあるナルシア様の部屋のバルコニー取り付けて、その存在を結界で隠す。


遠隔班では、ルーク様と出来るだけ別部屋にいるよう指示されていた私は、着替えを理由として宿屋の別部屋で準備をした。私はともすると大好きで今日も私たちの目標のために頑張ってくれている大切な友人であるサラに嫉妬してしまいそうになる罪悪感と戦っていた。


でも、今日はそんな負の感情さえも活かして作戦を決行しなければ。と、今日のシナリオをもう一度おさらいして時間を待つことにした。


そして、いよいよ作戦決行の時がきた。



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