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17.私は

私は踊った。

いや、踊らされていた。


エリーゼの記憶の中でダンスのステップを覚えている。ただどうしてもステップを考えながら踊ってしまうため、テンポに遅れそうになるのは致し方ない。

しかし、途中から無心になってアーサー様のリードの導かれるままにしてみると驚くほど体の動きが直に馴染んだ。


斜め上方向に飛び上がって斜め下に飛び込むそんな風の中を踊ってるような心地よさに気分も高揚してくる。


握られた手と腰に当てた手からアーサー様の低い体温を感じて、身体の中を涼しい風が吹き抜けるようだ。


「この舞踏会が終わったら聞きたいことが山のようにあるのだが。謎のまま終わらせるわけにはいかないから。」


人々の温かい味や羨望の眼差しと相反するように、アーサー様からのささやきは、つないだ手と同じでとても低い温度を保っていた。



舞踏会は盛況のまま終わり、集っていた人々はそれぞれ帰ったが、マイカル様はそのまま辺境伯邸に残ることとなった。

作っていたソープカービングの花びらは全て配り終えられていたので、広報活動としては大盛況だっただろう。この地の近くに住む方々からはありがたいことにリゾート訪問のお約束をいただけたり、出入りの商人に紹介してくれるとのお話もいただけた。


その夜、いつもの魔力放出時間は、マイカル様も、辺境伯家の方々もこの場にはいない。

アーサー様は私の魔力を炎ではなく、軽い結界に変える。


満点の星空のもと、ガラスドームに二人きりの沈黙の時間が流れていた。

アーサー様は、辛そうな表情の中、口角を上げて沈黙を破った。

「エリゼは、以前嘘をつかないと言った時にこう言った。『少なくとも私はグレイトヒルドの王侯貴族の方はアーサー様のご関係者以外の方は存じ上げませんし、繋がってもいません。』この言葉は一言一句違わず覚えている。」


思わぬ方向からの問いかけだ。


「マリーは私の関係者だ。叔父の妻、義理の叔母だからな。だから、マリーとエリゼが共謀してこの地を落とそうとしていたとしても、嘘はついていないことになる。」


ぽかん。


私の開いた口をみて、アーサー様は不思議そうに。


「違うのか。」


ここまで来ると私は真実を話してみる方にかけるしかない。


「私は、事前にマリー様と繋がりすら持ちようのない素性なのです。信じていただけないような。」

「はじめて軍の前に現れた時、豪奢なドレスに全く荒れていない手をしていた。とても、貧困層には見えないがな。」


アーサー様の笑みが少し皮肉げに変わった。


「確かに貧困層ではありません。一般庶民、といっても全く違う世界の一般庶民なんです、私。」

「違う世界?遠い国から流れてきたということか。あの有名なエリゼと同じだけの魔力容量を持って?」


どういえばわかってもらえるのかはわからない。

私自身がどうしてここに来たのかわかっていないのに。


「遠いかどうかをわからない。全く違う世界なんです。多分。魔法なんてないけれども、魔法以上にある意味便利なものがあふれている世界です。人々は1日で世界の端から端まで移動することもできる。行ったことがない地であっても。通信用の機器もあります。魔法で便を飛ばしたりしなくても。手に持っている機械から全く第三者を呼び出して、すぐに話を始めることもできるし文字メッセージも送れる。文字だけじゃなく画像、そのまま、なんて言ったらいいんだろう今見ている世界そのものを送ることもできてしまう世界です。」


ぽかん。


今度は、アーサー様の口が開いている。綺麗な顔の人は、口を開けていてもマヌケではなくカワイイようにみえるんだなということにある意味感心する。


「でも、意識はそんな世界から来てるんですけれども、この体と力は本物のエリゼ様のものです。本当に信じてもらえないかもしれないですけど、私のこの世界の意識の始まりは、エリゼ様を応援するところからだった。あのハロテロプテムのボンクラ王子になぜ怒らないのかと。エリゼ様はその後、怒って火山を爆発させて。意識を失って、起きたら私が入っていて。エリゼ様の記憶と私の記憶がぶわあっと混ざって。」


こんな話、信じてもらえるはずもないよね。


アーサー様が大きく手を振り上げた。


殴られる?拷問⁉︎


という言葉がよぎったけれど、その手は私を抱きしめることに使われた。


「最高だ!最高の謎!!面白いじゃないか。異世界の人だなんて。それでこそ私の友人だ。」


アーサー様は、今まで見たこともない満面の笑みを浮かべていた。


「おおほら吹きだとか思わないんですか。こんな話信じるのですか?」


「いや、素直になぜか信じられるんだ。まず間違いなくハロテロプテムのエリゼだということはその魔力容量が証明している。ただ、はじめてあった時、火山がうちへのプレゼントだとか謎を投げかけてその答えが温泉だったり、名物として地面も熱を利用した蒸し物を作るとか、どう考えてもハロテロプテムの文化を踏襲しているようには見えない。本当に何ものだろうってずっと疑問に思ってた。一流のスパイにしては、やっぱりその鈍臭具合があまりにも自然だし。」

そう言って、馬に馬鹿にされた時の私の様子を思い出したのかクスクスと笑い出していた。


「では?謎がとけてしまって、ただの別世界の一般庶民だと知ってどう思われました?そもそも、一般庶民なんて王子様の友人になんてなりようもないのですから。」


私はアーサー様の腕の中で俯いてしまった。


「いやいや、他の世界の人。これ以上の救世主があるかい?今や産業も停滞し、次期辺境伯は剣術を習得できない。そして私は立場の怪しい第二王子。こんな停滞した環境行. 救える人いるかなって思ってたけど、もしかしたらエリゼならば。そう思っているよ。」


ニッコリ微笑んでいたアーサー様はその後すぐ表情を陰らせた。

「ただ、あなたが他の世界の人と聞いて1つだけ疑いが出たんだけれど。マイカルとエリゼはもしかして同じ世界の住人なんだろうか。」


「それは私もわからないんです。ただてっちゃんと鉄と言う表現私には理解できてしまうんですよね。」


「そうか。マイカルについては謎が多いんだ。敵か味方か判断していく必要があるだろうね。」


そして、アーサー様はどこか晴れやかな顔をして私のことを見た。

「ともかく1つだけ問題は解決したようだ。マリーとあなたが共謀していないと言う事は、あなたをハロテロプテムに返す必要はないということ?そしてエリゼは作戦じゃなくもうハロテロプテムの王太子の婚約者ではない......。」


「ですね。」


良かった......。渡行のようなつぶやきが聞こえて私を抱きしめる手が、より強く私を包み込む。




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