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14.それぞれの思惑

「ナルシアの後にディ......。ハロテロプテムでは意味を持たないのか。」


聞けば、グレイトヒルドではナルシアというのは7人の聖徒の名前と同じ。そしてその後にディをつけると聖徒が母体たる聖女を探すという神秘的な意味合いがあるそうで、王侯貴の落としだねにつけられる名前だそうで。


ナルシア様はグレイトヒルドの王侯貴族にゆかりのある可能性があるということか。


ということは、私の嘘もバレるのは時間の問題かもしれない。エリゼが本当に見捨てられたという立場であることが。


ただ、辺境伯のお立場などがわかっていない以上このディナーの席は何事もないように乗り越えなければ。


「そういえばトリムは短剣の練習をする気になったかな。」

私より先に話題を転換してくれたのは、アーサー様だった。


そう言った瞬間、トリム様の脇腹にポスッと音がしてボールがぶつかった。


「痛っ」

「はは、痛くはないでしょう。ちゃんと調整はしておきましたから。」

と、逆隣のルーク様の声。


「あとはこれですな。」

と、フルーツカービング用のナイフを渡す。

そのナイフ。

「守れ。」

と声をかけると、本格的な短剣に形状を変える魔法器具だという。それで、まずはフルーツカービング用のナイフ触っているタイミングのどこかで不意に襲ってくるボールを切って割っていくということらしい。


トレーニング器具と言いつつ、トレーニングをしようと思えば、フルーツカービングが進という辺境伯の息子さんもこき使ってしまう便利アイテムであった。


芸術的センスあふれる軍人たちに多く広まれば、労働力には困りませんからね。その試作品です。


マリー様は、

「トリムはその練習で満足できるのですか?」

と気にかけておられたが、辺境伯はそのトレーニング方法に

何も口出ししてこなかった。

辺境の地を守る代表が、何も言わなかったのだからなんらかの効果はある方法なのだろう。


そのあと、話題は自然に舞踏会の演出は綺麗に装飾されたフルーツを利用してコストを下げていけないかという方向に移っていき、ディナーの場ではナルシアさんとエリゼに対する深追いはなされなかった。


ディナー後、私はアーサー様といつもの魔力放出作業を実施していた。

私の心情は魔力の蓄積料理長に影響を与えるらしく、今日はまた線香花火のような弱々しい光だ。


「今日の夕方、エリゼは何か言おうとしていたよね。」

アーサー様の優しそうなトーンが今後どう転ぶのかがつらい。

「エリゼは私に辺境伯邸で何を聞いても驚かないでと言った。それはハロテロプテムの王太子に婚約破棄をされていたことが作り話だと言っていたのかな。貴女がエリゼであることはその魔力容量の大きさからいって嘘じゃないのだろう。とすれば、エリゼが極秘任務のために死んだという状況を作り出すために王太子は婚約破棄を?でも、それには新婚約者のなるナルシアに関わるグレイトヒルドの貴族の誰かの思惑もきいていそうで。私は、誰を信じればいい?」


そして、苦しそうに呟く。


「できれば、信じたいのはエリゼなのだが。信じると辛い......。」


どこまで信じてもらえるだろうか。


「私の嘘は、私がここに来て火山を噴火させたのは極秘任務ではなく、私はもうハロテロプテムの王太子様に何かを進言できる重要な立場どころか、人質にする価値もない人物に成り下がったと言ったらアーサー様は私を殺しますか?」


ストレートに尋ねてみる。


「それは、逆だな。ハロテロプテムのためにグレイトヒルドや、この地域を脅かす可能性のある立場であれば、どんなに良い関係の友人であったとしても、私の立場からいうと切り捨てざるを得ないことがある。その陰謀にグレイトヒルドの貴族が関わっているとなると尚更だ。」


と言って、アーサー様はまた苦悶の表情を浮かべた。


「アーサー様、正直に言いますと私は嘘をついていました。その方が生き延びることができそうだったから。でも、きっと真実を言っても信じてはもらえないと思います。」


別の世界から転移してきましたなんて、あっさり信じる人なんていない。というか、貴方は小説の登場人物(しかも端役だ)なんて言えるはずもない。


「でも、少なくとも私はグレイトヒルドの王侯貴族の方はアーサー様のご関係者以外の方は存じ上げませんし、繋がってもいませんわ。それに、この国を発展させたいのも本当、本気でグランピングリゾートを発展させたいのも。だから私の素性以外今後とも嘘をつかないことは誓えますわ。」


アーサー様は苦しみを残したまま、微笑まれた。


「私に話せるなと思った時真実を話してくれないか。エリゼには大きな素性の秘密がある。それが真実で、これからの私たちに新たな嘘はない。それはわかった。」


剣を使って脅してでも聞いてくれたら、私は楽に話せるのにとんでもない度量を持ってアーサー様は私を受け入れてくれた。だから私はこの世界を小説の世界だと忘れることができるような日が来たらアーサー様に真実を話そうとそう自分自身に誓った。


辺境伯邸での毎日は舞踏会の準備に追われる日々だった。

グレイトヒルドの郊外、つまりはこの国境の地に少しは近い貴族や富裕層の皆さんを招き、国境地帯への興味を広げてもらうようにする。それだけではもちろんお客様として足りないから他国と行き来をする商人たちもターゲットとなる。


それに、今回の売りとなるフルーツカービングだが、トリム様以外にも配下の部下たちも剣のない時に咄嗟に身を守れる策として短剣練習を始めており、特に芸術的センス溢れる数名は、空き時間に嬉々としてフルーツカービングを実施してフルーツが足りなってきた。


そのため、追加でソープカービング案も提示した。ソープカービングは、飾りとして使ったものをそのままお土産にもできて重宝しそうだ。


ソープカービングについては柔らかい彫り物のため、特に短剣のトレーニングなどせずとも、女性でも簡単にできるし、うまくいけばリゾートや商人を経由して販売もできる。

辺境伯家の周辺には野生のハーブなども植わっている区域もあるからそれを混ぜ込んだ香り良く見た目も良い石鹸は富裕層に受け入れられそうだ。


私は、奥方であるマリー様と一緒に領の女性達を集めて、ソープカービングのノウハウを伝える活動を始めた。


マリー様は共にお屋敷を出て村々に行くと、ソープカービングの腕にも驚かす技術があったが、とても気さくで優しく温かい人柄にも魅入られずにはいられなかった。


貧しい家に行く時は、手土産として出来上がった食事を持っていきハーブの買取や加工賃等の提案もしていた。


裕福なお家の奥様とは、ソープカービングを優雅な趣味としてお茶を飲みながら楽しむ。

どの世界でも、女性が集まって習い事となると、手より口を動かしている時間の方が長い。

おしゃべり、お茶、ちょこっと作業中におしゃべり、いつの間にか手が止まっておしゃべりに集中というのはマダムの集まりとしては普通の光景となる。

その話題は、洋服、食器とものに関するものが多いが、辺境伯領の上位領民は軍務等の役割のため、旦那様や息子さんの剣術腕の自慢話がどうしても多くなる。


「そういえば、トリム様は剣の師は誰に定めますの?辺境伯様では強すぎるというのでしたら、私の夫デービットが最適ですわ。剣の流れが、性格ですの。」


そういった売り込みも多いが、マリー様は曖昧に微笑んで。

「旦那様の耳には入れておきますわ。」

とだけ、答えていた。

ただ、辺境伯様は奥様からの剣技に関する情報については、

剣技は女性の口から語るべからずというべく無視を決め込んでいるようだった。


準備も着々と進み、いよいよ舞踏会当日の朝、辺境伯爵家は不穏な空気に包まれていた。


招待客はまだきていないが、早馬が1頭到着し、アーサー王子に報告がなされていた。


アーサー様とルーク様だけが入っていたその部屋に、辺境伯だけが呼ばれていった。



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