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12.瓜の庭にて

「ところで、アーサー様の乳兄弟ってどなたなのですの?」


お昼寝による休息でやっと立ち上がれるようになった私は、アーサー様の誘いに応じてお庭を散策させていただくことにした。


玄関扉のところで、アーサー様とお会いした瞬間、お誘いのお礼すら忘れて開口一番私は、気になっていたことを聞いた。


乳兄弟。小説でも王子様の乳兄弟というのは良く出てくる役回りで、王子に唯一苦言を呈することができる立場だったり、ヒロインと王子様をつなげる重要な役割を担っている。そして、将来は宰相になるような大物の人物。大抵は王子の唯一の友人を兼ねているよだが、なぜ、王子は乳兄弟のことを友人と思っていないのか。少し疑問に思ったのだ。


「私の乳兄弟は、ボンブだ。」


えっ......。ボンブ=脳筋=ゴリラの子育て的な絵面が思い浮かんでしまって時が止まった。

ゴリラの子育ては分業制で乳離れするまでは母親一辺倒で少し大きくなって理性が必要なシーンとなってからは父親が教育するといった本で読んだ豆知識が頭をかすめる。


乳兄弟というどこか神秘的な響き、本音での議論など思い浮かべていた妄想は吹き飛んでいく。


「それは、さぞかし激しいミルク争いを繰り広げられていたことでしょうね......。」


と、思わず浮かんだ絵面通りの感想を述べてしまったが。

王子は、失礼とも言わず、ボンブの母君についても話してくれる。


「ボンブの母親ってボンブにそっくりなんだ。」


......。

またしても節句。あの外見を女性には......。想像ができない。

「もちろん、外見がじゃないよ。」

もちろんという言葉も失礼かと思うがままにそこはアーサー様は乳兄弟絆と愛のある発言だととっておこう。


「女性騎士なのに、筋力命で。とにかく正義と強さにこだわりがあって。一度心を開いたら一生懸命尽くしてくれるのに見返りとか理由とかいらなくて。ルークの母君も候補に上がっていたんだけれどもね。侯爵家のご婦人で、ものすごい才女としても有名。政治をさせても、学者としても夫妻とも適していると言われていて。その嫡男ともなれば、優秀でないはずがない。で、私を乳兄弟として将来の絆を太くする。」


そう、それこそが乙女小説の世界!憧れの絆!なのでは?


「となると。私の命が危なくなると、母はふんだんだ。力のありすぎる第二王子が呼ぶのは王位継承権争いのドロ沼の争いだ。だから、母はボンブの母君を乳母にした。王位継承権争いに参加しないことを宣言するためにね。」


だから。そう言ってアーサー様は真剣な目でこちらを見た。

「友人だと思うからこそ素直に明かしておこう。エリゼが将来の国王同士のつながりを期待して私に近づいて入りとすれば、作戦失敗だ。それでも、私に手を貸してもらえるのか。今のうちに確認しておこうと思ってね。」


お庭を夕方の気配を感じさせる涼しい風が吹き抜ける。

アーサー様は、私に誠意ある対応をしてくださっている。私も...,..。正直に言わないと。もうハロテロプテムの王太子の婚約者でないって。


「あっ、私も...,,。」


そう言いかけた時、私は東屋からこちらをじっと見ている目線に気づいた。

あれは、辺境伯のご子息トリム様。


軽い巻き毛の金髪が幼気に見せているが、14、5歳だろうか。不安気な表情が、落ち着きがないようにも見える。将来の辺境伯というイメージではなく、線が細い感じでもある。


「あの。」

向こうから私たちに話しかけてきた。無言でじっと見られているのも心地が悪いので声をかけてくれるのは助かる。

「僕に剣術を教えてもらえませんか。」

どうやらトリム様の目的はアーサー様。

手には立派に装飾された剣が握られている。


日頃、野生児のボンブと一緒のいるせいで、痩せ型に見えるアーサー様ではあるが、実は剣力、魔力共にかなり鍛えている様子。ただ、トリム様のお父上は辺境伯。故に剣術は最も得意とする分野だ。なぜ、従兄弟とはいえ一国の王子に頼むべきことではないような。


トクントクント トクントクント


返事を待つ間、静けさの中にトリム様の心臓の音だけがしている。


「剣術というのは一朝一夕に上達するものではないし、毎日を君のために私の時間を費やすわけにはいかないんだ。」

アーサー様は一瞬押し黙った後、毎日、私のチョロチョロ魔力の使い切りに携わっているのは大丈夫なのだろうか。


「ただ、ルークに何かを作ってもらうようにしよう。まず、君にその剣は合っていない。護身だけなら短剣という手もあると思うが。短剣は、素早さと器用さが要求される。敏捷性を伸ばして、器用さを活かす。それが最適解だと考えるがどうだろう。」


「そうですね。自由自在に短剣が扱えるようになれば、ここにある瓜科果物たちに価値を10倍にも20倍にも出来ますしね。それは素敵ですね。」


断られて諦め顔をしていたトリム様に変わって、私がアーサー様に賛同してしまう。


ここにある瓜科果物というのは、辺境伯邸でアーサー様が私を案内しようとしていたお庭。

玄関から東屋までの狭い空間だけはなんとか貴族の邸宅然とした花とトピアリが整然と並んでいる。

普通はウサギなどの小動物や鳥など平和的なモチーフがトピアリーのイメージだと思うが、獰猛そうな熊だったり、甲冑だったり、やたら力強そうなトピアリーが並んでいるのは辺境伯様のご趣味だろうか。

ただ、技術的に優れているのは確かで、私はグランピングリゾートにあるサラ作オブジェはこの庭師さんにだけは見せられないなと苦笑してしまった。

本物の芸術センスのある方が作った作品は、植物で作っても固そうなものは固そうな質感まで作り上げている。

東屋横の花のアーチをくぐった先には表からは見えように、ごろごろのスイカのが地面になっていたりしている。ツヤツヤでいかにも甘さを訴えかけて来るような大きさだ。

そして、その奥にはメロンのツルが伸びたコーナーがあり、淡く実ったメロンの実を守るように濃い緑の大きな葉がかかっている様子が見える。


瓜科果物を眺めて器用な短剣というかナイフという言葉を聞けば、エリコの世界のリゾート好きにはピンとくるはず。


そう。フルーツカービング日本語で直訳すると果物彫刻。

フルーツにナイフで模様やイラストを彫り込んでウェルカムの気持ちを表したり、ブッフェも飾り付けなどに使われているあのフルーツたちだ。


まあるいスイカの表面やメロンの表面に文字を含めて彫り込むのも素敵だが、上級者になると、スイカの内側の赤を活かして薔薇の形を表現するなど、芸術品の域まで達することもできる。


元々はタイ王朝に由来しているというから、王国制のこの国では、上流階級が楽しむのにはぴったりだと思う。


その域になると繊細なナイフで細やかな線を描く必要が出てくるけれども、護身用の短剣訓練に取り入れてもらうことはできないかと探れば、軍人運営という一風変わったグランピングリゾートで大きく活用できるのではないかと閃いたのだ。

これは、この男性的一辺倒の辺境伯爵家で舞踏会などの華やかなイベントをするにあたって、女性にも喜ばれる要素を取り入れるにあたって最適ではないかと考えたのだ。


あまりにも熱く、フルーツカービングの素晴らしさを語り出した私を、すっかり本題を外された私アーサー様とトリム様のお二人が止める術はなく、夕食時間ギリギリまでその話を聞く羽目になったのであった。


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