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六角と九鬼

前回のあらすじ

北畠具教は渡河して攻撃をせず、罠を張っていた竹中は肩透かしを食らってしまった。

これにて斉藤勢は一切の作戦行動を終了したのである。


近江の国のここは土山。この地に六角義治率いる六角勢三千が着陣していた。真冬の寒さで足軽達は震えていた。


土山宿は東海道の宿場町で、すぐ目の前には鈴鹿山脈が広がっている。そこを越えると北畠家が支配地域である関・亀山である。


冬の寒い最中、そこで陣を張り動きをみせないでいる六角勢の下級兵士達からは不満が出ていた。


「ったく、一体いつまでこんな所にいるんだ!!」


「・・・どうも殿である六角義治様と家老の後藤賢豊様が意見の違いとかで揉めているらしい」



「後藤賢豊!!もう俺は我慢できん!!今すぐにでも伊勢に攻めるぞ!!」


本陣でまだ若い総大将の六角義治が怒鳴り声をあげている。それを必死な表情で後藤賢豊が止めている。


「おっお待ちください。まだはようございます!!斉藤家の勝敗がはっきりしなくては!!」


後藤賢豊は攻めたがる六角義治を止めなくてはならない事情があった。


まず第一に今が冬であり、鈴鹿山脈は常に雲に覆われ、かなり吹雪いているのが容易に分かっていた。そんな最中、三千もの兵士を山越えさせて攻めさすなど無謀。そもそも山越えでかなりの落伍者を出すし、その後の補給にかなり苦労するであろう。


鈴鹿馬子唄に「坂は照る照る 鈴鹿は曇る あいの土山雨が降る」と言われるほど気候の変化や難所であったのがこの地なのだ。 (この辺りは甲賀市のホームページに詳しくのってます)


そして第二に、斉藤家の「本気度」が未だ定かではない点である。長島に敵を誘き出し、小牧山城攻略に動いている報は聞いたのだが、それをどこまで信ずれば良いのであろうか。


仮に同時侵攻が成功したとしても、伊勢と尾張が守りきれないと判断した北畠具教はおそらく伊勢に立て籠もるであろう。だって本拠地伊勢だし誰だってそうするだろう。


尾張を攻める斉藤は楽できていいのだが、そうなれば伊勢の亀山城を目指すこちらは苦戦する事必至。というか斉藤家が伊勢方面まで援軍を出さなくては、絶対に負ける。冬の鈴鹿山脈を越して攻めるのはかなり苦労する。


作者も自転車で大津から鈴鹿の往復を一日でしたことあるが、ああなんて国道一号線の道のきつい事。夏だからまだ疲れただけだが、鎧を着て重い荷物を背負い、碌に舗装もされていない道を往復するなんて命令されたら、絶対に逃げちゃう僕。


(そもそも斉藤義龍という男、腹の底が読めん。信用できない)


結局、味方であるはずの斉藤家が信用できず、それがこの結果である。しかし六角義治は戦果が欲しがっていた。なにせ同世代なのに野良田表の合戦で大勝し、その名前を広めた浅井賢政を勝手にライバル視していて憎くて仕方がなかった。


この揉め事はどちらも折れず、かなり亀裂が入っている事は周りの人たちがみても容易にうかがえた。なお家臣団の多くは北伊勢侵攻に反対していたので、後藤賢豊に同情的であった。


そしてこの日も不毛な議論を繰り広げていたのだが、遂に決定的な報が早馬によってもたらされた。


「報告いたします。斉藤龍興は小牧山城攻略に失敗し敗走!!伊勢長島方面に展開していた斉藤義龍勢も急速に部隊を後退させつつあります!!」


その報に六角義治はヘナヘナと力なくその場に座り込むしかなかった。


「あの無能どもめ。大口叩いて逃げ出すとは・・・これでは伊勢攻略は・・・」


周りの家臣たちは冷ややかな目でそんな六角義治を見ていた。


(ほら言わんこっちゃない。あんな男を信じて軍を動かすもんだから。後は知らんぞ)


野良田表の合戦の大敗に家中クーデター。この半年で六角家内部はかなり雰囲気が悪くなっていた。そんな中、無理して動員しているので家臣たちの心の離反は、かなり進行していると言って過言でない。もう注進すら出ないのである。


ただこの男・・・後藤賢豊は六角家の為に恨まれようがハッキリと物を申していた。


「殿、もうこうなれば伊勢侵攻など到底不可能です。速やかな撤退を!!」


「ぐぐぐ・・・仕方がない。こうなればどうしょうもない」


この状態で無理矢理鈴鹿の山を越えれば、着いた途端に北畠勢にフルボッコにされてしまうのは明白であった。


こうして六角勢は何もせずただ土山から引き上げるのだが、何も得られるどころかただ兵糧と家中の信頼を失う事になったのである。


これから六角家・・・特に後藤賢豊は北畠家相手に危険な綱渡り外交戦を繰り広げて行くのだが、それはおいおい書いていくことにしよう。





斉藤家敗北の報が最後に届いたのは、志摩で包囲戦をおこなっていた木造具政の陣である。流石に南だけに雪こそないが冬の寒さが身に凍みる。


「・・・おのれ北畠具教め。今度も生き残りやがって」


「木造様、本音が口から出てますよ」


木造の部下達がなだめていた。斉藤義龍に兄である北畠具教を討ってもらい、漁夫の利的に伊勢一国を支配しようとしたが、悪運の強さというかまたしても失敗に終わったのだ。


(くっ結局間に合わなかったか・・・まあ勝てたなら良いだろう)


その報を聞いて、志摩遠征軍旧織田勢取り纏めの柴田勝家はほっと胸をなでおろした。彼は一刻も早い尾張帰還を目指して動いていたのだが、どうにも交渉事が苦手で上手くいっていなかった。


かなり落ち込んではいたのだが、まあこれで問題解決である。だが木造具政がまた面倒な事を言い出したのである・・・


「・・・このままではなにもしなかったと言われかねん。志摩の切り取りにも影響がある。そうだ!!いますぐ田城城を攻め落とすぞ」


その突飛な発言に柴田勝家は驚いた。


「えっ、攻めなかったのは貴方が止めたから」


「うるさいうるさい、俺に指図するな!!とっとと攻めろ、今すぐに!!」


「へいへい分かりましたよ!!者ども、力攻めだ!!」


木造具政と柴田勝家、そして志摩七党の軍勢は今までの(*´ω`)ムードから一変、(; ・`д・´)ムードに!なんて極端なんだ。特に旧織田勢はもうすっかり嫌気がさしていたのではやく帰りたいからか、大急ぎで城攻めに取り掛かったのであった・・・




田城城は加茂川と河内川に挟まれた丘に上に築かれている天然の要塞のような立地である。そこに九鬼浄隆 (九鬼家六代目当主)と弟の九鬼嘉隆 (九鬼水軍として有名)ら九鬼一族千余名が立て籠もっていた。


九鬼浄隆は戦闘に長けていて、これまで何度も北畠勢を追い返しており、この戦いでも城によく籠り凌いでいた。


そして斉藤家の尾張侵攻や六角家の兆候などは密使によって伝えられていたので、踏ん張ればじきに北畠勢は撤退するものと思っていたのだが・・・


「なに!斉藤は敗れたと申すか!!」


「御意に!」


悪い報告はやけに早く届くものだと九鬼浄隆は思った。だが感傷はそこまでにしておかなくてはならない。これで北畠勢は撤退などはしないであろう。


「兄上、じきに総攻撃があるものかと。何らかの形で決断をしなくては」


弟の九鬼嘉隆は心配そうな顔をして、兄である浄隆を見ていた。


(このまま一族城を枕に討ち死にか、それとも降伏するか・・・)


そう浄隆が考えた時、突然鉄砲の銃撃音が鳴り響き、男たちの怒号のような歓声が聞こえたのである。


バンバンバーン!!オオオオオオオオオ!!!


「浄隆様、敵の総攻撃でございます!!」


若い侍が慌てて飛び込んできた。そして彼は手に持った矢文を浄隆に見せる。


「あとこれが撃ち込まれました。ご覧になられますか」


「うむ、みせい!!」


浄隆は矢文の文章を急いで読んだ。そこにはこう書いてあった・・・


「今すぐ降伏したら九鬼家を残す事も考えてやる。とっとと決断しろ!!ってかもう攻めるからな!! by木造具政」


「舐めた文章送りやがって!!」


怒りのあまり九鬼浄隆は矢文を投げつけた。だがこのままでは九鬼家は滅亡するだろう。それを回避するのが当主としての自分の最後の務めだ。


「木造具政に使いを出せ!!ワシの命と引き換えに一族の助命と九鬼家の安泰を誓詞にまとめよと!!」


「兄上!!それは!!」


「嘉隆、当主はワシの息子澄隆に継がせる。そちはよく補佐せよ!!これが遺言じゃ!!後追いなどもってのほかだからな!!」


九鬼浄隆はもう腹が決まっていた。この攻勢を凌いだとしても九鬼一族は壊滅的な打撃を受けてしまう。その後、どうせ北畠本隊がやってくるのだから、結末は滅亡しかない。ならばここで手打ちしかないのだ。


九鬼宮内少輔浄隆はこうして表舞台から姿を消した。九鬼の降伏を木造具政はすんなり認め、こうして志摩の地は北畠勢力下として組み込まれていったのである・・・


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