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その頃の主人公

雪姫が斉藤龍興との決戦を決めたその時、さてはて主人公である北畠具教は一体何をしていたのであろうか。


ちょうどその日、小牧山城から南西に40キロばかり進んだあたりに彼は居た。今でいう揖斐川沿いに陣を作り、対岸にいる斉藤勢と睨み合っている。


そこは伊吹山山系から冬の冷たい風が吹き、そうそれはまるで北畠具教の身体を包むかのように・・・つまり端的に言うと・・・


「寒い、寒すぎる!!!なんで真冬にこんな川側にいないといけないんだ!!ストーブは!!」


「殿、我慢してくださいよ。まったくこれだから現代人は」


モブがガタガタと震えている北畠具教にやれやれと言った感じで諭すように話している。


「ただたしかに寒いですな。しょうがないなー温かい吸い物でも出しましょうか」


そうモブは言うと、側にいた小姓に何か言った。その小姓は直ぐに吸い物を持ってきたのである。


「おお、温かいものは助かる・・・これは・・・この香りはハマグリか」


小さい椀の中にはハマグリが貝ごと入っており、その香りを堪能した後、北畠具教はそれを味わい深く楽しむ。


「おおこれは旨い。ジューシー!!おお次はハマグリの酒蒸しか!!」


「殿は何でもジューシーといか言わないですな。しかしなんか料理物の小説みたいになってますよ」


北畠具教はそんなモブの小言を意に関せず、ハマグリ料理を味わっている。


「いやさ、信長も倒したんだし、あとはのんびりと過ごしたいの。幸い斉藤勢もなんかこっちに来る気配もないし、もう安心だな。おうこの濃厚な味最高!!」 (フラグ)


たしかに斉藤勢は渡河を決行する訳でもなく、ただ陣は作っただけで動きはない。彼でなくても、ああ北畠家の動きが早かったので動けなくなったんだなと思ってしまっても不思議ではない。


そんな弛緩した空気を切り裂くように、突然一人の侍が文字通り転がり込むように現れた。


「たっ大変でございます!!」


「どうしたの??」


「新手の斉藤勢が尾張に侵攻し、犬山から小牧山城に向かっておりまする!!その数およそ一万!!」


「ブーーーーーーー!!」


北畠具教は思わず食べていたハマグリを吐き出してしまった。


「そんなバカな!!だって斉藤勢はほらあそこにいるじゃん」


そう言って彼は、対岸の斉藤軍を指差した。たしかにそこにも斉藤勢の大軍はいる。およそ一万ほどだ。


「しかし現に小牧山城に向かっておりまする。間違いありません!!」


「あわわわわわわわ・・・とにかくみんな集めて!!」


「御意!!」




こうして緊急の北畠家幹部会が行われた。真ん中に北畠具教、傍に鳥屋尾満栄など重臣が顔を揃える。彼ら達は早速喧々諤々の議論を展開している。


「直ちに迎撃を!!」


「何を言う!!動けば渡河中に襲われまする!!」


「しかしこのままでは小牧山城はどうなる!!」


「だからと言って下手に動けば、空になった桑名が危ない」


「我らが目の前の敵すら逃げるように思われては桑名だけではなく、北伊勢の国人衆も離反いたす!!」


結局の所、小牧山城に向かうか向かわないのかの二択であるのだが、議論の形勢は桑名残留が強くなっている。それもそうであろう、なにせ目の前に敵がいるのだ。どうしてもそちらが気になってしまうのが人である。


そして議論の最中にも次々に、あらゆる城から使者が報告に来ている。


「小牧山城の蜂屋殿は徹底抗戦するとの事!!」


「申し上げます!!雪姫様の部隊千五百が小牧山城救援に向かわれました!!」


その知らせは、重臣達にとってまさに朗報であった。雪姫の武勇は特に敵として戦った織田家臣団のなかでは神格化されているためだ。


「雪姫ちゃんが・・・流石に動きが早いな。これで斉藤軍に勝てるかも。でも危なくなったらみんなと一緒にこっちに逃げてきてと言っといて」


「・・・殿、清州城の北の方様、犬姫様、市姫様は動かぬとの事。小牧山城の蜂屋殿もまた然り。なにかあれば城を枕に討ち死にするとの書状が・・・」


ここにきて北畠具教の顔つきが鋭く変わったのを、家臣達皆気が付いた。まあそれだけ普段はフニャフニャしているのだが・・・


「奥さん達もみんなも逃げないのか・・・なら僕も城に戻ろう」


流石にそれは家臣たちの動揺を誘った。殿一人これから小説家になろう・・・じゃない戦場になろう清州城に戻す訳にはいかない。必死に止める。


「落ち着いて下さい。今一人で城に戻るのは危険です」


「そうです、ここはご辛抱が肝要。殿の身に何かあればお家の一大事!!」


「いくら僕でも奥さん見殺しなんで出来ないよ!!」


「殿、この鳥屋尾にお任せあれ!!なんとか説得しますのでどうか堪えてください」


もうこうなると一番の家臣である鳥屋尾満栄でないと説得出来そうもない。しかし彼も打つ手はないのだ。なにせ事前に正室の北の方を脱出させようとしたが、彼女は断っている。


(このまま清州に行かせたら殿の身が危ない。しかしどうしたら・・・こうなっては雪姫様だけが頼りじゃ。しかし斉藤家にこんなに正規兵を雇う国力など・・・どちらかが偽りだな・・・)


北畠具教本陣も風雲急を告げようとしていた・・・


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