戦場の犬・・・姫
それから一週間後の晴れた午後・・・
犬姫はまたこの訓練場で火縄銃を撃っている。今日は、北畠具教とモブをそれを見に来た。というより、犬姫に無理やり連れられたのだが・・・
パーンパーン!!
犬姫の射撃精度はますます上がっているようである。確実に次々と的を落としていく。
「いやー凄いな。こんなに射撃が上手いなんて」
北畠具教は舌を巻いた。なるほどこんな技量がある事を自分に見せたかったんだな。だがしかしそれだけではなかった・・・
「どうですか殿。私の腕前は。これなら殿の護衛も務まると思うんでよ。これからずっと傍にいますからね」
「えええ!!!ちょっとそれは・・・」
「なにかご不満でも?」
犬姫はパンパンと火縄銃を動かしている。実に物騒だ。これ自分が変なことしたら撃たれそうで怖い。
「えーと・・・おいモブなんとか言え」
「・・・下手なこと言うと撃たれそうで・・・」
「なんだと、このヘタレめ。まあ俺も怖いから言い返せないんだけど・・・」
こうして押し切られる形で犬姫は北畠具教の護衛として張り付くことになったのである。確かに射撃の腕はあるが、どうもヤンデレ気質の彼女がそんな物騒なものを持って傍にいるのは、どう考えても厄災しか生まないような気がする北畠具教であった・・・
「ああ、不安だ・・・」
さてその頃、清須城では市姫が忙しく働いていた。彼女の日々の業務がじわじわとそして確実に増えていっている。今日は学校について鳥屋尾満栄と会議があった。
「・・・という訳でこれが問題の品でございます」
鳥屋尾満栄は、市姫の目の前にその問題の品という物を広げた。それを見た彼女は思わず絶句した。
「なんなのよ、このおかしな着物は!!」
それは平成の日本ではおなじみのセーラー服である。北畠具教が無理を言って職人に作らせた一品である。かなり難航したが、なんとか完成し、そしてよりにもよってそれをこの世界の学校の制服にさせていたのだ。
「はっ、北畠具教様がどうしてこれでないと嫌だとダダをこねまして・・・生徒や通わせている親御からかなり苦情がありましてなんとかしないといけません。将兵には好評ですが」
「分かりました、私からきつーーーく言っておきます。新しい学校の制服については私が決めましょう」
「よろしくお願いいたします」
鳥屋尾満栄は、感謝し深々と頭を下げた。このように今までなかなか北畠具教に言えなかった要望が、市姫を通して伝えられようになりつつあったのである。市姫から言われるとよく意見が殿に通った。今は北畠具教に物を頼む時は、まず市姫からというのがもっぱらの話であった。
その時、部屋の襖が開き、森可成が姿を現した。
「あっ市姫様、ここにおられましたか。桶狭間の民が迅速な治安対応に感謝し、礼をもって来ました。ご対面お願いします」
「もーーーなんで私の所にくるのよ!!!」
「それがどうも市姫様がもっぱら殿より偉いと民には伝わっておるようで・・・失礼ながら殿より市姫様に会いたいとの事」
このようにもはや誰が当主がわからない状態になっていたのだ。そしてこれ幸いと北畠具教はモブを連れて、しょっちゅう領内視察という名の遊びに出ていたのだ。
押し付けられた市姫のストレスはマッハに高まっており、それが形相にも現れている。そして再び襖が開いて、今度は村井貞勝があらわれた。
「あっ市姫様、ここにおられましたか」
「キィィィィィ今度は何よ!!!!」
「市姫様、落ち着いてください。犬姫様がおなりになりました・・・」
一気に市姫の形相が落ち着く。なにせ姉の犬姫は、彼女にとって憧れの存在であり、清洲城落城の折には命がけで守ってくれた恩人なのである。
「姉上が・・・ええすぐ会います」
そうこうしているうちに早速、犬姫が現れた。手には火縄銃を持って、そして殿とモブも連れている。
「姉上、これは一体・・・」
市姫はあまりの想像外の事で混乱している。しかし犬姫はどこか自信ありげだ。
「市、これから私が殿の護衛として傍に付きます。殿も了承されました」
北畠具教が申し訳なさこうな顔で市姫に言った。
「まあ色々あってさ、こんな事に。一つよろしく」
「はっはあ・・・私はかまいませんけど・・・」
犬姫はこれで自分は市姫と同じ舞台に立ったと思った。冷静に考えれば武器を持って傍にいる女の子に、北畠具教が寵愛を注ぐかのは疑問であるが、まあ彼女が満足しているから誰も指摘はしないが・・・
こうして北畠具教の傍には二人の女の子が張り付くという展開にはなったが、もう一人忘れてはいないだろうか・・・
そう、伊勢にいる正室北の方である。それらがもし合う時がくればどうなるのか。特にヤンデレ気味で寵愛を独占したがる犬姫と、名門六角家の娘でプライドもある北の方の二人が出会うならば・・・
まあ、北の方は伊勢にいるからばれないばれない、大丈夫!!
だったのだが、あの男の嫌がらせによって、それは避けられなくなるのであった・・・




