蠢く
イメージはまんまゴ〇ゴです。
それからしばらく後、まだまだ寒い日が続くここは清洲城。なんとかかんとか城の修繕は終わっていた。
……が北畠具教がいるこの部屋は、あちこち継ぎ接ぎだらけでボロボロである。なにせ大工仕事をした事ないのに、自分で見よう見まねでやったからである。
「殿、後回しになっているこの部屋の改修作業もそろそろやらないといけませんな」
下座に座る鳥屋尾満栄が神妙な面持ちで話している。
「まあなんとか大丈夫ならこれでいいよ。ギシギシ言ってるけど……先にみんなの住む所を直さないといけなかったし。それより斎藤家との話し合いどうなった?」
「ああまずその事の報告をしなくてはいけませんな。遅れて申し訳ござらん。手打ちの話はほぼ固まりました。後は誓詞の取り交わしですべて終わりです」
「そりゃ良かった。もういい加減戦はごめんだからね」
「この五月に斎藤義龍殿と尾張の国、正徳寺にて会見をして、両家の親睦を図るという所まで話は進んでおります。なにせ清洲城はまだとても客を無呼べる状態ではありませんから」
「まあこの有様ではしょうがないね。その辺りの段取りもよろしく頼むよ」
「ははっ、その点は抜かりなく進めてまいります」
二人とも安堵の笑みを浮かべていた。主人公北畠具教は知っての通り、戦は好きではない。だがなかなか戦が終わらない事を危惧していた。それがようやく終わるのである。
鳥屋尾満栄は家臣団を取り纏め、北畠家筆頭家老という立場である。ようやく「外患」は目途がついた。次は「内部」を手に付けなくてはならないと思っていた。
(殿の弟君、木造具政様は危険すぎる。そろそろ排除しなくては……兎に角この会談の後に動き出すか……)
木造具政が色々画策しているのは、様々なルートを介し鳥屋尾満栄の耳にも入っていた。本当なら直ぐに「粛清」をしないといけないのだが、織田家・斎藤家と次々戦が起こり、とてもそれどころではなかった。だがこれで内部の不穏分子の一掃に手が付けられる。
(だが北畠具教様はお優しい方。果たしてうんと言ってくれるかどうか……)
鳥屋尾満栄としては悩む所であった。しかしまだこの会談は終わっていない。そしてこの会談もまた、ややこしい事態を招く事にまだ誰も気づいていないのである……
正徳寺の会見の約定が決まったしばらく後、ここ京都の地で怪しげな動きがあった。
当時の京都は今のような観光客が溢れ美しい都市ではなく、あちこちボロボロになった建物が立ち並んでいる。こうなったのは、応仁の乱がそもそもの始まりであった。その後も戦やらなにやらで復興がなかなか進まず、しかし人口は増加し続けなかなか混沌とした都市になりつつあった (作者は直接見た訳でもないので想像ですが……)
さてそんな京都の外れ、とある桂川の河原。既に辺りは夜の闇に覆われていた。そんな暗闇の中、一人の夜鷹が小さいテントのようなほったて小屋の中で客を待っていた。夜鷹は遊女のことですが、詳しい説明はここでは省きます。
「そろそろかね……」
その夜鷹が呟いた時、彼女ははっと気配を感じて顔を上げた。いつの間にか、一人の男がこの建物の中に入り込んでいたのである。
その男は体形はガッチリとしており、眼光は鋭い。一目で只者ではないのが分かる。ただ頭を禿げていた。
「お客さんかね。悪いけど今日はもう終いなのさ……」
「客ではない。依頼を聞きに来たのだ」
「……そうかい、あんたがあの杉谷善住坊かい……」
杉谷善住坊……織田信長を狙撃した事で有名になる人物であるが、この世界ではもう織田信長は亡くなっているので本来ならば表に出てこないはずなのだが……
「そんな所で立ってないで、ここに座ったらどうだい」
「……御託はいい。要件に入ってもらおうか」
「噂通り愛想のない男だね。実はこの五月に斎藤家と北畠家の手打ち式が正徳寺にてあるのだけど、そこで暗殺をしてもらいたい」
少し間をおいて、杉谷善住坊が話し始めた。
「……この話は両家合意の筈であろう。なぜそんな真似をする……」
「ふふっ、私は北畠家の諜報員なんだけどね、うちの中にもこの講和に反対している者がいるのさ。でも主君北畠具教様は気優しい方でね、あんまりこんな謀は嫌いでね、仕方ないから部下が動いているの」
「……戦になるぞ……」
「ふふっ望む所よ……依頼報酬は手付けと成功報酬の二回にして渡すわ……」
しばしの沈黙の後、杉谷善住坊が頷いた。
「いいだろう、引き受けよう」
「ふふありがとう、ありがとう杉谷善住坊。これは貴方の高い射撃技術が必要なの、助かるわ」
「ただしこの話に嘘偽りはないのだろうな。もしこの嘘があればお前の命はないぞ」
「天地神明にかけて本当の話よ。ところでこの後時間はあるかしら。男と女が分かりあう事でもしない……」
夜鷹の女が自分の肩の肌を着物から見せる。白いその肌は妖艶な色気を漂わせている。普通の男ならその誘いを断れないであろう。
「……初めて会った女を抱くほど俺は自信家じゃない……」
「ふふっ用心深い御仁ね……ってもう姿がない」
まるで風のように杉谷善住坊が姿を消していた。まるで最初からここに居なかったかのように痕跡を残さずに……
つかの間の平和の後、乱戦がおこる予兆が蠢きだしたのである……




