55 初めての魔道具 2
既存の魔道具のランプと同じ横並びのオンオフの二つのボタン。
それに加えて、それとは大きさと色とデザインを変えたボタンが、横並びに三つ並んでいる。
通常は、真ん中のボタンがオンの状態で、両脇がオフの状態だ。
お母様が右のボタンを押した瞬間、右のボタンがオンに、真ん中のボタンがオフになって、光量が一気に上がって明るくなった。
「とても明るいわ! 明るさが変わるなんて!」
「なんと……弱くもなるのか!」
お父様も自分が持ったランプを試して、左のボタンを押す。
同じように、左のボタンがオンに、真ん中のボタンがオフになって、光量が一気に下がって薄暗くなった。
二人とも目を丸くして、明るくしたり、暗くしたり、普通に戻したり、何度もパチパチとボタンを弄って確認する。
一緒に眺めているセバスチャンも驚きのあまり声が出ないみたい。
「驚いた……まさか一つのランプで明るさを変えるとは。こんな機能を持った魔道具は初めて見た。中央ですら流通していない画期的な機能じゃないか……!」
「これはバロー卿のアイデアですか?」
お父様とお母様が私の後ろに立っていたオーバン先生に目を向けた。
オーバン先生は、これまでの魔道具師としての実績と貢献から、一代限りの男爵位を賜っているんだって。
だから、バロー卿。
「いいえ、奥方様。これは全てマリエットローズ君の発案によるものです。儂がなしたのは、質問に答えアドバイスした程度。ご息女は間違いなく天才です。それも歴史に名を残す、不世出の天才ですな」
ほう……と、感心と、驚きと、高揚と、誰からともなくそんな溜息が漏れる。
私にみんなの視線が集まってくすぐったい。
「オーバン先生が大げさに言いすぎているんです」
「いや、大げさじゃないだろう。このような機能を開発するなど、私は魔道具の歴史が変わる瞬間を目の当たりにした気分だ」
「素晴らしいわマリー!」
お母様はランプを置くと、ソファーから立ち上がって私を思い切り抱き締め、頬擦りしてきた。
照れる。
でも嬉しい!
「しかし、構造が全く予想が付かないな。魔石そのものの光量が変わっているところを見ると、光量を変えるように指定した魔石と魔法陣を三つずつ用意しているわけではないのだろう?」
ふふん、それこそが私の研究成果だ。
魔法陣の構成は四つに分けられる。
一つ目が、魔石から魔法陣にエネルギーを供給するための回路の役目を果たす供給文様と呼ばれる文様。
二つ目が、魔法陣本体で魔石のエネルギーを循環させる魔法円、および、魔法陣の中をエリアごとに分ける直線で描かれた六芒星や八芒星。
三つ目が、六芒星や八芒星で区切られたエリアに記されている、魔石のエネルギーを物理現象に変換する回路の役目を果たす魔法文字の命令文。
四つ目が、複数の命令文で発生した複数の物理現象を一つに統合して必要な機能を持たせるための、六芒星や八芒星で区切られたエリア同士を結びつける接続文様と呼ばれる文様。
ここで私が着目したのは、供給文様だ。
既存の様々な魔道具を調べてみたら、出力を上げようとした時、一般的な対処法は、魔石を大きくするか、魔石の数を増やすか、供給文様の数を増やす、だった。
つまり、供給文様の数が増えたら、魔石から引き出されるエネルギーが増えて、効果も上がると言うわけ。
そこで思い付いたのが、ボタンで供給文様の数を変える方法だ。
普通、魔法陣には全ての文様が描かれている。
それはどの魔道具も同じ。
謂わば基板にプリントされた電子回路のようなもので、後から足したり引いたりは出来ない。
でも、もし魔法陣をパーツごとにバラバラにして、必要に応じて組み替えられたら?
一つの魔法陣で、複数の魔法陣を組み込んで切り替えるのと同様の効果を発揮できるのでは?
そう思って、供給文様だけを別パーツに描いて、ボタンでそのパーツを魔法陣に接触させたり離したりしてみたの。
そうしたら見事、その状況でも魔法陣は問題なく動作して、出力を変える機構が実現出来たと言うわけ。
つまり魔法陣が裏側なのは、内部でパーツがゴチャゴチャ動くところを隠すため。
魔石を光らせて明かりにするんだから、周囲にその機構のパーツがゴチャゴチャあったら明かりを遮ってしまうことになるし、見栄えも良くないもの。
そして魔法陣に穴を空けて嵌め込んだのは、裏で供給文様と魔石を接触させるため。
上から置いたり外したりが出来ないと、魔石の交換が手間になってしまうから。
得意満面で、それをお父様とお母様に説明する。
「聞けば、なるほどと納得せざるを得ない技術。しかもさして難しい技術ではなく、知れば誰でも利用することが出来る程度の物だ。むしろ、何故今まで誰もそれに気付かなかったのかと、そう思ってしまうくらいの。その発想を一番最初に気付いて形にしたのが、まだ六歳の娘だとは……」
「画期的、かつ、魔道具の応用範囲が爆発的に広がる技術ですな。ご息女は、紛う事なき天才です」
「ああ……この感動を、どう言葉にすれば表すことが出来るのだろう……私の乏しい語彙力では、まるで言葉に出来ない」
「わたし達の娘は世界一、それでいいではありませんか」
「ははっ、そうだな。その通りだ」
お父様もやってきて、お母様と一緒に抱き締めてくれる。
「こんなにも素晴らしい娘を持てて、私は最高に幸せだ」
「ええ、本当に。わたし達の娘として生まれてくれてありがとう、マリー」
「はい、パパ、ママ。私も二人の娘に生まれて最高に幸せです」
本当に、私はこの二人の娘で良かった。
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