99 見えない対決
いいものが書けた。これなら投稿サイトに上げたら大人気間違いなしだわ。ふふ。
まあ、この世界にそんなものないので自己満足でしかないけどね……。
とは言え、これをそのままブレン様に出すのはもったいない。記念に本にして残しておきましょうっと。
この世界、まだ印刷技術は確立されてはいない、と思う。大体の本、写本だしね。興味ないから調べてないわ。
「写本師ってどこに声をかけたらいいのかしら?」
まあ、孤児を雇えばいっか。本にするのは自己満足。読めればいい問題ないんだからね。
うん? 待てよ。わたしの付与魔法はチートだ。印刷って付与を施せば写本師はいらないんじゃないかしら?
「書板、転写ペン、印刷器、かしら?」
転写ペンで書板に書けば印刷器にセットした紙に写し出される。ってものを試行錯誤しながら創り出した。
「ふふ。わたし、天才」
書いたものを記憶させ、いつでも印刷できる。わたし、とんでもないものを創り出したのかもしれないわ。
まあ、創り出すまで魔力充電壺を五つも消費してしまった。これでは量産は無理ね。
……せめてもう一台は欲しいのでコノメノウ様にはがんばっていただきましょうっと……。
「アマリア。木屑はどうかしら?」
「五袋は持ってきてもらいました。紙も二百枚くらいできております」
二百枚か。まあ、三枚に切れば六百枚にはなる。一回分としては充分ね。
紙を印刷器にセットしてもらい、お札を書いて印刷した。
「裁断機が欲しくなる量ね」
うーん。さすがに二百枚をちまちま切っていくのは面倒よね。仕方がない。
ナイフに切れ味向上を施し、机の上で切っていった。あ、机には強化の付与を施してあるので問題ありませんよ。
お札を束ねたら一枚一枚透明化の付与を施していく。これをオデコに張れば三十分は透明になれるものよ。
さらに紙ができたら幻影の付与を施す。これは三十分だけコネメノヒメに化けられるものね。
次は魅了の魔法を無効化する付与を施すものだ。宮殿に張ればコネメノヒメの魔力を無効にしてくれるわ。
「お嬢様。ラルドさんがお越しになりました」
「わかったわ。通してちょうだい」
箱を抱えたタイトとラルドが部屋に入ってきた。
「お待たせしました。ご注文の呼び鈴と風鈴を持って参りました」
「ご苦労様。急がせてごめんなさいね」
箱を開けてもらい、中を見せてもらった。
「とてもいいものじゃない。さすがだわ」
ここまで凝ったものじゃなくてもよかったのだけれど、芸術品と言っていいできをしている。きっと夜遅くまで作業していたんでしょうね。
「本当にありがとう。ラルドがわたしのところにきてくれて感謝するわ」
「いえ、わたしこそチェレミー様の下で働けて感謝しかありません。王都ではこんなに充実した日々は送れませんでしたから」
「そう言ってもらえて嬉しいわ。また無茶なお願いをしてしまうけど、ラルドの腕を貸してちょうだいね」
「もちろんです。わたしでできることならなんなりとおっしゃってください」
「ふふ。そのときは遠慮なくお願いするわね。アマリア」
お礼に用意していたお菓子とお酒を渡した。
二人が帰ったらブレン様を呼んでもらう。
「ブレン様。お待たせしました。嫌がらせの準備が調いました」
長椅子に座ってもらい、用意したものをテーブルに並べた。
「これが嫌がらせの道具か?」
「ええ。まずは第一段階、まあ、下準備のものですね」
「下準備?」
「まずは風鈴。これらは帝都に満ちるコネメノヒメの魔力を阻害するものです。呼び鈴も似たようなもので、片方を鳴らすと対のものが鳴ります。これを宮殿に献上してください。鳴らす度にコネメノヒメの魔力を阻害します。この札は宮殿に飾ってある絵の裏にでも張ってください。宮殿をちょっと騒がせます。この札はオデコに張ると少しの間姿を消すことができます」
それがどう効果を現すかを教える。
「これは劇団に渡して劇にしてください。そして、最後にこれを」
狐の面をテーブルの上に置いた。
「ブレン様かブレン様が属する派閥の側室につけさせてください。コネメノヒメにも負けぬ魅了の付与を施してあります。あとは側室の器量で皇帝を奪ってください」
皇帝には何人もの側室がいるけど、今は一人の側室に心を奪われている。その側室、コネメノヒメに対峙させて攻撃されていると知らしめる。
「第二段階の用意はしておきます。また秋にでもきてください」
第一段階の計画書も渡した。
「わたしができることはここまで。帝国の未来は帝国人であるブレン様たちで努力してください」
そして、わたしの仕掛けた罠を見抜き、排除するのはコネメノヒメの役目。精々、がんばってもらいましょう。
「感謝する」
深々と頭を下げるブレン様。帝国を思う気持ちは本物のようね。




