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令嬢ではあるけれど、悪役でもなくヒロインでもない、モブなTSお嬢様のスローライフストーリー(建前)  作者: タカハシあん
第2章

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97 恥ずかしい話

 必要なものが揃うまでブレン様に海の話を聞かせてもらった。


 ブレン様は南海艦隊の提督として海の上にいることが多いと思ったけど、海にいるのは年の半分にも満たず、帝国の近海を防衛しているだけで外国にいくのは年に一回あるかどうか。艦隊本部の港がある街での仕事や帝都で伯爵としての勤めを果たしているそうだ。


 それでもわたしくらいの年齢から船に乗っており、二十年くらいの経験があるので、いろんな話を聞かせてくれた。


 インドア派なわたしだけど、男心がちょっとくすぐられる。冒険に出たくなってしまったわ。


「王国と帝国って、どうして交流が少ないんでしょうか?」


 密貿易はかなり昔から行われているのに、本格的な貿易には至ってない。大国同士なんだからあっても不思議じゃないんだけどな~。


「簡単に言えば王国が望んでないってことだ。帝国としては貿易をしたいと話しかけてはいるのだが、いい返事をもらえられないのだ」


 王国側が問題だったんかい!


「それをいいことに豆の買い占めを行ったのね」


 なるほど。帝国が仕掛けてきた理由がやっとわかったわ。帝国の話を蹴っていたから付け入れられたのね。


「これだから隣近所とは仲良くするまでいかなくても付き合いはしておくべきなのよね」


 隣の国と仲良くなっている国なんて皆無だけど、まったく関わらないのは悪手だと思う。なにをしているか探るくらいの関係は築いておくべきなのよ。

 

「でも、今回はいい刺激になりますね。王国も痛い目をみないとわからないでしょうからね」


 人間、なにか起こらないと変わらない生き物。反対している人たちには痛い思いをしてもらいましょう。


「怖いな、チェレミー嬢は」


「戦争になるよりはマシですよ。豆の買い占めの先にはきっと戦争が待っています。痛い目で終わるなら我慢しろ、です」


 何万人と死ぬ戦争になるより何千人かが痛い目をみるほうが断然マシだ。まあ、わたしは痛い目にあいたくないから備えるけどね。


「そうだな。戦争になっても利はないしな」


「利はある者もいますよ。他者の血を啜るゲスはね」


 コネメノヒメに従うのはそういう連中でしょう。まあ、そういった連中を排除するのはブレン様たちの役目。わたしの預かり知らぬところだわ。


「チェレミー嬢は本当に十六歳なのか?」


「正真正銘十六歳で、血も涙も出るただの人間ですよ」


「まったく説得力がないの」


 いつものように忽然と現れるコノメノウ様。やはり転移魔法を使える説が濃厚ね。


「失礼ですね。説得力しかないじゃないですか。人間じゃないならそれを証明してくださいよ」


「できるならやっとるわ。ほれ、貯まったぞ」


 わたしの魔力百人分が半日で貯まるか。妖狐って凄まじいわね。マホロナの英雄、よくヤクビニヒメを倒したものだわ。チートを持った転生者かしら?


「ありがとうございます。体は大丈夫ですか?」


「問題ない。ちょっと酒の量が増えるだけだ」


「コネメノヒメもお酒が好きなんですか?」


「そうだな。今はどうか知らんが昔はよう飲んで、悪さばかりしてたな。その度に人間に捕まって逆さ吊りにされておったよ」


 昔は人間に捕まってたんだ。


「もしかして、コノメノウ様は、他にもコネメノヒメの恥ずかしい話を知っていますか? 些細なことでも構いませんので」


「恥ずかしい話か。あいつは賢いクセにバカだったからな。些細なことを混ぜたら百はあるぞ」


「それを是非教えてください。劇にして広めるとしましょう」


「……そなた、悪魔か……」


「純粋な人間ですが」


 おっぱいを思う気持ちは誰にも負けないくらい純粋ピュアですよ。


「別にコノメノウ様は恥ずかしい昔はないのでしょう?」


 この方、絶対昔は真面目ちゃんだったはずよ。


「ない。わしは隙を見せんかったからな」


「でしたらコネメノヒメに仕返しされる心配もありません。どんどん教えてください。おもしろおかしく脚色して帝都に広めてあげましょう」


 これもプロパガンダの一種。帝都の皆様にコネメノヒメの黒歴史を教えてさしあげましょう。


「悪魔より酷いなにかだな」


「人間らしい人間です」


 ほんと、失礼しちゃうわ。わたしほど人間らしい人間はいないってのにね。


「ブレン様。帝都にも劇を見せる生業がありますよね?」


 王国にあるんだから帝国にもあるはずだわ。


「あ、ああ。いくつもある」


「でしたら劇団を援助してコネメノヒメの恥ずかしい物語を書かせてください」


「それがコネメノヒメを排除することに繋がるのか?」


「わたしがするのは嫌がらせです。コネメノヒメを不快にさせて、辱しめて、徹底的に怒らせる。そうしてこそ最大の罠が効果をみせます」


 物理攻撃ができないなら精神攻撃をするまで。コネメノヒメの心を攻撃してやるまでよ。


「……わ、わかった。チェレミー嬢の言葉に従おう……」


「失敗しても構いませんよ。広める方法はいくらでもありますから」


 これは帝都にコネメノヒメがいると認識させるための手段でもある。そうすれば精神操作もやりやすくなるからね。


「チェレミー嬢、大丈夫なので?」


 なぜかコノメノウ様に尋ねるブレン様。なにをよ?


「…………」


 なぜか沈黙するコノメノウ様。そこは大丈夫と答える場面ですよ。

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