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令嬢ではあるけれど、悪役でもなくヒロインでもない、モブなTSお嬢様のスローライフストーリー(建前)  作者: タカハシあん
第2章

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86 買い物の仕方

 朝の用意が整えば食堂に向かった。


 まあ、食堂と言っても八畳ほどの部屋に六人用のテーブルが置いてあるだけ。完全に食事をするだけの部屋だ。


 ナジェスやマーグ兄様は先にいて、のんびりお茶を飲んでいたわ。


「遅れてごめんなさいね」


 女の朝は手間がかかるのよ。お母様だったら化粧であと三十分はこれないでしょうね。


「構わないさ。さすがに昨日は疲れたしな」


「そうですね。ナジェスはよく眠れた?」


「はい。ぐっすり眠れました」


 それはなにより。なら、疲れは取れたみたいね。


 いつもここに泊まるときの朝食は村長のところの奥さんや下女が作ってくれる。


 そう凝ったものは出てないけど、ここの山羊の乳で作ったチーズは美味しいのよね。


 焼き立てのパンをナイフで切り、そこに山羊のチーズを乗せて火の指輪で焼いて溶かした。


 ジ○リ飯のパンとチーズ。ここにきたらこれがやりたかったのよね。あー美味しい。


「美味そうな食い方だな。わしにもくれ」


 いつものように忽然と現れるコノメノウ様。そういやいましたね。昨日のことが衝撃的で頭から溢れ落ちてました。


「山羊の乳から作ったものですけど、大丈夫ですか?」


「わしに好き嫌いはない」


 そうなんだ。それは羨ましいわ。わたし、苦いのと辛いのが苦手なのよね。前世では苦いのも辛いのも平気だったのにな~。悲しい。


 コノメノウ様の口に合わせてパンを切り、チーズを乗せて溶かしてあげた。


「うむ。山羊の乳がこんなに美味いとは思わなかった」


「ここのは特別です。他のだとあまり美味しくないんですよ」


 なにが違うのかわからないけど、ここのチーズはとにかく美味しいのよね。大量に作ってないのが残念だわ。


「姉様、ぼくも」


「ぼくも食べてみたい」


 ナジェスとマーグ兄様まで釣られて求めてきた。もー。わたしが食べれないじゃない! 


 仕方がないと皆の分を作ってやり、皆が食べている間に自分のを作って確保しておく。わたしは蜂蜜をかけていただくのです。


「そなたは楽しそうに食べるよな」


「人は誰でも美味しいものを食べれば嬉しいものですよ」


 前世ではそんなにグルメではなかったけど、この娯楽が少ない時代では食べることが唯一の楽しみ、とまではいかないまでも大部分を占める生きる理由となっているわ。


「そうだな。食事が楽しいと思ったのはそなたのところにきて知ったよ」


 城ではなにを食べていたのかしらね? そこまで不味いものを出すとは思えないのだけれど?


「蜂蜜か?」


 さあ、わたしも食べよう──としたら、手にした小瓶をコノメノウ様に奪われてしまった。え? いつの間にか!?


「コノメノウ様。行儀が悪いですよ」


「固いこと言うでない。で、どうするのだ?」


「溶けたところにかけてください。好みでよろしいので」


「乳に蜂蜜か。どれ」


 それだとおっぱいに蜂蜜みたいでそそるわね。誰かやらしてくれないかしら?


「お、美味いな。絶妙な塩気と甘味の調和が素晴らしいぞ」


 なにかグルメなセリフをおっしゃるコノメノウ様。眠っていたグルメ細胞が目覚めましたか?


「姉様、ぼくも!」


「ぼくも頼む」


 ハイハイ。わかってましたよ。好きなだけお食べなさいな。


 これはわたしにしかできないのでランとマーナには蜂蜜をかける役目を与えた。


「これ美味しいです!」


「うん。いい。これは最高だ!」


 ナジェスもマーグ兄様も気に入ったようで、チーズがどんどんなくなっていく。わたしの分を残しておいてよ!


 なんとかわたしの分は残ったので、ゆっくりできたてをいただく。確かに塩気と甘味のバランスが至高だわ。美味しっ。


 満足いく朝食を終えたら帰宅する用意をする。


「村長。お世話になったわ。またきたときはよろしくお願いするわ」


 用意ができて外に出ると、昨日と同じく村長たちが見送りに出ていた。


「はい。またお出でになるのを楽しみにしております」


「ええ。なにか問題があればわたしのところにいらっしゃい。力になるから」


 カルディム領としてもここは大切な地。なにかあるならすぐに知らせて欲しいわ。下手に隠されて手遅れになるのは困るからね。


「はい。そのときはすぐにお声をかけに参ります」


 理解ある村長で助かるわ。これも叔父様の力でしょうね。


「ラン。準備はどう?」


「問題ありません。いつでも出発可能です」


 コノハとコズエの姿が見えないところをみると、馬車の中みたいね。六人用の馬車できてよかったわ。


「ナジェス。お小遣いよ。これで好きなものを買ってみなさい。マーグ兄様も」


 領主代理の息子として買い物なんてしなくてもいいでしょうけど、それでは世間知らずになってしまう。今のうちに買い物の仕方を教えておきましょう。


「買い物、ですか?」


「そうよ。これも勉強。買い物の仕方を学びなさい。マーグ兄様はわかるわよね?」


「そのくらいできるよ。学園では自分で買い物しなくちゃならないからな」


「じゃあ、従兄としてナジェスに教えてあげて。言っておいてなんだけど、わたしも買い物はしたことないんですよ」


 伯爵令嬢に買い物する機会なんてないもの。知っているほうがおかしいわ。


「わかった。なにを買ってもいいのか?」


「構いませんよ。これは買い物の仕方を学ぶもの。興味のあるものを買ってください」


 銀貨二枚でなにが買えるを知りたいしね。なんでも構わないわ。


「じゃあ、いきましょうか」


 レオたちを引きながら商店街に向かった。

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