85 絶対服従
「……お嬢様。なにをなさっているのですか……?」
陥没したものを指でほじくっていると、ランがおずおずと尋ねてきた。
「え? この子のが陥没しているから出してあげようかと思って。どうしたのかしらね?」
いや、そういうのがあるのは知っているけど、見るのはこれが初めて。つい興味本意でほじくり出そうと思ったのですよ。
「お嬢様。少ないですが、そういう者もいるのですよ」
「そうなの? でも、これでは授乳が大変ではないの?」
これ、赤ちゃんは吸えるものなの? 吸引力が凄いの? ちょっと試してみたいわ。
「影は子を作りませんから問題ありません」
人権がないってことか。可哀想なことね。代わりに吸ってあげたいわ。
「大きいのに残念ね」
宝の持ち腐れね。まあ、わたしにはお宝でしかないけど!
「お嬢様。胸は大きさではありませんよ」
「胸は望まれてきたから大きくなったのよ」
それが進化と言うもの。貧乳はステータスではあっても実用性はないのよ。まあ、未熟な膨らみも嫌いではないけどね。
わたしはEかFが好みだけど、おっぱいを差別したりはしない。みんなちがってみんないい。わたしは、すべてのおっぱいを愛するわ。
「こっちの女は傷が多いわね」
エロい体はしているけど、なんだか穢らわしいって感じがするわ。
「おそらく潜入員でしょう。体を使ってその家に入り、協力者を作るのでしょう」
なるほど。なかなか業の深いことをさせるじゃないの。わたし、そういうの嫌いだわ。
「王宮もそんなことしているの?」
やっているのなら付き合い方を考えさせてもらうわ。
「いえ、やっておりません! わたしたちは選ばれた存在なので!」
それはそれで業が深いわね。洗脳と言う手段を取っているんだから……。
「……嫌いだわ……」
手段としては認めるけど、わたしの主義からは反する。わたしの側にいるならわたしのやり方でやらせてもらうわ。
「この二人を館に連れていって、わたしの配下にするわ」
「お、お嬢様。それはさすがに……」
「わたしにケンカを売ったことを後悔させてあげるわ」
おっぱいを悪さに使う者をわたしは許さない。女性を物扱いするのも許さない。拗らせた童貞は醜いものを嫌うの。汚す者は万死に値するわ。フフ。
「ラン。自害するものはあった?」
「はい。あとは、自害する催眠なり魔法なりをかけられてないかです」
「それは大丈夫よ。傀儡の指輪には自害防止も施してあるからね」
おっぱいが血で汚れるなんてあってはならない。そんなこと、わたしがさせないわ。
「見張っている者はいるかしら?」
「失敗と悟れば即座に逃げます。もういないかと」
「玄人はこれだから嫌ね。もっと足掻いてくれたらいじめてあげたのに」
裸吊りとかちょっとやってみたかったのに。男はボロクソに殴って吐かせるけど。
「ラン。この二人に服を着させて。わたしも手伝うから」
特にブラジャー(この世界にはあるんですよ)をつけるのは任せて。やってみたかったのよ。
「いえ、わたしがやりますのでお嬢様は休んでいてください。夜更かしは体に障ります」
確かにそうね。ブラジャーつけは諦めるわ。今回はナジェスのための遠出だしね。
「一人で大丈夫? 誰か呼ぶ?」
「このくらい問題ありません」
この子もどんな訓練を受けてきたのかしらね? まだ十七歳だというのに。これだから人権がない時代は嫌なのよね。
「じゃあ、先に休ませてもらうわね。あなたも終わったら休みなさい。無理して起きる必要はないわ。朝は一人で準備するから」
たまには一人でやらないと後々困るからね。
「このくらいで参る訓練はしておりません。時間どおりに起床します」
この子もプロ意識が高いわね。
「わかったわ。じゃあ、お願いね」
するなと言ったっていつものように起きるでしょうからね。無駄な問答は止めておきましょう。
毛布を丸めて身代わりとしたものを退け、ベッドに上がった。
疲れもあったのでしょう。瞼を閉じたら眠りに落ちてしまい、次は揺り起こされて目覚めた。
……がっつり眠っちゃったわね……。
「おはようございます。いい天気ですよ」
昨日のことがウソのようにいつもと変わらないラン。どこにも乱れがないわ。かえって哀れになってくるわね……。
「おはよう。あの二人は?」
「目覚めております」
視線を向けた先に二人が立っていた。
傀儡の指輪で目に生気は宿ってないけど、仕掛けられた催眠や魔法は効いてない。帰ったら排除する付与を施しましょうかね。
「名乗りなさい」
二人の前に立ち、命令をする。
「葉の六です」
「枝の四十三です」
名前すら与えられなかったか。惨いことをする。
「今このときよりあなたはコノハ。あなたコズエよ」
陥没少女がコノハでエロいのがコズエよ。
「あなたたちはわたしのものよ。自ら死ぬことも殺されることも禁止よ。必ず生き抜きなさい。これは絶対の命令よ」
「わかりました」
「わかった」
傀儡の指輪に絶対服従の付与を施した。
パン! と手を叩いて二人を正気に戻した。
元の記憶とわたしの命令が渦巻いているのでしょう。激しく戸惑っているわ。
「わたしは誰?」
そう尋ねると、二人が土下座をした。
……なんか転生者が関わっている臭いがするわ……。
「チェレミー様です」
「ご主人様です」
教育の違いかしら? それとも序列かしら? コズエのほうが下っぽいわね。
「そう。あなたたちの主。わたしのためにあなたたちはいる。異論は?」
「ありません」
「ないです」
「よろしい。ラン。あなたの下につかせるわ。二人を使いなさい」
ラン一人じゃ大変でしょうし、配下とさせましょう。
「畏まりました」
ランや二人の手を借りて、朝の支度を始めた。




