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令嬢ではあるけれど、悪役でもなくヒロインでもない、モブなTSお嬢様のスローライフストーリー(建前)  作者: タカハシあん
第2章

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75 薬医局

「改めて自己紹介をさせてください」


 朝食をいただき、少し休んでから場所を部屋に移した。


 部屋にはわたしとラーダニアさんの二人だけ。人払いさせたいんだろうと思ってね。そしたらラーダニアさんが雰囲気を変えてそんなことを言ってきた。


「ゴズメ王国薬医局所属ラーダニア・マリオンです」


 薬医局? ゴズメ王国にはそんな厚生労働省みたいな組織があるのね。さすが薬を輸出している国。うちの国も創って欲しいものだわ。


「不勉強でごめんなさいね。その薬医局と言うのは大きな組織なのかしら?」


「はい。独自権限が与えられるくらいには」


 それはもうスパイですと言っているものじゃないかしら。


「わたし、秘密を知っちゃったら殺されちゃうのかしら?」


 言っちゃダメなこと聞いたら抹殺ルートじゃないのよ。


「いえ、そんなことは致しません」


「では、違うことをしちゃうのかしら?」


 拉致ルートもあるかもしれないわね。有益な人材を連れ去るってこともあるし。


「なにもしません。失礼ながらチェレミー様のことを調べさせていただきました」


「齢十五年の小娘を調べてなにかおもしろいこと出てきたかしら?」


 王宮と言い、ラーダニア様と言い、わたしを調べすぎじゃない? 国家転覆とか考えてないんだから放っておいてくれないかしら。こっちはおっぱいぱいに囲まれてスローライフを送りたいのに。


「はい。田舎に引っ込むためにメイドに恨みをもたせ、自らの顔を焼くなど狂気の沙汰です」


 エルフでもそう見えるんだ。まあ、そう見せるために計画したんだけどね。


「狂気の女に会った感想はどうかしら?」


「素直に恐ろしいと思います」


 あら。恐ろしいとこ、見せたかしら? 真摯に対応したと思うのだけれど。


「あなたを調べている途中、王宮の影らに囲まれました」


 ヤダ。まだアザイヤを見張っているの? 執念深い組織なんだから。


「よく生きてられたわね」


 素直に感心するわ。王宮はそんなに甘くないと思ったのに。


「取引をし、それで協力関係を築かせてもらいました」


「ふふ。交渉上手なのね」


 わたしのところにも交渉できる人が欲しいわ。面倒事を任せたいよぉ~。


「そんな相手に笑えていられることが信じられません」


「王宮は国に害をもたらす者には容赦ないけど、私情や私怨では動かない。なら、別に恐れる必要はないわ。わたしは、穏やかに暮らしたいだけなのだからね」


 王宮はわかっているわ。藪をつついて蛇を出す愚に。見張りはするがなにもしない。必要なら協力を求める。それが正解だってことにね。


「……あなたは、何者なのですか……?」


「何者でもない、ただ、穏やかに暮らしたいだけの女よ」


 このエロフさん、見た目は二十半ばくらいだけど、まだ若いみたいね。ベテランは何者なんて訊かないもの。


「まあ、あなたの中でわたしをどう捉えるかは自由にしていいわ。隠遁者が世間体など気にもしないからね。それで、わたしに会いにきた理由はなにかしら?」


 王宮との取引がなんなのか気になるところだけど、聞いたところで厄介なだけなんだから流しておくが吉だわ。


「これを知っていますか?」


 と、ラーダニア様が懐から折り畳まれた紙を出し、開いてテーブルの上に置いた。


「なにかの種かしら?」


 植物に造詣がないのでなんだかわからないわ。蕎麦の実っぽいけど。


「コノセノと呼ばれる花の種です。高い山にしか育たないもので、種を取れるのは数十年に一度しかありません」


 高山植物ってことか。なにかの薬の材料になるってことかしら?


「つまり、それをわたしに咲かせろと?」


「はい。できませんでしょうか? もちろん、お礼はさせていただきます」


「わたし、草花なんて育てた経験もないし、草花に精通しているわけでもないわ。ましてやどこで咲く花かも知らない。少々無茶なお願いではないかしら?」


 そういうのって、植物系の魔法が得意なものにお願いするものでしょう。わたしは付与魔法が得意なの。系統違いでしょうよ。


「種に魔法はかけられないのでしょうか?」


「わたしの魔法は生物には施せないわ。必ず無機物でないと無理なのよ」


 できるなら男になっているわ。まあ、物質に男になる付与を施すことも考えたけど、実験もしないでやることはできないわ。怖いもの。


「……そう、ですか……」


 藁にもすがる思いでやってきたみたいね。


「一つ、わたしにもらえるかしら?」


 貴重な種みたいだけど、五粒はある。藁にもすがる思いなら一つくらいもらっても構わないでしょう。


「なにか方法があるのですか?」


「まあ、ないこともないわね。成功するかはわからないけど」


 直接が無理なら間接的にやればいいだけだわ。


「どうします?」


 嫌と言うならそれでも結構。わたしに損はないのだからね。


「お願いします!」


 と言うことで呼び鈴を鳴らしてメイドを呼び、サナリに菜園の土を持ってきてもらうよう伝えた。


 しばらくしてサナリがプランターに土を入れて持ってきてくれ、空いている壺に土を移し、種をちょこんと植えた。


 壺に種のDNAを読み取れるようにして、求める環境を創り出す付与を施した。


 我がチートここにあり、よ。


「ラーダニア様。しばらく館に滞在してください。様子を見ますので」


「ありがとうございます!」


 ふふ。これでエロフと混浴のチャンスを得られたわ。わたし、グッジョブ!

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