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令嬢ではあるけれど、悪役でもなくヒロインでもない、モブなTSお嬢様のスローライフストーリー(建前)  作者: タカハシあん
第2章

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60 肉体言語

 昼食が終わればプレゼントタイム。


 服飾メイドに作らせた下着や服を孤児たちに与えた。


 婦人会でも下着等はプレゼントしているでしょうけど、わたしのは付与魔法を施したもの。この冬を乗り越えられるよう発熱が施されているのだ。


「それと、これを。風邪を引かないようにする腕輪よ」


 リリヤンで編んだブレスレットを子供たちにつけてあげた。


 一人一人言葉をかけながら、小さな手を握って、優しく微笑む。決して嫌な顔を見せたりはしない。


 掛け値なしの、いや、この場合、掛け値しかない、かしら? これはカルディム家のため。パフォーマンスでしかないのだからね。


 年長の子供はわかっているでしょうけど、大人になってそんなことがあったと広めてくれるならやる価値はあるわ。仮に広まらなくても悪いウワサにならないなら充分だわ。


 子供たちを代表して賢そうな女の子が音頭を取ってお礼をしてくれる。さすがに泣いて喜ぶのはやりすぎなので、柔らかかく微笑んでおいた。


 小さい子の集中力も考えてプレゼントタイムは終了。年長者──十歳以上の男女を別室に集めた。


 人数は六人。女四人。男二人だ。


 十歳以上が少ないのは二年前の流行り病で抵抗力のない子供が死んでしまい、その年代の働き手(弟子制度があるみたいよ)がいなくなったので引き取られたそうよ。


「院長様から聞いていると思うけど、冬の間、男女一人ずつわたしが預かることになりました。ただ、あなたたちの意志を尊重したいので、いきたいと言う者は名乗り上げてください」


 そう告げると、全員が挙手をした。


「では、文字を書ける者はいますか?」


 女の子二人に男の子一人が挙手をする。


「計算ができる者は?」


 男の子一人だけが挙手をする。


「では、男の子はあなたね。出発の用意をしてきなさい」


 今日連れていくことも伝えてあるので、すぐに部屋を出ていった。


「あなたたち、得意なことはある?」


「わたしは掃除が得意です」


「わたしは繕い物が得意です」


 んー。特になし、ってことね。まあ、得意なことがあったら残ってないか。


「うん。まずはあなたにするわ」


 掃除が得意と言った女の子。代表してお礼を言った賢そうな子だ。


「今回初めてのことだから試しなこともある。いろいろやってもらったりするわ。辛いこともあるでしょうけど、次に続く子のためにもがんばってちょうだい。あなたたちの働き如何では城にも紹介できるのだからね」


 成功すれば叔母様にも勧められるし、優秀なら王都にも勧められる。しっかり育てましょうかね。


「出発の用意をしなさい」


 女の子が部屋を出ていったら残りの子たちを見回す。


「春にまた男女一人ずつわたしが預かるわ。それまでに文字と計算を勉強しておきなさい。婦人たちはときどきくるのだからそのときに教わるなり、誰かに聞いたりして自らを鍛えなさい。がんばっただけいい暮らしが近づくのだからね」


 言葉を切り、また子供たちを見回す。


「自分を助けるのは自分よ。わたしはそのお手伝いをするだけ。努力しなさい。努力を続けなさい。誰も見てなくともわたしは見ているわ。あなたたちの努力をね」


 孤児だからこそ強くならなければいけない。奪われる人生にしたくなければね。


「春を楽しみにしているわ」


 あとは院長さんに任せて部屋を出た。


 そのまま食堂に向かうと、婦人たちが子供たちに読み聞かせをしていたり、人形遊びをしたりしていた。


「叔母様。読み聞かせを始めたのですね」


「あなたが教育しろと言うからね。まずは読み聞かせから始めることにしたのよ。ただ、男の子がね……」


 見れば男の子たちはつまらなそうにしていた。


 まあ、この年代じゃ大人しくしているほうが苦痛よね。前世のわたしはインドア派だったけど、男の子は動かしたほうが学べるでしょうよ。


「男の子たち。わたしと外で遊びましょうか」


 スカートを外し、ズボン姿となる。こんなこともあろうかとスカートの下にズボンを穿いてきたのよ。


 髪を纏めてポニーテールに。靴を履き替えた。


「マーナ。ボールを」


「はい」


 サッとボールを差し出すマーナ。わたしのお付きとして練度が上がってきたわね。


 ボールを受け取り、そのまま外に向かった。


 外で待っていると、男の子たちが恐る恐る出てきた。


「これはボールと言ってこうやって遊ぶのよ」


 前世のわたしは運動が苦手だったけど、今生のわたしは運動神経は結構よかったりする。騎乗もすぐに覚えられたし、リフティングも三日くらいで三十回は続けられるようになったわ。


 男の子たちはリフティングにびっくりしながらも興味津々。目をキラキラさせているわ。


「ほら」


 男の子の一人に蹴り渡した。


 あわあわしながら取ろうとしたけど、受け損ねてボールがあらぬ方向に転がっていった。


 すぐに駆け出してボールを蹴り上げ、別の子に放った。


 楽しいとわかれば男の子に言葉はいらない。ボール遊びに夢中となった。


 上手い子下手な子普通の子。できない子も笑顔で駆け回っている。


 ボールは四つ作ってきたので、一つを投入。ボールの奪い合いが始まった。


「手を使っちゃダメよ! 足で奪うのよ!」


 そう注意しながら体で示し、体に教え込んだ。


 こういうとき男の子って楽よね。肉体言語のほうがわかってくれるから。


「ほら、わたしからボールを奪ってみなさい!」

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