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令嬢ではあるけれど、悪役でもなくヒロインでもない、モブなTSお嬢様のスローライフストーリー(建前)  作者: タカハシあん
第2章

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58 言葉にしてこそ

「これはおもしろいな」


 久しぶりに従兄に会ったのだからジェド(チェス)で親睦を深めることにした。


 知能派なマーグ兄様なら興味を持つんじゃないかと出したんだけど、それ以上に食いついてきちゃったわ。


「うむ。そうなるのか」


 頭の中で再現しているのでしょう。盤面を真剣に見詰めている。


「マーグ。次はわたしだ」


 見ていた叔父様がやりたくなったみたいでマーグ兄様を押し退けてわたしの前に座った。


「叔父様もこういう遊戯が好きみたいですね」


 カルディム家は肉体派より頭脳派が多い。考えながら遊ぶことが性に合っているんでしょうね。


 駒の配置を教えて一勝負。叔父様のペースで進め、待ったも許した。けど、初めてで勝てるほどジェド(チェス)は甘くはない。早々に詰められて投了となった。


「おもしろいな」


 マーグ兄様のように盤面を見詰めながら今のを頭の中で再現していた。


「駒の配置や動かし方は覚えたでしょうし、初心者同士でやってみてください。何事も数を重ねて上達していくものですからね」


 マーグ兄様に席を譲り、あとは二人に任せた。


「叔父上。待ったはなしですよ」


「ふふ。それはこちらのセリフだ」


 似た者同士なんでしょうね。すぐに二人の世界に入ってしまったわ。


「姉様。終わったらジェンガをやりましょう!」


 子供たちにはジェドは難しいのでジェンガを持ってきたのだ。


「いいわよ。ジェンガはおもしろい?」


 まずはどんなものか知るためにナジェスとレアナにやらせていたのよ。


「はい! おもしろいです!」


「兄様、すぐ崩したじゃないですか」


「レアナは慎重すぎるんだよ」


「はいはい。兄妹ケンカはしないの。勝負は勝った者が正義よ」


 皆仲良く、ゲームは楽しくもいいけど、競争心を育むのも大切だ。勝って嬉しい負けて悔しいという感情は今後の人生に大切なことだわ。


 それに、この家族団欒は宝となる。将来、二人が大人になったときにいい思い出になってくれたら嬉しいわ。


 そんな楽しい時間も子供たちの就寝まで。もっと遊びたいと駄々をこねる二人を宥めすかして寝室に連れていく。


 興奮する二人をお風呂で静め、上がったら蜂蜜入りのホットミルクを飲ませる。


 なんだか母親になった気分だけど、二人が懐いてくれるのは素直に嬉しいもの。つい世話を焼きたくなっちゃうのよね。


 一緒のベッドに入り、二人が眠るまで物語を語ってあげた。


 お風呂とホットミルクで落ち着いてからの物語。中盤辺りで二人は夢の世界へ落ちていった。


 完全に眠りに落ちたらベッドから抜け出し、ガウンを羽織って部屋を出た。


「お嬢様。どうかなさいましたか?」


 部屋の外には城のメイドが二人立っていた。


「コノメノウ様の様子を見にね。なにか問題はあった?」


「いえ。お付きの者からはなにも報告は上がってきておりません」


 それはなにより。大人しくしているようね。


 コノメノウ様の部屋に向かい、ジェンとカエラにも様子を尋ねた。


「夕食時に見たときは長椅子に横たわりながらお酒を飲んでおりました」


 一人酒が好きなお方だこと。よく延々と飲んでられるものよね。


 ドアをノックをすると、コノメノウ様が返事をしてくれた。


 入りますと声をかけて部屋の中に入る。酒の臭いが満ちているということもなく、コノメノウ様は長椅子に横たわったまま。時間が停止したみたいだった。


「どうかしたか?」


「様子見です。不便はありませんか?」


「静かでいいくらいだ」


 なにか遠くを見詰めて微笑むコノメノウ様。幼女のそれではなく、長く生きた老婆のような達観した者だけが許される微笑みね……。


「それはようございました。お風呂は如何なさいますか?」


「今日はいらぬ。あ、熱燗をくれ。ブランデーは香りはいいが、静かに飲むのには不向きだ。こんな夜は熱燗が似合う」


 飲兵衛の理屈はわからないけど、飲みたいと言うなら用意するのみ。メイドに用意してもらう。


「これはなんだ?」


「囲炉裏と言うものです。この鉄瓶に清酒を入れて炭火で温めてください。干した魚を炙って食べるのも美味しいですよ」


 叔父様のお土産に持ってきたものだけど、コノメノウ様が使うなら文句も言われないでしょうよ。


 使い方を教え、一杯だけ付き合った。


「寂しくなったらいつでも付き合いますよ」


「……そなたは見透かすのぉ」


「わたしはなにも見えていませんよ。見透かされたくないのならそんな顔をしないでください。コノメノウ様は顔に出すぎです」


 大きくは変わらないけど、些細な変化は見せている。きっと根本は感情豊かな方なんでしょうね。立場的にできなくなったんでしょうね。


「わし、顔に出ているか?」


「顔と言うか、目線ですね。なにかを思うとき、コノメノウ様は上を見て、思考しているときは下を見てます。なにか隠しているときは口角を上げていますよ」


 なんともわかりやすい方である。ポーカーとかやっちゃダメなタイプだわ。


「……よく見ておるのぉ……」


「この国に取って大切なお方。なにかあればカルディム家の責任となります。些細なことでも見過ごせませんよ」


 コノメノウ様がわたしを見ているように、こちらもコノメノウ様を見ている。信頼関係を築くにはお互いを知る必要がありますからね。


「……そなたは恐ろしいの……」


「わたしは人畜無害ですよ」


 なにもしてこなければ、ですけど。


「人畜無害なヤツは自ら言ったりはせぬぞ」


「人は言葉にしなければ伝わらない生き物。思うだけでは伝わりませんよ」


 なにかあるなら言ってください。こちらも言いたいことは言いますんで。


「……そうだな。なにかあれば言葉で伝えるとするよ」


 下がれと手を振られたので、一礼してコノメノウ様の前から下がった。

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