53 わたしは虹色
部屋に入ってきたのは四人の女性騎士。年齢は二十歳くらいかしら。
上は八十、下は八十。皆仲良く八十戦士。じゃなくて八十センチ。おっぱい四銃士ね。
……戦士でもなく銃士でもねーよって突っ込みはしないでね……。
「ジェン・ブライデアです」
「ルーア・ロンダンクです」
「マリアナ・バインドです」
「カエラ・ロバンダです」
この世界がゲームか漫画かと思う理由に、髪の色がカラフルってこともある。
わたしの髪は茶色だ。この世界によくある髪色。モブの中のモブ色だわ。
だけど、ジェンは金髪。ルーアは青髪。マリアナはピンク髪。カエラは赤髪と、どんな色素が働いているのかしらね? ファンタジーな世界は謎がいっぱいだわ。
「伯爵令嬢ごときに騎士四人とは豪勢ね」
公爵令嬢だって四人はつかないわ。いや、一例しか知らないからなんとも言えないけどさ。
「お嬢様の立場を考えれば当然かと」
とはラグラナ。つまり、王宮かお妃様の力が働いているってことか。益々取り込まれそうね。ハァー。
「あなたたちは、わたしのこと聞かされた?」
「はい。重要な方なので必ず守れと厳命されました」
ブラックリストの上位に載っちゃった感じね。
「この四人の代表は誰?」
「わたしです」
と、ルーアが前に出た。メガネをかけた騎士ってのも珍しいわね。
「視力が悪いの?」
「いえ。魔力光が見えやすい体質で、抑えるためにつけています」
魔眼か。そんな人もいるのね。
「メガネで抑えられるものなの?」
「付与師に施してもらいました」
「あら、わたし以外に付与魔法を使える者がいたのね」
わたしだけとは思ってないけど、いるならそちらに回して欲しいものだわ。
「お嬢様ほど力を持った者はおりません。大概は一つの力を施すのが精一杯です」
そうなんだ。残念。
「ルーア。わたしの魔力光って何色かしら?」
これまで魔力に光があるなんて聞いたこともなかった。ちょっと興味があるから教えてちょうだいな。
「虹色です」
「……虹色?」
七色レインボーってこと?
「はい。普通は一色なのですが、チェレミー様は虹色に光っております」
「……どうやら希な存在みたいね、わたしって……」
いや、前世の記憶を持っているヤツなんて希でしかないけど、虹色の魔力光って、確実にレアよね。捕まったら高額取引されそうね。
「希でないと思ってないことに驚きです。もっと自分の価値に気づいてください」
「わたしの価値、ね」
そうね。これが男なら喜びところだけど、女でレアとか罰でしかないわ。火傷くらいじゃ操を守れないじゃない。暗いところに連れ込まれたら火傷とか関係ないしね。
……ワンチャン、男の娘ならイケるかしら……?
いや、自分が子供を産むとかないわね。男の娘でもなしだわ。
「ちょっとメガネを貸してくれる? どんな付与が興味があるから」
他人の付与がどんなものか知れるチャンスは活かしておかないとね。
ルーアからメガネを借りて……もわからないわね。付与を見抜ける能力なんてないし。
「メガネを作る職人って王都には結構いるのかしら?」
「はい。視力の弱い者は結構いますので。ただ、高額なのでそれなりの者にしか手に入れられませんが」
でしょうね。手工業な世界では。
「ありがとう。ラグラナ。モノクルってどうなっているかしら?」
「アマデア商会には発注しました。そろそろ届くかと思います」
この世界じゃいつ到着するかなんてわからないか。翌日配達の素晴らしさを異世界で知ったわ。
「そう。ルーア。護衛体制はラグラナとランも混ぜて話し合ってちょうだい。あと、マエラに四人の寸法を測らせておいて。四人の服を統一させたいから」
なんか四人が着ている服がダサいのよね。胸も無理矢理締めつけているっぽいし。そんなんじゃ女騎士のよさが出ないわ。
「あ、でもその前にお風呂に入りなさい。髪も肌も汚れているじゃない。わたしの護衛なら綺麗にしなさい」
今日着いたから仕方がないけど、これからは綺麗に、いい匂いをさせてなさい。それでこそ女騎士の在り方だわ。
「わたしのお風呂も使っていいわ。しっかり旅の垢を落としなさい」
できることなら一緒に入りたいけど、さすがに騎士とお風呂はできない。いや、いずれできるようにするわ。今は我慢よ。
「畏まりました」
全員が下がればアマリアを呼び、ロイヤードを呼んでもらった。
十分もしないでロイヤードが部屋にやってきた。全速力で走ってきたのかしら?
「お仕事中ごめんなさいね」
「いえ。ちょうどマクライ様と話をしていたので。どのようなご用件でしょうか?」
「これに書いたものを集めてちょうだい。急がなくていいけど、一月以内に用意してくれると助かるわ」
欲しいものリストをロイヤードに渡した。
「……かなりの量ですね」
「人が増えると必要なものが増えるのよ。ときに、あなたが着ているベスト、いつも着ているけど、お気に入りなの?」
初対面のときも着ていた。シャツとかは替えているのに。
「え? いえ、これ一つしかないので着ているだけです」
「あら、そうなのね。商人はよく着るものなの?」
マゴットもラデガルもベストを着ていた。商人の証なのかしら?
「そう、ですね。財布みたいなものなので」
財布だったんだ、それ。革袋とかじゃないのね。
「そのベストに収納の付与を施せば売れるかしら? ポケット一つに五倍、いえ、十倍の容量を施せるわ。なんなら防御力も施せるわよ」
後ろから刺されそうな商人には喜ばれるでしょうよ。
「売れます! 是非、お願いします!」
「じゃあ、まずはあなたのベストに施すから改良点があるなら教えてちょうだい」
ロイヤードにベストを脱いでもらい、ポケットに拡張の付与を施した。
「すぐに試してベストを用意します!」
王宮から寄越された影だけど、商売が好きだから選ばれたみたいね。人材が豊富で羨ましいわ。
引き出しからコーヒーを出し、お昼までゆっくりすることにした。




