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令嬢ではあるけれど、悪役でもなくヒロインでもない、モブなTSお嬢様のスローライフストーリー(建前)  作者: タカハシあん
第1章

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36 回復

「チェレミー。指輪です」


 叔母様のメイドが宝石箱を持ってきた。


 領主代理である叔父様に爵位はない。カルディムの名を名乗られるだけだ。自由にできるお金も決まっている。おそらく、一年で金貨四十枚から五十枚と言ったところかしらね?


 それは、叔父様個人にではなく、叔父様一家に与えられたものでしょう。宝石箱と中身の指輪でよくわかるわ。


「チェレミー。どうかしましたか?」


「いえ。なんでもありません」


 さすがにもっといいものを買ってあげなさいよ、とは言えない。それは領民の血税を使うってことだからね。今度、ドレスでも贈ってあげましょう。叔父様の名前でね。


「大切な指輪はありませんよね?」


 いや、どれも大切なんでしょうけど、結婚指輪(ここがゲームか漫画の世界かと疑う一つね)を使うわけにはいかないわ。


「ええ。普段身につけるものよ」


「では、この指輪に治癒力増加の付与を施します。ナジェスの指に嵌めてあげてください。それで回復していくでしょう」


 指輪をメイドに渡してナジェスの指に嵌めるよう指示を出した。


 次に浄化の付与を施したものを叔母様に嵌めさせた。


「それで部屋の中の穢れは浄化されます。ナジェスの側にいてあげてください」


 立ち眩みがして叔母様に支えられてしまった。


「だ、大丈夫なの? 顔色が悪いわよ」


「四割の魔力をいっきに使いました。申し訳ありませんが、水をください」


 メイドに水をもらい、いっきに飲み干す。さすがに四割の魔力をいっきに使うと結構くるわね……。


「少し、休ませてもらいます」


 部屋の長椅子に腰を下ろし、背もたれに身を任せた。


「失礼します。お嬢様、ナジェス様を担当していたメイドを隔離しました」


「そう。とりあえず着替えさせて服は熱湯で煮なさい。指輪を一つ取ってちょうだい」


 メイドから受け取り、浄化の付与を施した。


「メイドを隔離している部屋で誰かに嵌めさせなさい。用足しのときはそれを嵌めて出ること」


 いつも以上にクラクラするわね。やはり、レオに騎乗してきたから疲れたのかしら? ウォーキングしたくらいじゃ体力はつかないのね。


「叔父様。申し訳ありませんが、少し休ませてもらいます」


 と、意識が途切れ、目が覚めたら知らない天井の下にいた。あれ? わたし、どこにいるの?


「お嬢様。ご気分は如何ですか?」


 横から声がして振り向いたらメアリアがいた。


「……そうだったわね。城にきてたんだったわね……」


 すぐに理解できないとか、よほど疲れていたのね、わたしったら。


「水をちょうだい」


 上半身を起こすと、すっとコップが差し出された。手際がいいこと。


 ゆっくり飲み干し、ふーと息を吐いた。


「ナジェスはどう?」


「落ち着いたと報告を受けております」


 寄生虫とかは入ってないみたいね。やはり水あたりだったわ。ナジェスは胃腸が弱いのかしら? お腹を壊しやすいとは聞いてないけど。


「なにか食べるものをお願い。魔力を回復したいからたくさんね」


「そんなにいきなりではそれこそお腹を壊しますよ」


「大丈夫よ。わたしの胃は丈夫だから。寝起きでもこってりした肉くらいは食べられるわ」


 もう半年以上続けてきたこと。もはやわたしの胃は鋼鉄製よ。


 すぐに料理が運ばれてきてすべて平らげ、最後に紅茶で一息をついた。


「なにか問題は?」


「今のところ問題は出ておりません」


「それとなく城の外に今回のことを流しておいてちょうだい。下手に隠したりしてはダメよ。ただ、わたしの力で治したとかは隠してちょうだい。このことが知れたら騒がしくなるからね」


 いずれバレるとしても今はダメ。まだわたしには跳ね除ける力がないのだからね。


「畏まりました。ロングルド様に伝えます」


「よろしく。朝まで休ませてもらうわ。なにかあれば起こしてくれて構わないから」


 そう告げてお休み三秒で夢の中。揺さぶられて起きたら朝になっていた。


「……なにかあった?」


 回復前に目覚めたからちょっと頭が回らない。やはり枕が変わるとダメね……。


「ナジェス様が目覚めました。お腹が空いたと話していますが、食べさせてもよろしいでしょうか?」


「まずは白湯をゆっくりと飲ませて。今は胃が弱まっているから刺激してはダメよ。落ち着いたら麦粥を少しずつ食べさせてあげてちょうだい」


 治癒力増加で回復したようね。よかったわ。


「起きるわ」


 メイドたちに寝巻きを脱がしてもらい、久しぶりに昔のように洗顔やトイレをさせられた。はぁー。城にもトイレを創らないといけないわね……。


 ちょっとブルーになりながらも一族専用の食堂に向かった。


「おはようございます、叔父様。眠ってはいないのですか?」


 ちょっと疲れたような顔をしていた。顔くらい洗ったらどうです?


「ああ。心配で眠れなかったよ」


 いい父親ね。いや、お父様も子供思いだからカルディム家の血ね。


「ナジェスも落ち着いたようですし、昼まで仮眠してはいかがです? あとはわたしが看ますから。あ、今日、わたしのお抱えが珍しいお酒を持ってきます。美味しく飲むためにも体調をよくしておいたほうがいいですよ」


「ほぉう。おもしろい酒か。なら、起きてなくてはいかんな」


 酒好きな叔父様。疲れがどこかにいってしまったようだ。


 まあ、これならわたしの話を聞いてくれそうね。がんばった甲斐があるってものだわ。

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