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令嬢ではあるけれど、悪役でもなくヒロインでもない、モブなTSお嬢様のスローライフストーリー(建前)  作者: タカハシあん
第1章

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35 初動

 部屋には叔父様だけではなく、叔母様もいた。


「お久しぶりです。なんの連絡もせず押しかけてしまい申し訳ありません」


 貴族としては礼をかく行為なので、真っ先に謝っておく。


「いや、すぐにきてくれて助かった。お前なら朝にはくるだろうと思ったが、まさかその日にくるとはな。相変わらず行動が読めない子だ」


 わたし、問題はさっさと片付けたい主義なの。そうじゃないと精神的負担がハンパないもの。身軽な気持ちで人生を過ごしたいわ。


「それで、ナジェスの様子はどうですの?」


 貴族としての立ち回りも大切とわかるけど、あるていど調えたら身内のノリで進めさせてもらいます。


「しばらく前から熱が下がらない。腹も下しているようで衰弱している」


「医師はなんと?」


「食あたりではないかと言っている」


 ヤブか! と叫びたいのを我慢。今の医術、ましてや伯爵につく医師なんてそんなものよ。まだ薬学のほうが発展しているわ。


「体調が悪いのはナジェスだけですか? 似たような症状を出している者はいますか?」


「いや、いない」


 つまり、流行り病ではなく、ナジェスだけに発症した事案か。


「ナジェスの側仕えを呼んでください」


 領主代理の子とは言え、カルディム家の後継者の一人。お兄様になにかあればナジェスがカルディム家を継がなくてはならない身。万が一に備えてお兄様と同じ教育を受けさせられ、側仕えをつけられるのよ。


「ナジェスを診たほうがよいのではないか?」


「生憎、わたしは医師でもなければ薬師でもありません。叔父様たちにはなんでもできそうに見えるでしょうけど、わたしはできることをやっているまでにすぎません」


「あ、ああ。わかった。マルセオ。ナジェスの側仕えを呼べ」


 外に向かって叫ぶと、扉が開いてマルセオと十八、九の青年が入ってきた。


「ナジェスの側仕え、ライエルだ」


 あ、確かにナジェスの側にいたわね。名前までは知らなかったけど。


「ライエル。さっそくだけど、ナジェスが体調を崩す前のことを教えてちょうだい。別にあなたを罰しようと思っているわけじゃないから安心して。わたしは、ナジェスの体調が悪くなった原因を知りたいだけだから」


 叱咤されると思っているか、叔父様に叱咤されたかはわからないけど、物凄く青い顔をしているわ。無理もないけどね。


「あなたはあなたの知っていることをわたしに教えて。ナジェスを助けるためにもあなたの協力が必要なの。力を貸してください」


 震えるライエルの手を取り、優しく微笑んでみせた。


「……わ、わたしでできることならなんなりと……」


「ありがとう。では、体調が悪くなる前のナジェスの日程スケジュールを教えて。そうね。五日前くらいからお願い」


 大体病気は二、三日で発症するもの。以前から体調が悪かったでもなければ五日前くらいからで充分でしょうよ。素人の見立てだけど。


 ライエルはゆっくりと語り出し、わたしは聞き漏らさないよう集中する。


 五日前はこれと言ったことはなく、朝起きて、食事をして、勉強をする。いつものスケジュールだ。


 次の日も同じで、三日前は馬術、剣術と、体を動かすことをしたが、変わったことはなかった。


 二日前は叔父様と馬車で視察に出たようで、メイドや側仕えも一緒で、川の側で釣りをしたようだ。


 釣った魚は食べることはせず、用意してきたものを食べたそうだ。


 昨日はいつもように起こしにいったら熱を出しており、嘔吐と下痢を繰り返したそうだ。


 まず考えられるのは視察のときになにかあったってみるべきでしょう。時間的にもそこが怪しいものね。


 誰かに狙われた、なんてないわね。うちに跡目争いなんてないし、派閥もない。これがお兄様って言うならその可能性もあるけど、ナジェスを狙ったところで得する者なんていないわ。


 誰かに罪を被せるなんて考えるのも無駄ね。恨みも同じよ。ここ数年、恨まれるような領地経営してないしね。


「……視察のとき出されたものは叔父様も食べたのよね?」


「はい。そうです」


 叔父様を見たらそうだと頷いた。


「……水は? 持っていったものを飲んだ?」


「はい。いえ、泉で飲みました。ですが、我々も飲みました」


「ああ。視察の途中にある、誰でも飲んでいる泉だぞ」


「それが原因ね」


 まあ、水だろうとは思ってたけど、まんまその通りかい。食あたりならぬ水あたりとはね。ヤブとか思ってごめんなさい。


「水だぞ?」


「水を疎かにしたらダメですよ。土地が違えば水も違います。飲み慣れてない者には毒になるときもあります。よく生水は飲むなと言われるように水だからと言って安心はできません。水が合わなければ死ぬことだってあります。水に病気が染みていたり虫がいたりしても死ぬことがあるんです」


 下痢だけならまだしも嘔吐? なんかナジェスの体に合わないものが混ざっていたってことでしょうよ。


「大人なら体も強いので多少の毒でも腹痛くらいで済みますが、まだ体ができあがってない子供なら腹痛では済みません。水が悪くて死ぬ子供は多いのです」


 まあ、調べたわけじゃないけど、よく小さな子供が死ぬって話は聞いたわ。


「叔母様。使っていない指輪があればお貸しください。可能なら十個ほど。それと、排泄物で汚れたものは燃やしてください。触ったメイドは一時的隔離を。城の者には手洗いとうがいを徹底するよう厳命してください。叔父様。惚けている場合ではありません。こう言うのは初動が大切です。指示を」


「あ、ああ、わかった。マルセオ。頼むぞ」


「畏まりました」


 丸投げかい! とは言わない。そのためにマルセオたちがいるんだからね。


「マルセオ。なにか疑問があれば遠慮なく尋ねてきなさい。いいわね?」


「はっ。畏まりました」


 できる執事がいてなによりだわ。

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