27 フリティラリア公爵の誕生祭 18
どういうわけか。
セリアが私の『先見』をし、その先見に色が付いていると説明を始めた途端、ラカーシュがはっとしたように息を詰めた。
それから何か言いたげに口を開き、思い直したように閉じる……という行為を繰り返す。
何をやっているのかしら?
そう不思議に思ったけれど、まあいいわ、セリアが助かったことだし、ここから先はラカーシュとは他人だわと(注:元々他人です)彼についてはあまり気にしないことにする。
それよりも、私にすがりついて泣きじゃくるセリアの可愛らしいことといったら。
私はぎゅうぎゅうとしがみついてくるセリアを見下ろしながら、微笑ましい気持ちになった。
私には兄と弟といった男兄弟しかいないけれど、妹がいたらこんな感じなのかしら。
そう思いながら、セリアのサラサラの髪を撫で、余計な口は挟まずに、セリアが落ち着くのを待つ。
少しずつセリアの嗚咽が小さくなってきたので、泣き止みそうなのかしらと顔を覗き込むと、セリアはごしごしと乱暴に目元をぬぐっていた。
それから、泣き濡れた顔を上げると、私を見てにこりと微笑んだ。
まあ、かわいらしい。目元も鼻も赤いけれど、そこがまたかわいらしいわ。
そう思い、無意識に髪を撫でる。
すると、セリアはにっこりと白い歯を見せ、喜びが弾けるような表情で口を開いた。
「ルチアーナ様、……ありがとうございます! ルチアーナ様のおかげで、私は未来とつながることができました。本当に、ありがとうございます! 私に途切れていた生を与えてくださって」
きらきらと輝くセリアの瞳が一心に私を見つめていて、少しくすぐったい。
私はつられて笑顔になると、セリアに向かって優しい声を出した。
「セリア様、私はたまたまこの場に居合わせただけですわ。セリア様の運命を変えることが出来たのだとしたら、今まで必死になって運命に抗おうとしていたセリア様とラカーシュ様のおかげだと思いますよ」
実際、発言した通りだと思う。
セリアの視た、私が登場する『先見』に色が付いていたという話については、その能力に詳しくないので分からないけれど、私が一人でセリアの運命を覆したという見解は的確ではないだろう。
ゲームの設定においても、私にそんな能力はなかったはずなので、セリアの勘違いに違いない。
そう考える私に対して、セリアはとんでもないことだというように大きく首を横に振って、否定してきた。
「いいえ、いいえ、ルチアーナ様! もちろん、ルチアーナ様ですわ! 私に引き続きの未来をくださったのは!」
「……では、セリア様、ラカーシュ様、サフィアお兄様、私の皆が頑張ったからということにしておきましょうか。ふふ、よかったですねえ、セリア様。あなたの未来にはきっと、楽しくて、美しいものが待っているわ。人生をお楽しみくださいね」
セリアの話を聞いているうちにだんだんと、セリアが助かったということを実感できて嬉しくなり、私は思わずふふふと声に出して笑った。
……ああ、よかったわ。ラカーシュに妹がいると分かった時、そして、セリアが命を落とすと分かった時、私に出来ることはないと諦めなくて。
お兄様の力を借りることができて、ラカーシュと協力することができて、だからこそ、セリアは元気で生きている。もう、臆病者の私からしたら、満点じゃないかしら。
そう思って笑っていると、サフィアお兄様から意味深な表情で見つめられた。
「気を付けろよ、ルチアーナ。お前は外見だけは完璧なのだから、これだけのことを成した後で、女神のように微笑んでみろ。狂信者の1人や2人現れたとしても、それは身から出た錆というものだからな」
「ええ? 言われている意味が分かりません。そもそも、この場には4人しかいないのだから、狂信者って……」
言いかけた私の視線の先に、セリアが両手を握りしめ、頬を真っ赤にして、瞳をキラキラと輝かせているのが見えた。
私は思わずごくりと唾を飲み込むと、無言のままそろりと視線だけを動かした。
セリアの隣に立っていたラカーシュは普段通りの無表情だったけれど、その頬は紅をさしたように赤くなっている。
「へ?」
驚いて、思わずまじまじとラカーシュを見つめる私の後ろで、面白そうな兄の声がした。
「すごいな、ルチアーナ。彫像に血を通わせるなんて」







