286 緩衝地帯で一休み? 2
カールの前には5種類ほどの小皿が並べてあって、いかにも聖夜らしい料理が少しずつ盛り付けられていた。
基本的に聖夜の料理は大勢で食べることが想定されており、目で見て楽しめるよう大皿に格好よく盛り付けてある。
一方で、カウンターにはお一人様用に取り分けた小皿が準備してあるから、カールはそれらの小皿を取ってきたようだ。
けれど、せっかくの聖夜なのだから、どうせなら皆で大皿料理を食べたいわよね。
そう思った私は、カールに質問する。
「カール様はお腹に余裕がありますか?」
「……ああ」
何を尋ねられた分からない様子のカールは、戸惑いながらも返事をした。
一方、勘のいいダリルはピンときたようで、心得たとばかりにウィンクすると、料理が並べられたカウンターに向かっていった。
しばらくすると、ダリルはたくさんの料理を抱えた2人の給仕係を引きつれてやってくる。
給仕係はテーブルの上に、抱えていたお皿を並べていった。
大きなピザ、鍋ごとのビーフシチューにチーズフォンデュ、プラムプディングにミンスパイ、それから、丸ごと一羽のターキーまである。
私たちはカールを囲むような形で席に座ると、いたずらが成功した子どものようににかりと笑った。
「さすがダリルね! 美味しそうなものを全部注文してきたじゃないの」
「今日の夕方まで眠って、頭がすっきりした僕に抜かりはないよ」
あら、ダリルったら睡眠情報をペラペラとしゃべって、見せないと言った手の内を見せているわよ。
全員でテーブルにつくと、セリアとユーリア様が笑顔で料理を見つめてきた。
「いかにも聖夜らしくて美味しそうなお料理ですね」
「ええ、どのお料理も目に鮮やかで、取り分けるのがもったいないくらいだわ」
私は頷きながら2人に同意する。
「そうですよね。こういう場合は、誰にどの部分を取り分けるのかが難しいんですよね」
私の声が聞こえたのか、ダリルがはいっとばかりに元気よく声を上げた。
「僕はターキーレッグがほしい!」
ダリルはほかほかと湯気が出ているターキーを指差すと、反対側の手で小皿を差し出してきた。
「任せてちょうだい!」
私はナイフとフォークで丸ごとのターキーを切り分けると、ダリルの小皿に取り分ける。
「まあ、お姉様、とってもお上手です! 私は……胸の部分を食べたいです」
セリアから新たなオーダーが入ったので、私はもう一度カトラリーを握り直すと、ターキーに向き直った。
「とてもいい選択ね!」
「私も胸肉をいただけるかしら」
「もちろんです!」
ユーリア様からも胸肉を要望されたので、言われた通りに切り分けていると、お肉の間に丸いボールのようなものを発見する。
あら、いいものが入っていたわ。
私はそ知らぬ顔をしてその部分を切り取ると、カールの前に置いた。
「どうぞ、ターキーです」
カールだけが『この部分がほしい』と要望を言わなかったのよね。
そして、私が前世で暮らしていた日本には、『残り物には福がある』ということわざがあるのよね。
つまり、今のように最後の人の分に、素敵なものが入っているということだわ。
私は大皿に盛られたピザやミンスパイを切り分け、さらにビーフシチューを取り分けた。
皆は私が作業をする間、食べずに待っていてくれ、楽しそうにあの部分がほしい、この部分がほしいと要望を出してくれる。
「お姉様、ピザに1つだけ載っている冠の部分がほしいな!」
ダリルはニンジンとコーンを組み合わせて作られた王冠を指差すと、きらきらと目を輝かせた。
「もちろんですわ、小さくて可愛らしい王様。さあ、あなた様にふさわしい王冠入りのピザを献上いたしましょう」
深く頭を下げながら恐れ多いとばかりに小皿を差し出すと、ダリルは楽しそうに目を輝かせた。
「うむ、苦しゅうない。しかし、朕はだらだら生活が好きだから、この王冠を食べてしまったら王様は辞めるぞい」
すぐに話に乗ってきたダリルに合わせ、私はしかつめらしい表情を作る。
「まあ、それは早過ぎですわ。王様を辞めるのは、全てのエリアを回った後にしてください」
「うむ、そんなことをしたら、面倒なことに巻き込まれそうだから嫌だぷい。急いで王冠を食べるぞい」
「ふふふ、ダリルったら」
茶目っ気たっぷりなダリルを見て、私は我慢できなくなって笑い声を上げる。
よかったわ。ダリルがとっても楽しそうだわ。
ダリルがこれまで逃してきた大勢の人と楽しむイベントを、少しでも体験できたのなら嬉しいわね。
そう思っていると、カールが感動したように独り言を呟いた。
「これが……家族での食事か。とてもいいものだな」







