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悪役令嬢は溺愛ルートに入りました!?  作者: 十夜


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283 ときめきの聖夜祭 17

「ル、ルチアーナ嬢!」

ジョシュア師団長が焦った声を出したけれど、女性に優しい彼は私を無理矢理引き離すことはしないはずよ、と引っ付いたままでいた。


すると、師団長から心を落ち着かせるような清涼な香りが漂ってきたため、私は頭をぴたりと彼の胸に付ける。

「ジョシュア師団長はとてもいい匂いがするのね。ずっとくっついていたら、私も同じ匂いになるかしら」


願いを込めて囁くと、ジョシュア師団長は荒い息を吐いた。

「ふー、ふー、一旦落ち着かせてくれ」


「心臓が早鐘のように打っているわ。どうしてかしら?」

耳を付けている彼の胸元から、激しい拍動が聞こえてきたので尋ねると、ジョシュア師団長は短い答えを返してきた。

「理由は知っているだろう」


そうかしら。

「3か月前は知っていたわ。でも、人の心は移り行くものでしょう。だから、今は知らないわ」


ジョシュア師団長をじっと見上げると、彼は食いしばった歯の間から言葉を零す。

「……私の気持ちはそう簡単に変わるものではない」


「じゃあ、私があなたに抱いている感情の、半分くらいの好意を抱いているってこと?」

曖昧な言い方をされたので、はっきり尋ねると、ジョシュア師団長は不快そうに片方の眉を上げた。

「半分だって?」


心外だとばかりに尋ね返されたので、私は指を伸ばすとジョシュア師団長の唇に当てた。

それから、つ……とゆっくり指で唇をなぞる。

「それとも、私の感情の倍くらい? ……だったら、私はあなたの愛情に溺れてしまうわね」


そう言うと、私はぱっと身を翻してジョシュア師団長から数歩離れた。

「でも、私は溺れたくないから、逃げ出しちゃうわ」


離れた時は、上手く出し抜いたと得意満面で、ふふっと笑ってみたけれど、すぐにジョシュア師団長との距離を寂しく感じてしまう。

私はしょんぼりしながら師団長を見上げた。

「ねえ、私を捕まえてくれないの?」


すると、師団長はたったの2歩で私の前まで来た。

それから、体を屈めたかと思ったら私を横抱きにする。


「まあ、高いわ!」

ジョシュア師団長と同じくらいの目線になったため、びっくりして周りを見回す。

「すごいわ。これがジョシュア師団長の視点なのね。……このわずかな高さの違いで、あなたは多くのものが俯瞰できるようになって、色々なものに気付いて、苦労をするのね」


私は優しい表情で彼を見つめると、彼の頬に片手をあてた。

「あなたが大変な状況に陥って、一人では抱えきれないと苦しくなった時は、こうやって私を抱き上げてくれる? そうしたら、私はあなたと同じものを見て、同じことに悩めるから」


それから、私はジョシュア師団長の胸にすりりっと頬をすりつけた。

「それに、さり気なくくっついて、あなたと同じ匂いになるわ」


「……無理だ!」

それまでずっと、無言で私の話を聞いていたジョシュア師団長が突然叫び声を上げる。

そのため、私はびっくりして目を丸くした。

「えっ?」


驚く私には目もくれず、ジョシュア師団長は耐えられないとばかりに頭を振った。

「本当にあなたは酷いものだ! 分かったぞ! 完璧に理解した! あなたが酷い恋愛音痴に育ったのは、サフィアの教育が悪かったのだと考えていたが、むしろあいつはあなたに完璧な教育を施していたのだな」


「……完璧な教育? それほど私のマナーは素晴らしいかしら?」

褒められたのかしらと思って微笑むと、ジョシュア師団長はどうしてくれようか、とでもいうような目で私を見てきた。


「……はあ、そんな風に勘違いをするところも可愛らしいね。だが、そうではない。あなたは全男性に対する抵抗不可能な誘惑なのだ。もしもあなたが恋愛遊戯を楽しむタイプだったならば、多くの男性が犠牲になっただろう。だから、サフィアはできるだけあなたが無害な存在となるよう育てたに違いない」


ジョシュア師団長の言葉は私を褒めているように聞こえたけれど、そんな大したものではないわとしょんぼりする。

「今の私は悪役令嬢のなりそこないだわ」


私の言葉を拾ったジョシュア師団長は、意味が分からないとばかりに顔をしかめた。

「悪役令嬢? 悪女の令嬢版ということか? そうであれば、なりそこなってくれて助かった。そうでなければ、私はあなたの下僕になっていただろうからな」


「そうなの?」

きょとりとした私を見て、ジョシュア師団長は苦笑した。

「いや、やはりこんな風に育ったのはあなた自身の資質だな。あなた自身が純真で、多くの男性を手玉に取ろうとは考えないタイプだったから、今のあなたになったのだ」


ジョシュア師団長は私をまっすぐ見つめると、困ったように首を傾げた。

「ルチアーナ嬢、申し訳ない。私には恋愛耐性がないため、これ以上お付き合いすることはできない。ここで離脱させてもらう」


どういうことかしらと考えていると、師団長はじっと私の瞳を見つめてきた。

それから、とても優しい声を出す。

「濃いピンク色だ。これは相当強くかかっているな。……魅了解除」


その言葉を聞いた瞬間、私の体から力が抜けた。

とはいえ、ジョシュア師団長が私を抱きかかえていたので、よろけることはなかった。


「……ルチアーナ嬢、大丈夫か?」

ジョシュア師団長が心配そうに尋ねてきたけれど、私は眠る直前のような気持ちのいい状態になったため、少し眠らせてと目を瞑ったのだった。

いつも読んでいただきありがとうございます!

このたび、「このライトノベルがすごい!2026」単行本・ノベルズ部門で溺愛ルートが5位にランクインしました。

めちゃくちゃありがたくてすごいことで、全て投票くださった皆様のおかげです。本当にありがとうございます!!!


大感謝の気持ちを込めて、今日から2日連続で更新します。

皆様、本当にありがとうございました(っ_ _)っ

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どうぞよろしくお願いします(*ᴗˬᴗ)⁾⁾

― 新着の感想 ―
(・o・;)
ルチとジョシュア‥恋に落ちて欲しいですけど、やはりダメそうですわ。勿体無い‥
サフィアお兄様の英才教育ですな!! サフィアがルチアーナに度々やってた出来事がルチの経験に繋がった瞬間! サフィアがルチアーナに言ってそうなセリフにキュンキュンしまくりました♥️♥️ そしてジョシュア…
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