281 ときめきの聖夜祭 15
こてりと首を傾げて見上げると、なぜかルイスは頬を赤くして大きな声を出した。
「いや、いや、いや! ルチアーナ嬢、本当に君はこんななの? もっと奥手で、恋愛に消極的だと思っていたけど、恋に落ちるとこんなになっちゃうの!?」
ルイスの混乱したような姿を見ながら、私もルイスに問い返した。
「ルイス様こそ小悪魔と言いながら、ちっともそう見えないわ。あなたが本当に小悪魔だってことを、私に教えて?」
両手を胸元にあて、普段より少しだけ低い声で言うと、ルイスはごくりと唾を呑み込んだ。
その表情はこれまで見たことがないものだったため、とても貴重なものを目にしたわと嬉しくなる。ルイス、やっぱり可愛い。
うっとりしていると、ルイスは一歩後ろに下がって両手を前に突き出し、ぶんぶんと振った。
「待って。そのセリフはダメじゃないかな!」
それから、ルイスは顔を真上に向けると、空に向かって叫んだ。
「ダリル、聞いているんだろう! お前はこの半分の半分の魔術をかけるべきだったんだ! これは僕の方が仕留められる逆魅了だよ!!」
ルイスはその後、誰かを探すようにきょろきょろと辺りを見回したので、よそ見をしないで私を見てちょうだいと、ルイスのコートに手をかける。
「うわあ!」
すると、ルイスは驚いたように大きく後ろに下がったので、彼の着ていたコートが脱げてしまった。
同時に、頭から洒落た帽子が滑り落ちる。
「ルイス様、抗わないでちょうだい」
私から逃げる姿が悲しくて、止めてちょうだいと頼むと、ルイスは戸惑ったように片手で口元を覆った。
あら、戸惑うルイスもいいわね。可愛い。
「い、いや、抗うというか、もう限界だというか……」
ルイスは顔を真っ赤にして何事か言っていたけれど、私は彼の服に視線が釘付けになってしまう。
先ほどの動作でルイスのコートと帽子が脱げてしまったのだけれど、そうするとあら不思議……なぜかジョシュア師団長やオーバン副館長とお揃いの暗黒騎士姿になってしまったのだ。
目を丸くしていると、そのことに気付いたルイスが、両手を広げておどけたポーズを取った。
「あ、そ、そうだった。狩人というのは仮の姿で実は暗黒騎士でした! ……というのが、僕の真の役どころだよ」
「まあ、小悪魔でもあり、暗黒騎士でもあるのね。分かったわ、どちらとも付き合うわ」
ルイス様は皆を楽しませるために、いつだって全力なのね。どちらの姿も可愛いわ。
そう思ってにこりとすると、ルイスは困ったように髪をくしゃりとかき混ぜた。
「えっ、そうくるの? ルチアーナ嬢の順応力と攻撃力が高過ぎて、防戦一方になってしまうな。それから、やっと攻撃できたと思っても、気付いたら防御に回っているな。もう勝ち目が見えないよ」
ルイスが困り切った声を出したので、だったらとお願いする。
「だったら、私に負けてちょうだい?」
じっと目を合わせながら頼むと、ルイスは頬を赤らめた。
それから、無言のまま一歩後ろに下がると、疲れたような声を出す。
「……はあー、本当に攻撃力が高過ぎるよ。全部が一撃必殺で、くらったらダウンするやつだ。そして、この距離はダメだ。完全無欠の逆らえない誘惑だからね! ルチアーナ嬢が何を言ったとしても、全部聞き入れてしまうのは間違いない」
「ルイス様……」
ルイスの態度から拒絶されていることを悟り、じわりと目に涙を滲ませると、ルイスが焦ったように両手をせわしなく動かした。
「ルチアーナ嬢、君は絶世の美女だ! そして、ダリルを救ってくれた、我が公爵家の救世主だ! もうそれだけで僕をノックアウトする材料は揃っているんだから、涙はダメだ! 本当に心臓が壊れるので、どうか勘弁してください」
ルイスは両手を組み合わせて懇願してきたけれど、その姿が可愛すぎてとても勘弁できないわと手を伸ばす。
私はルイスの片手を取ると、私の頬にあて、涙の滲む目でルイスを見つめた。
「ルイス様こそ意地悪をしないで。そして、私だけの小悪魔になってください」
その瞬間、まるでルイスに雷が落ちたかのように、ぴしゃんと彼の体が跳ねる。
それから、ルイスはもう無理だとばかりに天を仰ぐと、必死な様子で叫んだ。
「ダ、ダリル! どこかで見ているんだろう!! ルチアーナ嬢の魔術を解いてくれ!!」
必死で懇願するルイスはとても可愛らしかったので、またもや胸の奥がきゅんとする。ルイス、本当に可愛い。
私がルイスに密着しようとすると、その雰囲気を感じ取った彼が喉も裂けんばかりに叫ぶ。
「ダリル!!!」
すると、建物の陰からひょこりと小さな頭が覗いた。
それはダリルで、彼はルイスを見た途端、「あ、ホントに無理そう」と呟く。
それから、不承不承といった様子で魔術を解除した。
「……魅了解除」
その言葉を聞いた瞬間、私の体がよろりとよろける。
「ルチアーナ嬢!」
ルイスが慌てて抱き留めてくれたけれど、私は眠る直前のような気持ちのいい状態になったため、少し休むわと目を瞑ったのだった。







