271 ときめきの聖夜祭 5
北チームのエリアにいた私たちは、まずは一番近い西チームを見て回ることで意見が一致した。
そのため、西エリアに向かったのだけれど、西チームにはユーリア様の他に誰がいたかしらと、記憶を辿りながら質問する。
「ユーリア様は西チームでしたよね。他にどなたがいましたっけ?」
すると、ユーリア様はおかしそうに笑った。
「あら、ルチアーナ様なら既にチェック済みかと思いましたが、意外と興味がないんですね。先日のお茶会で衝撃的なデビューをした、カール・ニンファー王子ですわ!」
「ぶふっ」
思わず何かが喉に詰まり、おかしな声が出る。
私は誤魔化すために咳払いをすると、慌ててユーリア様の言葉を訂正した。
「い、いえ、あのお茶会で起こったのは不運な事故で、カール様が衝撃的なデビューをしたわけではありませんわ」
カールが衝撃的なお披露目をしたというのであれば、それをプロデュースしたのは私ということになりそうだから、ここは絶対に認めてはいけないわ。
顔を引きつらせる私に気付いているだろうに、ユーリア様はおかしそうにころころと笑っただけだった。
「あれを衝撃的なデビューと呼ばないとしたら、世の中に衝撃的なデビューは存在しませんね。これまでのカール様は、外見の麗しさと第二王子という立場を考慮すると、驚くほど皆から認知されていませんでした。しかし、そのカール様が一躍有名になった衝撃のシーンなのですから」
セリアも真剣な顔で口を開く。
「カール様が有名になるのは当然ですわ! 学園の2大人気者であるエルネスト様とお兄様とお茶会で同席しただけでなく、絶世の美女から茶器を叩き落とされるという、耳目を集めざるを得ない大事件の当事者になったのですから! それはもうセンセーショナルでしたわ」
セリアのうっとりした言葉に、ユーリア様は楽しそうに続けた。
「今やカール様は、エルネスト様、ラカーシュ様と並ぶ第三の人気者になれるのではないかと、人気急上昇中ですのよ。あの事件を目撃した生徒たちによれば、カール様は学園の2大人気者と並んでも外見・態度ともに遜色なかったようで、その場面を見て初めて、カール様の素晴らしさが皆に伝わったようです」
小さな抵抗だと知りながら、私は往生際悪くユーリア様の言葉を訂正しようとする。
「い、いえ、起こったのは事件ではなく、不運な事故……」
けれど、ユーリア様もセリアも少しばかりの単語の言い換えなど気にもならないようで、2人ともに私の言葉を聞き流すと、きゃっきゃっとカールの話を始めた。
「先見の明があって、既にカール様の素晴らしさに気付いていた女子生徒の間で、彼は『幻想王子』と呼ばれているらしいですわ」
「確かにあの得も言われぬ儚い美しさは、幻想と呼ぶのがぴったりですね」
美女2人がはしゃぐ光景を見た私は、頭を抱える。
ああー、困ったわ。こんな風に騒がれ出すなんて、カールにとってはものすごい迷惑じゃないかしら。
というか、カールは一気に皆に認知されたみたいだから、聖夜祭で女子生徒に囲まれたりしないかしら。
「あの、……この聖夜祭でカール様が今までになく女子生徒に囲まれて、大変な目に遭ったりすることはないですかね」
ユーリア様に尋ねると、彼女はぱちりと片目を瞑った。
「ふふっ、そこは抜かりありませんわ。北チームのプリンセスに最強の聖騎士が付いたように、我がチームのプリンスにもそれなりの騎士が付きましたの」
どういうことかしらと首を傾げると、ユーリア様が西チームの動向について説明してくれた。
その説明によると、どうやらカールは聖夜プディングの中から、「王子様」のミニチュアを引き当てたらしい。
さすが攻略対象者。こういうイベントで必ず花形になるのねと感心していると、ユーリア様が悪戯っぽい表情で身を屈め、私とセリアにだけ見えるようドレスの裾を引き上げた。
すると、彼女の太ももにベルトがはめられており、そこに美しい短剣が装着されていることに気付く。
「西の星からの贈り物です。実は私も『騎士』のミニチュアを引き当てましたの」
ユーリア様がとんでもないことをさらりと告白してくる。
「けれど、私はルチアーナ様たちと一緒に聖夜祭を楽しみたいと思ったので、王子様の守護者役は他に任せることにしましたの」
どういうことかしらと首を傾げると、ユーリア様はふふっと楽しそうに笑った。
「私とカール様は役付きになったので、外部から一人ずつ応援者を招待することができるんです。その権限を最大限利用して、本物の騎士を2人召喚したんです」
「ああー」
ユーリア様は『騎士』としか言わなかったけれど、私には騎士が誰だか分かってしまう。
セリアも同じように誰だか分かったようで、私と同じ表情を浮かべた。
「ええと、それでは、辺境伯家でガチガチに鍛えられた、最強の騎士様が2人でカール様を守っているということですね」
私の脳裏にユーリア様の2人のお兄様の姿が浮かぶ。
私が見つめる先で、ユーリア様はその通りだと頷いたのだった。







