270 ときめきの聖夜祭 4
「あ、兄が実力を見せる……」
それはとてもマズいんじゃないかしら。
思わず兄に視線をやると、実力を全て解放したとはいえないけれど、優秀な魔術師だといえるほどには力を出していた。
その姿を見て、確かに兄は能力を隠すのを止めたようねと思う。
ユーリア様の言うように、それが全て私のためだとは思わないけれど……と、周りに視線を移したところで、戦いを観戦している男子生徒たちの姿が目に入った。
興奮したように両手を振り回す男子生徒の姿を見て、似たような姿をどこかで見たことがあるわと考え込む。
そうだわ、陸上魔術師団の魔術師たちだわ! 彼らはどういうわけか兄を慕っていたし、兄が優れた魔術師であることを知っていたみたいなのよね。
卒業後の兄の進路は分からないけれど、きっと、陸上魔術師団とかかわっていくのだろう。
そうであれば、いずれは兄が優れた魔術師であることが、知れ渡ってしまうのかもしれない。
兄もそのことは分かっているはずで、だからこそ、少しくらい実力を見せてもいいと思ったのじゃないかしら。
そう現実的なことを考えていると、ユーリア様が兄についての前言を訂正してきた。
「……サフィア様は実力を見せることにしたのじゃないかしらと言ったけれど、訂正しますわ。実力の片鱗を見せるだけみたいですね。サフィア様の相手をしているデイル様は、3年の火魔術ナンバー1の実力者だけど、サフィア様の相手にならないみたいですもの。だから、実力を解放するところまでいかないようですわ」
ユーリア様の見立ては私の考えと一致していたので、どうやら兄はちゃんと加減をしているようだわと安心する。
思わずため息をつく私を見て、ユーリア様が悪戯っぽく微笑んだ。
「ふふふ、これまでのサフィア様は、少しばかり能力はあるかもしれないけれど、頑張ったり努力したりできないから、自然と堕落していくタイプだと思われていましたの」
それはそうでしょうね。
兄は楽しいことを率先してやるから、場当たり的な楽しみを追求するタイプに見える。
だから、侯爵家の子息として少しばかり魔術の才能に恵まれているかもしれないけど、大成することはないだろうと誰もが考えていたに違いない。
ゲームの中でも、兄は悪くないスペックを持ちながらも、努力嫌いで享楽的であることからろくでもない人物だと見做され、『近寄ると必ず相手側が損をする』と思われていたのだから。
「けれど、この戦いを見たら、皆様、考えを改めなければならないんじゃないかしら」
ユーリア様の言葉に、セリアが頷きながら言葉を付け加えた。
「それから、『青紫の撫子を遠くから眺める会』のメンバーは狂喜乱舞するでしょうね」
「青紫の撫子を遠くから眺める会?」
初めて聞く言葉に首を傾げると、セリアが楽しそうに微笑んだ。
「そういう団体がこの学園にはあるんです」
どうやらこの学園にはまだまだ私の知らない、追及したら損をする秘密があるようだ。
もちろん、損をしたくないから、私は追及しないわ。
さて、これからどうしようかしらと考えたところで、セリアが甘えるように私を見上げながら、私の腕に腕を絡めてきた。
「北チームでのプリンセスを守護する戦いは、忠実なる聖騎士にお任せするとして、私たちは聖夜祭を楽しむのはどうでしょう?」
反対側の腕には、ユーリア様が腕を絡めてくる。
「それぞれの領地ごとに特色があるらしいですよ。それから、『緩衝地帯』と呼ばれるゲームの対象外となるエリアにも、たくさんの催し物が準備されているみたいです。どれも楽しそうですから、これから一緒に回りませんか?」
右と左から麗しい花の妖精に誘われるという極上の体験をした私は、すかさず頷きそうになったけれど、危機管理センサーがぴこぴこと働いたため、はっとする。
「それなんですが、私は兄に領地から出ないと約束したんです……」
「本当にそんな約束をしたんですか?」
「サフィア様がそんな要求をするとは思えませんわ」
2人が疑問を呈してきたため、私は兄との会話を思い返してみる。
すると、確かにそんな約束はしていない気がしてきた。
『お前が何をしていればいいかだと? 簡単な話だ。どれほど魅力的な男性が現れたとしても、どれほど口が上手い男性が現れたとしても、決して誘惑されることなく私のもとにいるのだ』
「そうですね……兄が言ったのは、どんな男性にも誘惑されることなく、兄の側にいろということでした」
「ということは、私たちは男性ではないので、ルチアーナ様を連れ出し放題というわけですね!」
セリアの言葉に、そうなるのかしらと首を傾げる。
隣にいたユーリア様は絡めていた腕に力を籠めると、そそのかすような笑みを浮かべた。
「サフィア様が言われたのは、領地戦の最後には、ちゃんと領地に戻ってきておきなさいということでしょう。ですから、これから女性3人で各エリアを回ったとしても問題ありませんわ。とはいえ、今日のルチアーナ様は誘惑の塊のような格好をしていますから、心配で側から離せないとサフィア様が思うのは仕方がないことでしょう」
「い、いえ、そんなことを思うはずありませんわ」
2人の大袈裟な言葉を聞いたことで冷静になったようで、そうだわ、兄が言いたかったのは、『聖夜祭の浮かれた雰囲気にあてられて、軽薄な男性についていくものではない』ということよね、と兄の言外の言葉を読み取ることに成功する。
そのため、2人に向かって「一緒に回ります」と頷くと、ユーリア様は笑顔で私が腕にはめたブレスレットを指差した。
「どの道、ルチアーナ様に悪さができる方など、まずもっていませんわ。何といっても、ルチアーナ様は非常に強力なブレスレットを身に付けているんですもの」
「えっ?」
私が手首にしているのは、聖獣の儀式を行うために王宮を訪れる際、兄から渡されたブレスレットだ。
兄は「お守り」だと言っていたし、できるだけ身に付けてほしいと言っていたから付けてきたのだけれど、ユーリア様の目から見ても強力なお守りだと分かるのかしら。
だったら、安心ね。
私はにこりと笑うと、セリアとユーリア様とともに、『聖夜祭』を目一杯楽しむことにしたのだった。
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