258 新たなる学園イベント 2
この世界において、「聖夜」とは12月24日の夜を指す。
そして、「聖夜」では一晩中灯りを消し、月と星の光だけで過ごすことが慣習となっている。
基本的に、聖夜には戸外を出歩かないことになっているので、家の中で家族か、将来家族になる者と一緒に過ごす。
しかし、この学園においては、生徒同士を「将来的にわたって家族のように親しく過ごす相手」と見做し、夜の0時まで「聖夜祭」を実施して、生徒同士で過ごすのが習わしとなっていた。
そして、夜の0時になると、学園の門の前にずらりと並んだ迎えの馬車に乗り込み、それぞれ自宅に戻って家族と過ごすのだ。
ちなみに、「聖夜祭」はその年最後の登校日でもあるので、馬車に乗り込んだ瞬間から長い冬休みが始まる。
リリウム魔術学園では、季節ごとに大きなイベントが実施されるのだけど、秋に行われる「収穫祭」に対して、冬に行われるのが「聖夜祭」だ。
「聖夜祭」では「収穫祭」の時と同様、生徒たちは仮装して一日を過ごす。
聖夜祭のコンセプトは「聖なるあべこべの日」なので、普段とは異なる衣装を着る者が多く、過去の聖人にちなんだ衣装を着る者や、農夫や騎士の格好をする者などバラエティに富み、その非日常的な格好を見るだけでも楽しめるようになっていた。
また、聖夜は元々、過ぎ去った1年に思いを馳せ、新しい1年を迎え入れるためのイベントでもある。
そのため、これまでの『聖夜祭』では、「聖夜の特別な食事を提供する食堂」「過去を振り返って話をする談話室」「プレゼントを交換する広間」といった用途別の場所を用意し、それらの部屋を生徒たちが自由に訪れ、思い思いの時間を過ごしていた。
この場合、聖夜祭特別ルールとして、普段は話をしないような相手とでも、友人のように会話を交わすことができる。
そのため、普段にないエルネスト王太子やラカーシュの仮装した姿を見ることができ、上手くいけば一緒に食事を取れたり話をしたりできるのだから、すごく楽しいイベントであることは間違いなかった。
そう思ったのだけれど、セリアは表情を曇らせる。
「例年であれば、これまで通りの『聖夜祭』を実施しても、何の不満も出ないと思います。しかし、生徒たちは『収穫祭』を体験してしまいました! そのため、今度の『聖夜祭』も同じくらいときめくような楽しいイベントになると期待しているのです」
「ああー」
生徒たちの気持ちは分かるわ。
私も乙女ゲームで楽しいイベントを体験した後は、『次も同レベルのイベントを』と期待したもの。
「ですが、どれほど考えても、収穫祭に匹敵するアイディアが思いつかなくて困っていたのです」
言葉通りの表情を浮かべるセリアを見て、それは確かに困るでしょうねと思う。
「セリア様のお気持ちは分かります。ただ……」
今から聖夜祭に手を加える時間があるかしら。
私は頭の中で、今日の日付けを思い出そうとする。
すると、私の表情から考えを読み取ったようで、セリアがへにょりと眉尻を下げた。
「ええ、そうなんです。『聖夜』まであと3日しかありません」
「そうですよね」
私は1か月近くもの間、侯爵邸に引き籠っていたし、その後も聖獣の真名を引き継ぐ儀式に参加したりしていたから、セリアには私が忙しく見え、相談できなかったのじゃないかしら。
実のところ、私は生徒会の広報担当に任命されている。
エルネスト王太子から打診を受けたのだけど、その際、王太子から『毎月開催するイベントがマンネリ化しているように思われてね。新たに広報担当に加わってもらいたいと、常々考えていたところだ』と言われたのだ。
よく考えたら、これは正に私が担当すべき仕事よね。
そのことに気付き、私もセリアと同じようにへにょりと眉尻を下げると、頭の中で考えを巡らす。
この世界の『聖夜祭』とは、言わずと知れたクリスマスのことだ。
そして、私はこの世界の基になった乙女ゲーム『魔術王国のシンデレラ』を何度もプレイしたことがあり、その中にはクリスマスイベントも含まれている。
さらに、前世ではクリスマスを体験したことがあるから、クリスマスイベントについてすごく詳しいのじゃないかしら。
突然、自信が湧いてきた私はきらりと目を輝かせると、力強くセリアに請け合った。
「セリア様、任せてください! 乙女心を最大限に満足させる『聖夜祭』の実施について、私はたくさんのアイディアがあります!!」
「お姉様、本当ですか?」
嬉しそうに目を輝かせるセリアとジャンナとは対照的に、エルネスト王太子、ラカーシュ、カレルの3人は用心深い表情を浮かべる。
恐らく、男性3人組の頭の中には、近年まれに見る斬新なイベントだった『収穫祭』が浮かんでいるのだろう。
そんな彼らの目の前で、私は自信満々な声を上げた。
「『聖夜祭』では、生徒同士を『将来的にわたって家族のように親しく過ごす相手』と見做し、親しく過ごすんですよね! そうであれば、生徒同士の団結力をさらに強めるため、チーム戦を行うのはどうでしょう!!」
「チーム戦?」
首を傾げるセリアに向かって、私は大きく頷く。
「ええ、『収穫祭』では『甘い言葉収集ゲーム』という個人戦を行って盛り上がりましたよね。ですが、あのゲームには男子生徒が参加できないという欠点がありました。その欠点を補って、さらに盛り上げるためにはチーム戦が最適です!!」
「まあ、確かにその通りですね! そして、お姉様の言う通り、チーム戦は生徒同士の絆が深まりそうなゲームですから、聖夜祭のテーマにもマッチしていますわ!!」
素直に同意するセリアとは異なり、ラカーシュは穏やかな声ながらも否定するような言葉を差し挟んできた。
「いや、わざわざ男性生徒を引き込む必要はないのではないかな。それに、チーム戦をするのであれば、分かりやすいように服を揃えたりする必要があるだろう。今回は時間がないことだし、無理をしなくてもいいのじゃないか」







