235 悪役令嬢のモテ期 4
話が一段落したところで、エルネスト王太子が新たな話題を持ち出してきた。
「我が王家において、聖獣を従えることは王たる者の条件となっている。しかし、現時点で聖獣と契約した者は私のみだ。ラカーシュには初耳の話だろうが、ルチアーナ嬢は私の父が再度、聖獣の真名を引き継ぐ儀式を受けることを提案してくれ、さらには手伝いを申し出てくれた」
ラカーシュが理解を示すように頷くと、王太子は私に向き直った。
「ルチアーナ嬢、君の申し出をそのまま父に伝えさせてもらった。控えめに言って、父は感激していた。君の申し出に感謝するとともに、『ぜひ儀式を受けたい』との言葉を預かってきた」
王の言葉を聞いた私は、自然と背筋が伸びる。
「まあ、国王陛下のお言葉を聞いて、身が引き締まる思いですわ! できるだけお力になれるよう、精一杯頑張ります! それから、日程については、ご希望を言っていただければいつでも対応しますから」
とはいっても相手は国王陛下だ。ものすごく忙しいだろうから、ずいぶん先まで予定が埋まっているはずで、儀式の日程は先になるに違いない。
そう思っていると、王太子がとんでもないことを言い出した。
「そのことだが、ルチアーナ嬢さえよければ今週末はどうだろうか?」
「え、今週末?」
ものすごく早いわね。
国王陛下のスケジュールがそんなにすぐに取れるものかしら?
「せっかく王宮まで来てもらうのだから、儀式の後は王宮で昼食を取ってもらい、その後、転移陣を使って白百合領を訪問するのはどうだろう? ……もちろん、希望があれば白百合領にラカーシュを同行させてもいいが」
王太子の言葉を聞いたラカーシュは、不服そうに片方の眉を上げた。
「なぜ私の同行が白百合領限定なのだ。昼食からご一緒させてもらおう」
「ラカーシュ! 私はつい昨日、告白したばかりだ。もう少し彼女にアプローチする時間をくれてもいいだろう」
必死な様子で言い返す王太子に、ラカーシュは冷静に切り返す。
「お前は彼女と同じクラスなのだから、今後、いくらでも機会があるだろう」
「……昼食には両親も参加したいと言っている」
言いたくない様子で口を開く王太子を見て、ラカーシュはふっと唇の端を上げた。
「それでは、ますます私の出番だな。国王と王妃、王太子の3人と食事だなんて、たおやかな貴族令嬢には荷が重いこと間違いない」
私はぶんぶんと首を縦に振ると、ラカーシュの言葉に全面的に同意する。
私がたおやかな貴族令嬢であるかどうかは大いに疑問があるところだけれど、ここは言葉を差し挟む場面ではないと理解して口を噤む。
さすがにこの国のトップ3の方々と一緒に食事だなんて、荷が重過ぎるから辞退したいと考えるのは当然のことだろう。
それができないならば、せめて参加人数を増やして重要度を薄めたいわよね。
ラカーシュは私の表情を見て、ふっと口元を緩めた。
「決まりだな」
ラカーシュの態度は王太子に張り合っているように見せかけて、その実、私を思いやってくれるものだった。
そのことに気付き、心がほっこりと温かくなる。
思えば、ラカーシュは初対面の時から思いやりがあったわ。
私のことを極悪な悪役令嬢だと思いながらも、親切にしてくれたのだから。
それに、ラカーシュが豪胆なことも間違いない。
王太子だけでなく国王夫妻が参加する食事会に、平気な顔で参加しようとしているのだから。
ところで、この場合、誰が私の味方なのかしら。
王と王妃と王太子とラカーシュ。
一体彼らはどのような気持ちで、私と昼食を一緒にしようとしているのかしら。
政治的な動向は私が最も不得意とすることなのよね、と不得意なことだらけの私は頭を抱えたのだった。
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コミックスは通常版と特装版の2種類があり、私もわくわくしています。
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