214 王宮舞踏会 7
その2人の女性は王太子と私に向かってひときわ激しく手を叩いており、全力でダンスの出来栄えを称賛してくれていた。
私のお友達にそっくりだけど、実際には知らない2人組よね、と思いながらじっと見つめてみたけれど、どういうわけかお友達本人に見える。
でも、そんなはずは……。
私はあまりにもじろじろと見過ぎたようで、お友達そっくりさんズと目が合ってしまう。
しまった、不躾だったわ、と慌てて目を逸らそうとしたところで、2人が笑顔で称賛の言葉を口にしてきた。
「お姉様、最高のダンスでしたわ!」
「ええ、ため息が零れるほど素晴らしかったわ」
「ええっ!?」
私をお姉様と呼んだということは、やっぱりセリアなのかしら?
そして、セリアのお隣にいるのは、声から判断するにユーリア様??
で、でも、そんなはずは……。
私は目に映る光景が信じられなくて、ただただびっくりして目を見開いた。
なぜなら私の目の前には、髪の長さが肩までになったセリアとユーリア様が立っていたからだ。
「我ながら重症ね! 疲れ過ぎたのか、とうとう白昼夢を見るようになってしまったわ。公爵令嬢であるセリア様と辺境伯令嬢であるユーリア様は紛れもなく高位貴族のご令嬢だから、私と同じくらい髪が短くなるなんてあり得ないもの!! だから、これは完全に幻だわ!!」
セリアは筆頭公爵家の令嬢だ。
望めば王族にも嫁げる身分で、王女がいない我が国において、最も高貴な未婚女性となっている。
一方のユーリア様は辺境伯家の令嬢だ。
辺境伯家というのは伯爵家と全く異なる存在で、大事な国境沿いを任せることができる実力と信用力を併せ持った貴族のことであり、家格は侯爵家と肩を並べるほど高い。
その辺境伯家の令嬢であれば、我が国でも有数の高位貴族のご令嬢と言い切って間違いない。
そんな2人が高位貴族の証である長い髪を、揃って失ったですって?
―――ありえないわ!!
うふふふふと乾いた笑いを零しながら目を瞑ると、私はもう1度ゆっくりと瞼を開いた。
一呼吸置いたことで白昼夢は消えてなくなるかと思ったのに、目の前には変わらず短い髪の友人2人が立っている。
「これはいよいよ疲労の末期症状ね。またもや短い髪の2人が見えるなんて。……ああー、でも2人とも似合っているわね」
美人は何をしても美人なんだわー、とぼけっと目の前の2人を見つめていると、その美女2人が近付いてきて、それぞれ私の手を取った。
「お姉様、最高に素晴らしいダンスでしたわ! お姿のお美しさと相まって、まるで冬の女神がご降臨されたのかと錯覚してしまうほどでした」
「ええ、本当に。まるでこの世のものとは思えないほどお美しかったわ」
「え?」
こちらが気恥ずかしくなるほど、私を褒めてくれる人物と言えば……。
「セ、セリア様? ユ、ユーリア様!?」
まさかそんなはずは絶対にないだろうけれど、と思いながら恐る恐る名前を呼ぶと、2人はきょとりとした表情で返事をした。
「はい?」
「声が掠れているようだけど、飲み物を持ってきましょうか?」
「えっ、本当にセリア様とユーリア様なんですか? そんなはずないですよね! だって、か、髪が……」
最後まで言葉を続けられずに、短くなった2人の髪を呆然と見つめていると、セリアが恥ずかしそうに片手を髪にあてた。
「お恥ずかしい話ですが、テーブルの上を掃くための羽箒を作りたいと思い、我が公爵邸のお庭に鳥の羽根を拾いに行ったんです。そうしたら、黒鳥に見つかって、くちばしで髪を引っ張られてしまったんです」
「まあ」
どこかで聞いたような話だわ、と考えたところで、そうだわ、以前、セリア自身から似たような話を聞いたのだったと思い出す。
その時は、セリアが公爵邸の庭で黒鳥に突かれたのだと言って、片手に包帯を巻いていたのだった。
前回に続いて今回もだなんて、公爵邸の黒鳥は元気が有り余っているようね、と呆れていると、セリアが短くなった髪を両手で撫でた。
「髪を引っ張られすぎてくしゃくしゃになったため、どれほどブラシでといても直りませんでした。そのため、思い切って短く切ることにしたのです」
「ま、まあ、それはあまりにも思い切りが良過ぎますね」
びっくりしていると、今度はユーリア様が困った様子で扇で口元を覆った。
「セリア様の場合は相手が鳥ですから諦めもつきそうですが、私の場合は……」
「えっ、あの、それは」
何か大変なことが起こったのかしらとドキリとしていると、ユーリア様は大きなため息をついた。
「私の兄たちが、女性にモテるポイントは手先が器用なことだと言い出したのです。そうして、女性の髪を編めると人気が高まると主張して、私の髪で試すことになり……結果、切り落とすしかないほどぐちゃぐちゃにされたのですわ」
「ああー」
ユーリア様にはお兄様が2人いらっしゃる。
そのお兄様方はユーリア様に似て、非常に整った顔立ちをしているのだけれど、非常にやんちゃでもあるのだ。
これまでに、ユーリア様とセリアとともに女子お泊り会を2回実施したのだけれど、その両方の回において、ビオラ辺境伯家のイケメン兄弟のやんちゃ映像を見せてもらった。
さらに、2回目の訪問の時には、2人と話をする機会があった。
そのため、辺境伯家兄弟の人となりは少しだけ理解していたけれど、長男であるグレッグと次男であるジーンは、ユーリア様の話通りに彼女の髪形をとんでもないものにしたのだろうな、と納得できるような性格ではあったのだ。
顔をしかめていると、ちょうど話題のビオラ辺境伯兄弟が視界に入ってきた。
2人は近衛騎士の騎士服を着用していて、びっくりするほど麗しい。
「まあ、さすがユーリア様のお兄様方だけあって、騎士服姿はこれ以上ないほど凛々しいし、何でもできる有能な騎士に見えるわね! それなのに、実際には手先が不器用で、ユーリア様の髪を滅茶苦茶にしてしまうなんて」
思わず口の中でつぶやいたけれど、グレッグとジーンは私の気持ちなど知らぬ気に、にこやかに近付いてきた。
「ルチアーナ嬢、久しぶりだね。そして、短い髪がとてもよく似合っているね」
「ああ、このまま近衛騎士団にスカウトしたいくらい精悍だな」
2人は笑顔で私の髪形に言及してきたけれど……そして、褒めるような言葉を口にしたけれど、そのことに違和感を覚える。
高位貴族の2人であれば、明らかな瑕疵である短い髪を見て見ぬふりをするのがスマートなやり方じゃないかしら。
それなのに、どうしてわざわざ言及してきたのかしら。
まるでユーリア様から、私の短い髪を褒めるようにと、前もって言い含められていたみたいだわ。
「ユーリアも短い髪になったが、我が妹ながら凛々しくていいな」
「ああ、いい」
さらに、自分たちの妹が短髪になったことを褒め出した2人を見て、いよいよ訝しく思う気持ちが湧いてくる。
たとえそれが誉め言葉だとしても、自分たちの失敗によって短い髪になったユーリア様のことを話題にするものかしら。
グレッグとジーンの行動が理解できずに、首を傾げていると、ユーリア様が出来の悪い者を見る目で兄2人を見ていた。
それらの行動を目にしたことで、鈍感な私でもさすがにピンとくる。
「えっ、もしかしてユーリア様はご自分でわざと髪を短くしたんですか!?」
もしかしたらユーリア様はさり気なく私の髪を褒めるようにと、兄たちにお願いしていたのじゃないだろうか。
けれど、グレッグとジーンがあまりに直接的に私を褒め、それどころか自分たちが原因のはずの妹の髪形にまで言及したため、さすがに行動が不自然過ぎると、呆れた目つきで兄たちを見つめていたのだろう。
恐らく、ユーリア様はグレッグとジーンに関係なく、自分で髪を短くしたのだ。
そう思い至って焦った声を出すと、ユーリア様は困った表情で私を見つめてきた。
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