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悪役令嬢は溺愛ルートに入りました!?  作者: 十夜


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192 聖獣「不死鳥」 9

聖獣が攻撃されている姿を目にしたエルネスト王太子は、冷静さを失っているように見えた。


100年もの長い間、王家の守護聖獣を務めてきた不死鳥だ。

そこにある絆は簡単なものではないだろうし、責任感の強い王太子のことだから、彼が聖獣と契約できてさえいれば、今回の事案は発生しなかったと考えたのかもしれない。


「エルネスト、落ち着け! 下手に攻撃をすると不死鳥に当たるぞ!!」

魔物に向かって両腕を伸ばし、今にも新たな魔術を発動しそうな様子の王太子に対し、ラカーシュが制止する声を上げた。


その冷静な声を聞き、王太子ははっとしたように体を強張らせる。

それから、自分自身を落ち着かせようとでもいうかのように振り上げていた腕を下すと、体の横で握りこぶしを作った。

続いて、深い呼吸をした後、王太子は再び顔を上げると、厳しい表情で2頭の飛竜(ワイバーン)に視線を走らせる。


しかし、魔物と聖獣の距離はあまりに近過ぎて、魔物のみを狙って攻撃することが至難の業であることは、誰の目にも明らかだった。


そのため、王太子は落ち着かない様子で、何度も攻撃するかのように腕を構えたり戻したりしていたけれど、聖獣を傷付けない方法を見つけられなかったようで、苛立たし気に地面に足を打ち付けていた。


そんな王太子の焦る気持ちが伝わったのか、私までもが居ても立っても居られない気持ちになり、2人の側まで走っていくと王太子に質問する。

「王太子殿下、聖獣は弱っているのですか?」


王太子は視線を聖獣に固定したまま、ぎりりと唇を嚙みしめた。

「以前、聖獣が戦う姿を見たことがある! その際には、もっと圧倒的な強さを誇っていた! 飛竜(ワイバーン)が強い魔物であることは間違いないが、それでも、私が知っている不死鳥であれば、発する炎1つで敵を燃やし尽くすことができたはずだ!!」


王太子の口から語られた聖獣は、たった今目にしている聖獣よりも遥かに強く思われたため、確認するかのように聖獣と魔物たちに視線をやる。

すると、そこには、未だに消えることない炎に包まれた飛竜(ワイバーン)の姿があった。


「そうよね、魔物が未だ炎に包まれていること自体が異常よね。そもそも通常の炎であれば、すでに消えているはずだわ」

飛竜(ワイバーン)の鱗は防火性が高いと聞いたことがある。

にもかかわらず、これほど長い時間炎が消えないのであれば、きっと不死鳥の炎は特別仕様なのだろう。


そうだとすれば、この炎は非常に強力で、魔物たちが燃え尽きるまで消えないのではないだろうか。

祈るような気持ちでそう希望的観測を抱いていたところ、ふと空中に浮かんでいる魔物と目が合った。


「えっ?」

気のせいよね、と自分に言い聞かせたけれど、それまで一心に不死鳥を攻撃していた魔物たちはこちらに顔を向けたかと思うと、一直線に下降してくる。


「こ、こちらに攻撃を変更した!?」

自らの体が燃え続けても不死鳥を攻撃することに執心していたはずの魔物たちが、なぜ突然攻撃目標を変えたのかは分からなかったけれど、魔物は明らかにこちらに狙いを定めていた。


それは大変な事態ではあったけれど、不死鳥への攻撃を中断したのであれば歓迎すべきことのように思われる。

こちらに魔物を引き付けている間に、不死鳥が体勢を整えるなり、逃げるなりすればいいのだから。


そう考えたのは私だけではなかったようで、王太子が鋭い声を上げた。

「ラカーシュ、迎え撃つぞ!」

その言葉から、王太子が魔物から一切身を引く気がないことを理解する。


そのため、私は驚いてエルネスト王太子を見つめた。

聖獣は国民の希望であり、この国に必要な存在だけれど、それは王太子だって同じことだ。

次代の王国を担う唯一無二の存在なのだから。


にもかかわらず、王太子は一切自分の身を守ることをせず、ラカーシュと並んで立つと、正面から魔物を迎え撃とうとしているのだ。

「何てことかしら! 王宮の中で生まれ育ち、誰からも一の人と大事に大事に育てられてきた王太子殿下が、自ら戦おうとするなんて」


それは私の知っている王族の姿ではなかった。

王族というのはいつだって、彼らの存在以上に大事なものはないのだと、人々の後ろに隠れて守られているものなのに。


もちろんこの国にとって、聖獣が大事な存在であることは間違いないけれど、エルネスト王太子の立場であれば、自分の身をより大事にしても、誰一人として彼を謗る者はいないはずだ。

それなのに、彼は後ろに隠れることをよしとしないのだ。

「エルネスト王太子には、勇気と決意があるのだわ」


私よりもはるかに高位の者でありながら、胸を張って魔物に対峙するエルネスト王太子、それから、筆頭公爵家の嫡子であるラカーシュの姿は、間違いなく高潔だった。


「火魔術 <威の1> 噴焱白弾(ふんえんはくだん)!!」

王太子はまっすぐ魔物を見つめると、その日2度目となる上級魔術を発動させた。


「火魔術 <威の2> 尖叉青槍(せんさせいそう)!!」

同様に、ラカーシュは3度目となる上級魔術を発動させる。


前回のラカーシュは、体中の魔力を絞り出しても2回の上級魔術発動が限界だったのだ。

体は大丈夫なのかしらと、心配しながら見上げると、その顔色は悪く、明らかに無理をしていることが見て取れた。


けれど、2人から放たれたのは、1度目と比べても遜色ない、素晴らしい切れ味の魔術で、降下してきていた2頭の魔物に見事に命中する。


そのため、2頭の魔物はともにバランスを崩し、ふらつく様子を見せたけれど、そのまま地面に落下することなく再び上昇すると、空中でバランスを取り直していた。

しかし、2頭のうちの1頭は翼に傷を受けたようで、羽ばたいていても高度が落ちてきている。


飛竜(ワイバーン)たちは炎に包まれているうえに、大きな怪我をしていたため、これ以上戦うことができるとも思えず、このまま退避するかと思われたが、どういうわけか2頭ともに再びこちらに顔を向けると降下してきた。


その常軌を逸した行動を目にしたことで、私の中で疑問が湧く。

……何かがおかしい。

実際に魔物と対峙したことがあるのは、ラカーシュのお城での1回きりだけれど、それでも目の前の魔物たちの戦い方に違和感を覚えたのだ。


なぜなら魔物はこんな風に、自分の命を顧みないような戦い方は決してしないはずだから。


そう考えている間にも、飛竜(ワイバーン)が大きな口を開けて、王太子に迫ってきた。

先ほどの経験から、王太子に迎え撃たれるのは分かっているだろうに、それでも攻撃してきたのだ。


魔物自身も満身創痍で、命の火が消えかけている状態だろうに、我が身を顧みない戦い方を訝しく感じる。

対する王太子とラカーシュも、上級魔術を何度も発動させているため、魔力がほとんど枯渇している状態ではないだろうか。


そして、実際に、3度目の魔術を発動すべきかどうか―――発動させることができるのかどうかを躊躇している一瞬の隙を衝いて、魔物の牙が王太子に迫る。

「くっ!」


王太子は少し表情を歪めただけで、もう一度上級魔術を発動させた。

けれど、その顔からは汗がしたたり落ちている。

恐らく、王太子もぎりぎりのところで戦っているのだ。

「火魔術 <威の1> 噴焱白弾(ふんえんはくだん)!!」


王太子の言葉とともに、合わせた両手から真っ白い炎が噴き上がったけれど、魔物は正面から受け止めるつもりなのか、口を開けたまま迫ってきた。


どん、どん、という鈍い音とともに、王太子が放った魔術が貫通し、魔物の首や腹に握りこぶし大の穴が開いたけれど、飛竜(ワイバーン)は気にすることなく、その牙で王太子を噛み切ろうとしてきた。


「エルネスト王太子!」

思わず手を伸ばしたけれど、その瞬間、その場に激しい風が吹いた。


それは、王太子、ラカーシュ、私の3人ともに数メートルほど後方に吹き飛ばされるほどの強い風で、―――だからこそ、同様に魔物も遠くへ吹き飛ばされていた。


一体何が起こったのかしらと、地面に伏した状態で周りを見回したけれど、辺りに他の者がいるようには見えなかった。


けれど、その時、上空から声が響く。

「こんばんは、魔法使いちゃん☆」


突然のことだったため、驚いて暗い夜空を振り仰ぐと、月明かりの中、空中に1人の女性が浮いているのが見えた。


真っ白な肌に長い緋色の髪をした、扇情的な服装をした女性。

過去に1度しか会ったことはなかったけれど、それでも、強烈な印象を残したその相手を忘れるはずがない。


「東星!?」


―――それは、おとぎ話の中の住人だと言われている『四星』の中の一星、『東星』と呼ばれる存在だった。


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挿絵(By みてみん)

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本当にありがとうございました!!!!!


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[良い点] 東星再登場☆ [一言] 5巻のアニメイト限定SSから推測すると、そのうちサフィアが現れそうな気がして、わくわくしています。 5巻といえば、甘い言葉収集ゲームの定型文に、これまで名前…
[良い点] 王太子!ルチアーナ攻略頑張れ! 最初の付箋を頑張れ!
[良い点] ここでカドレア出てくるのは激アツ!!! [一言] エルネストは聖獣と契約できるのか、エルネストはどんな風にルチアーナを溺愛するのか……などなど、これからの展開がとっても楽しみです……! そ…
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