表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢は溺愛ルートに入りました!?  作者: 十夜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/296

17 フリティラリア公爵の誕生祭 8

たった1発の初級魔術を発動しただけで、息も絶え絶えの状態になってしまった自分を省みて、私は心底情けない思いだった。


学園で行った魔術の演習では、数発の魔術を行使できたはずで、その際もこれほど消耗してはいなかったのにと考える。


実戦の緊張感は演習時のそれとは比べ物にならず、体が不必要に強張っていることが原因だと思われた。

息が上がり、はぁはぁと荒い息を繰り返す私をちらりと見ると、ラカーシュは冷ややかな声を掛けた。

「下がっていろ、ダイアンサス侯爵令嬢。その程度の魔術では、意識逸らしの役にすら立たない。せめて私の邪魔にならないようにしてくれ」


声を出すことも難しかった私は、かすかに頷くと、後ろ向きに下がろうとした。

そのため、一瞬だけ足元を確認する。


けれど、その一瞬の隙をついて、魔物の頭の一つが私を目掛けて襲い掛かってきた。

「ダイアンサス!」


気付いた時には、ラカーシュに突き飛ばされていた。


「えっ!?」


基本的に、魔術師は魔術陣を展開している際、その陣から離れることはない。


なぜなら、魔術師が円陣から離れた瞬間に魔術陣は消失してしまい、再度魔術陣を描こうとする場合、一定時間の経過を待たないといけないからだ。

だからこそ、その中に位置するだけで魔術を強化できる陣を捨てることなど、魔術師は絶対に行わない。……だというのに。


なのに、ラカーシュは陣を捨てて飛び出してくると、私を突き飛ばしてくれた。

正に今、その強力なあごで魔物にかみ砕かれ、絶命しようとしていた私を救うために。


「……はっ、はっ、はっ」

私は床に倒れ伏したまま、どうにも乱れた呼吸を繰り返しながら、茫然と目の前に立つラカーシュを見つめていた。


「どうして……」

思わず言葉が零れる。


どうして、自分の身を危険にさらしてまで、私を救ってくれたのだろう?


ラカーシュはつきまとう私に迷惑していたはずだ。

ラカーシュにとって大事なことは、自分の命と妹の命を守ることのはずだ。

目の前の魔物が非常に強力であることを認識したラカーシュには、私のことまで気に掛ける余裕はないはずだ。


なのに、どうして……


貴族の義務(ノブレスオブリージュ)だ」

ラカーシュは何でもないことのように言い捨てると、ちらりと私を見た。


「下がれ。そして、隙を見てセリアと逃げろ」


その時の私には、正しい判断ができる情報を何も持ち合わせていなかった。


魔物のランクが分からない。ラカーシュの強さが分からない。


だから、それらを一番理解していそうなラカーシュに従った。


震える足で立ち上がると、うずくまっているセリアの元まで駆け寄り、腕を取って立たせる。

それから、セリアの背中を押すようにして、扉まで誘導した。

ふらつく足を叱咤して、出来るだけ急いで扉に向かう。


けれど、私たちの進路を妨害するかのように、何かが目の前に落ちてきた。


ぐしゃりと。

不自然に足がねじ曲がった状態のラカーシュが。


「ラカーシュ!」

「お、お、お、お兄様!!」


「………騒ぐな。生きている」

ラカーシュは短く答えると、素早く立ち上がり魔物へむかって片手を向ける。


「火魔術 <修の5> 炎粉盾(えんふんだて)!」


ラカーシュの言葉に呼応して、ラカーシュの身体全体を守るかのように、ぱらぱらと炎の粉をまき散らしながら半円状の炎の盾が出現する。

「はっ……守護にまわるあたり、悪手もいいところだな。セリア、ダイアンサス、私が堪えている間に、その扉から……」


双頭緑蛇(シャムサーぺ)を見つめながら言葉を発していたラカーシュだったけれど、驚いたかのように目を見開くと、不自然な形で言葉が途切れた。


なぜなら、双頭の魔物が目の前で二つに分かれたからだ。

まるで、初めから1頭1尾の蛇であったかのように、まっぷたつに。


そして、そのうちの1頭は素早く扉の前にすべっていくと、扉を塞ぐような形で位置した。


「く……」

ラカーシュが悔し気に唇を噛む。


1度に2つの魔術を行使することはできない。


つまり、2頭の魔物が2方向に出現している現状では、1方向しか守れない盾では対応できないということだ。

決断を迫られたラカーシュはあっさりと魔術の盾を消失させると、扉の前に位置した魔物へ向かって片手を構えた。


「いいか、私が隙をつくる。その間に扉から外へ出ろ。絶対に君たちに被害は出さない。だから、怖くても、魔物が追いすがってきても、決して足を止めるな」

ラカーシュは2頭の魔物を両にらみしながら、セリアと私に話しかけた。


そして、返事も待たずに魔術を発動させる。


「火魔術 <威の2> 尖叉青槍(せんさせいそう)!!」


言葉と共にラカーシュの両手からそれぞれに、青い炎の槍が出現した。


思わず息を詰める。


それは、見ているだけで呼吸が苦しくなるような、迫力と威力をもった炎の槍だった。

先ほどまでの魔術とはエネルギー量が全く異なることは、目を瞑っていても分かるほどだ。


ラカーシュが両手を振り下ろすと、ごおおおと不穏な音を響かせながら、炎の槍はその周りに青い炎を巻き付かせて、一直線にそれぞれの魔物を狙っていった。

そして、避ける間もなく2頭の魔物の喉元を貫通する。


それを見た私はセリアの手を握ると、一目散に駆け出した。


どうしてラカーシュが上級魔術を使えるのだろうとか、ものすごい精度だわとか、色々と思ったけれど、全ての考えを頭から追い払い、ただただ足を動かす。


けれど、槍の太さが不十分だったのか、それとも、急所からずれたのか、2頭の魔物は絶命することなく、苦悶の表情を浮かべながらも尾の部分のみを地面に接地すると、ぐんと頭部を高く持ち上げた。


扉口で待ち構えている双頭緑蛇シャムサーぺだったモノのうちの1頭が、大きく口を開ける。


噛まれるかもしれない、とは思ったけれど、それでも逃げられるとしたら今しかないと走り続ける。

少なくともセリアだけでも逃がせればと、握っていた手を繋ぎ変えて、魔物側に自分がくるように場所を入れ替わる。


「火魔術 <修の2> 炎燃槍!」


ラカーシュが再び魔術を発動する声が聞こえた。


上級魔術は威力が桁違いな分、消費する魔力も桁違いだ。


中級魔術に切り替えたことから推測するに、多分、ラカーシュが発動できる上級魔術は1度きりなのだろう。


相変わらずの精度の良さで、魔術の槍は魔物の額に刺さったけれど、残念なことに威力が足りていない。


単頭緑蛇(カプトサーぺ)は僅かに頭をかしげたけれど、気にした風もなく大きく口を開け、私を丸のみしようとでもいうかのように迫ってきた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★Xやっています
☆コミカライズページへはこちらからどうぞ

ノベル9巻発売中!
ルチアーナのハニートラップ講座(サフィア生徒編&ラカーシュ生徒編)
サフィア&ダリルと行うルチアーナの断罪シミュレーション等5つのお話を加筆しています

ノベル9巻

コミックス6巻(通常版・特装版)発売中!
魅了編完結です!例のお兄様左腕衝撃事件も収められています。
特装版は、ルチアーナとサフィア、ラカーシュの魅力がたっぷりつまった1冊となっています。

コミックス6巻


コミックス6巻特装版

どうぞよろしくお願いします(*ᴗˬᴗ)⁾⁾

― 新着の感想 ―
[良い点] 戦いに引き込まれる [気になる点] 決してファーストネームは呼ばないラカーシュ様 [一言] そういやラカーシュ様は最初の煙に気付いていなかったから、不意を付かれたらゲームでの状況になっても…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ