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有名侯爵騎士一族に転生したので実力を隠して親のスネかじって生きていこうとしたら魔法学園へ追放されちゃった  作者: すずと
三章

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第69話 専属メイドに死ぬほど愛されて眠れない

「──っぶな!?」


 目の前をヴィエルジュの氷の剣が通り過ぎた。


 冷気が鼻筋を通り、体温が一気に減少する。


「私の愛の一撃をかわすとは、流石はご主人様。更に惚れてしまいそう♡」


「愛情表現にしちゃ、ちと刺激が強すぎるんじゃない?」


「夜這いに来ましたからね。これくらい激しくない、とっ!!」


 容赦なくもう一振りしてきやがるので、持っていた剣で受け止める。氷の剣の反動か、冷気が吹き荒れる。


「ああ……ご主人様とこうやって(からだ)を交える日が来るなんて……ヴィエルジュ、ガチで幸せです♡」


「俺もまさか、専属メイドとこうやって剣を交える日が来るとは思わなんだ。それも魔法学園の寮で」


「寮で激しい夜をご主人様と過ごせるなんて、背徳感でどうにかなりそうです」


「予想外だな。ヴィエルジュが悪い子になっちまった」


「予想外の展開というのは良いものですよ。専属メイドに命を渡すご主人様、という予想外のハッピーエンドで、私達の愛の物語を完成させましょう」


「おいおい。バカ言っちゃいけねぇな。王道こそに真の価値があるんだよ。予想外の展開でウケるのは序盤だけ。だから俺はお前を正気に戻してハッピーエンドを迎える、さっ!!」


 交えた剣を大きく振り抜いて、バックステップでヴィエルジュとの距離を取る。


「私は正気ですよ。ご主人様への愛が溢れて止まらないだけです」


「それを異常と呼ぶんじゃない?」


「酷いです、ご主人様。でも、そんなご主人様も素敵です」


 だから、私の世界へお越しくださいませ。


 囁くように美しい声を放つと、こちらに手を向けてくる。


 やばい──やばいやばいやばい!! この感じはアレが来る……!!


絶対零度・世界(ヘヴン)


 凍る、凍る、凍る──!!


 一瞬にして、ワンルームの部屋が氷の世界へ大変身。劇的なビフォーとアフターである。氷大好きっ子にはたまらん部屋の完成だ。


 王道のハッピーエンドを迎えるためには、ここじゃ場所が悪過ぎる。こんな冷凍庫みたいなところで、凍漬けバッドエンドなんて目も当てられない。


 パリーンッ!!


 部屋が凍る(世界が変わる)前に窓ガラスをぶち破って外へ脱出。


 ここは五階。高さがあるけど、体操選手も驚きの着地に成功。成功の祝福のクラッカーの代わりにガラス破片が降ってくる。とか浸っている余裕はなし。


「せっかく、ご主人様と二人だけの天国を作ったのに」


 月明かりを浴びて降りて来るヴィエルジュは、ヴィジュアルだけを見れば天国へ誘う天使そのものである。


「さっきの魔法、絶対零度・世界エモーショナルワールドじゃなかったっけ?」


「ご主人様と二人になれるのですから、天国(ヘヴン)が妥当かと」


地獄(ヘル)の間違いじゃ?」


「今日のご主人様は口が悪いですね。そんな悪い子はお仕置きですよ」


「ドSスイッチ?」


「オン♡」


 甘い声を出して、風魔法を駆使し、すんごいスピードで迫って来る。


 こっちもダッシュ。必死に地面を蹴り上げる。


「速い、速い。ご主人様、速くてカッコイイ」


「足が速くてモテるのは子供の時だけかと思ってたよ」


「待ってくださーい」


「待つかっ」


 ──っくそ。また鬼ごっこかよっ。


 しかもこの美少女鬼メイドと来たら、空を飛びながら氷をぶん投げて来ているんですけども。当たった場所が凍っているんですけども!? 


 学園の鬼ごっことは比べ物にならない超ハードモード。


「きたねぇぞ!! チートメイドがっ!!」


「チート嫁の間違いでは?」


「この返しを聞く限り、完全にウチの専属メイドだね」


 いきなり襲いかかって来るから、ワンチャン、ヴィエルジュのニセモノかと思ったが、そうじゃない。


 そうなると──絶対、あのネックレスだよなぁ……。


 あんの美青年店主めっ。なんちゅうもんくれやがる。


 無料(ただ)より怖いもんはない。ってか。


 ただ、あのネックレスがどのような働きをしているのか。遠隔で操るようになっているのか。それとも、また別の働きか。


 走りながら、彼女の攻撃をかわしながらの考察は頭が回らない。息も切れてきた。


 ってことで考えるのはやめだ。


 寮から随分と離れ、夜のアルバートの街に出ていた。広場には人の姿がない。コウモリが数匹見える程度。


 そこでくるりと後ろを向くと、鬼さんがいなくなっていた。


『ダイブ・トゥ・ご主人様(ヘヴン)


「っお!」


 空から女の子が落ちて来やがった。


 氷の剣を携え、俺の真っ二つにしようとしてくるなんとも勇ましい女の子。


 なんとか剣で受け止めたけど、剣がピキピキ凍っていく。


「お、もっ……」


「私のご主人様への想い、いかがです?」


「重過ぎて気が狂いそう、だっ!!」


 なんとか剣を弾いた。


 ヴィエルジュは、くるくると空中で回転して見事に着地する。


 俺の着地よりカッコよくてなんだか嫉妬しちゃうね。


「なぁヴィエルジュ。そのネックレス外してくれない? やっぱり似合ってねぇわ」


 さっきは忖度しちまったが、今はそんなもんなしの本音をストレートにぶつけてやる。


「むぅ……どうやらさっきのダイブ・トゥ・ご主人様(ヘヴン)で、本当に気が狂ってしまったのですね」


「いや、言葉のあやだわ!!」


「気が狂ったご主人様を、ヴィエルジュの愛で治してさしあげますね」


 かわいらしく言ったあと、ヴィエルジュはその場で踊るように腕を振り始めた。


 ふる……フル……! 振る……!!


 しかしなにも起こらない。


「求愛ダンスにしちゃ、いささかおそまつだな」


 ただただかわいい女の子が、下手くそなダンスを披露している様にしか見えん。


「ダンスが得意じゃないのは知っているでしょ?」


「昔からそうだな」


 ──ッ!?


 ヴィエルジュのダンスを見ていると、物理的にも、精神的にも空気が凍った。


 暗がりで見えなかったが、月の光が一瞬だけ無数の透明な氷刃を照らしてくれた。一つ見つければ一気に他が見つかる。気分的には見つけたくはなかったかも。


 目の前に無数の氷刃。視界の隙間という隙間に細く鋭い氷の結晶。どれも動かない。風すら避けて通る。通り抜けて来た冷ややかな風が俺の身体を包んで震えあがる。


「っらああああああっ!!」


 冷たさと恐怖を誤魔化すように大きく剣を振った。


 いくつかの氷刃が砕けちったが、こんなもんは氷山の一角。


「あら、鈍感系なご主人様なのに、案外早く私の愛に気が付いてくれましたね」


「ああ……鈍感系主人公は流行らないから、なっ!!」


 もう一度剣を振るう。だけどやっぱり全ての氷刃を砕くことはできない。


「いつの間にこんな暗殺みたいな魔法を覚えてんだよ」


「成長したヴィエルジュにぞくぞくするでしょ?」


「既に完成形なのに、まだ成長するなんて、やっぱり俺の専属メイドはチートだ、わっ!!」


 振る。振る。振る。剣を振る。


 おそらく、この魔法を完成させるには時間を有する。ダンスが必須なのかどうかは置いておき、今の内にできるだけの氷刃は消しておく。


「下手くそなりに、ご主人様のために頑張りました」


 やばい、やばい──来る……来る!!


「褒めてくれると嬉しいです♡」


 ヴィエルジュは、踊りのシメに自分自身をギュッと抱きしめるようなポーズをする。


 瞬間。目の前で止まっていた無数の氷刃が一気に襲い掛かってくる。


「う、おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 襲い掛かる氷刃を斬る。出来る限り斬る。斬る。斬る──。


 だけども、顔に、腕に、足元に、氷刃は容赦なく飛んで来て、俺の皮膚をかすめていく。


「ぐっ……」


 しまいに、足に、肩に──。


「ぐぁ!? ぁああ!? ああああああ!!」


 激痛が走る。


 刺さった。氷刃が肉体をえぐってくる。


 でも、それでも氷刃を斬る。致命傷を狙ってくる氷刃を斬って、斬って、斬りまくる。


 お日様が出てたらこんな思いはしなくて済んだのにな。なんて愚痴っても仕方なし。


「──はぁ……はぁ……」


 痛い、な、どちくしょう……。


「まさか、私の愛をそんなに拒絶するなんて……」


「何発……か、もらった、けどな」


 足に、刺さった氷刃を抜いて、そこら辺に捨てる。真っ赤に染まった氷刃はすぐに溶けて消えた。


「決定打になっていません。やり直し」


「ドSかよっ!!」


 今にも踊り出しそうなヴィエルジュへ、肩に刺さった氷刃を引っこ抜いて投げてやる。


 咄嗟に彼女が氷刃を振り払う動作をしたので、その隙に一気に間合いを詰める。


「ぁ……」


 ヴィエルジュのネックレスを斬ると、宙を舞った。


「おらっ、このっ、うりゃ!!」


 ネックレスを剣で粉々に砕いてやる。


「はぁ、はぁ……見たか、おらっぼけっ」


 身体が痛くて変にハイになっているが、こちらのハイテンションとは反対にローテンションのヴィエルジュはそのまま放心状態となってしまった。


「ヴィエルジュ?」


 ネックレスの効果がなくなったか?


 しかし、次の瞬間、キリッと睨みつけてくる。


「リオンくんがくれたネックレスなのに……許さないっ」


 うそん。第二ラウンド開始やん。


 こっちのことなどお構いなしに、氷の剣を生成して突っ込んで来るヴィエルジュ。


 なんだよ。ネックレス関係ねぇのかよ。


「許さない、許さない、許さない……リオンくんのくれたネックレスをご主人様が潰して、ご主人様が……リオンくんで……リオンくんがくれた、ご主人様……あれ……?」


 勢い良く攻撃して来たのは良いけど、途中で頭の中がパニックになったのか、戸惑って攻撃をやめてしまった。


「落ち着けって。今度ヴィエルジュに似合うもん買ってやるから、な?」


 戸惑っているヴィエルジュの頭に手を置いてやる。


 すると、「きゅぅぅ……」とこちら側に倒れて来るもんだから受け止めてやる。


「ヴィエルジュ──あつっ……」


 ヴィエルジュの身体は、めちゃくちゃに熱かった。まるで風邪でも引いてしまったかのような熱さだ。


「……はぁ……はぁ……ご主人、さま……」


「大丈夫か?」


「わた、し……は……」


 苦しそうな声を出すヴィエルジュ。もう襲い掛かってくる気配もない。


 こりゃ病院に連れて行かないといけないな。ついでに俺も診てもらおう。


 肩や足は痛いけど、ヴィエルジュをおぶってやることはできる。


 よいしょっとヴィエルジュをお姫様抱っこしてやる。


『ほぅ。私の魅了を解いたか』


 なんか……目の前に黒フードの怪しい人が立っているんですけども。


「……お前、声色変えているけど、さっきの店の店主だろ」


「私の魅了は私の言う事を聞くはずだ。それなのにその娘は言う事を聞かずに暴走していた……既に愛が混じっていたか」


「なにを言ってんの?」


「ふふっ。面白い。まさか最初に釣れたのが転生の魔力の持ち主とはな」


「人の話聞けよって言いたいけど、その転生の魔力ってのが気になるから、それを教えろよ」


「セレスの封印が解けたというのも、あながち間違いではなかったか」


「誰だよセレス。てか、全然こっちの話聞かないじゃん」


「くくく……まだ時は満ちてない……頃合いではない、か」


「まてまて。急激な中二病展開は追いつかな──」


 こちらの言葉虚しく、シュタっと黒フードの怪しい人はその場で姿を消した。


『また会おう。リオン・ヘイヴン』


 あーはっはっはっという声と共に、そいつは闇に消えていった。


「いや、不審者に名前覚えられとるやん」


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