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有名侯爵騎士一族に転生したので実力を隠して親のスネかじって生きていこうとしたら魔法学園へ追放されちゃった  作者: すずと
三章

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第68話 愛の支配は苦しまない

「それじゃあ、また明日ね、二人共」


「ああ、またな」


「また明日」


 アルバート城の前でフーラと別れる。


 結構ガッツリと図書館にいたみたい。


 陽はすっかりと沈んでしまい、アルバートの街に灯りが灯る。


 街明かりの中をヴィエルジュとふたり歩く。


「ウルティム様のことはわかりませんでしたが、ウルティム様がまた狙われている可能性があるというのはわかりましたね」


 リブラ先生の情報は、さっそくとヴィエルジュとフーラに共有。情報共有っていうのは本当に大事だからね。報連相はまじで大事。ほうれん草も大事。


「でもまぁ、あの子は狙われても返り討ちにしそうだけどな」


「しかし、悪用のために狙うのでしたら、なにも強さだけで従えるわけではないと思いますが」


「ぬ?」


「支配は暴力だけではありません。言葉による支配。情報による支配。経済的支配。あと……」


 ジッと俺を見つめてくる。


「愛による支配、とか」


「俺はヴィエルジュを支配しているの?」


「私にとっては幸せな支配ですけどね♡」


 この子はよくもまぁこんな公の場でそんな甘いことを言えるものだ。


 しかし、ヴィエルジュの意見は正しい。


 俺の考えは楽観的過ぎたか。


「一応、俺がマスターってことになってるけど、そのマスターってのもどの程度のものなのか曖昧過ぎるもんな」


「早くウルティム様について調べあげないといけませんね」


「だなぁ」


 結局、ウルティムは俺達にとって未知だ。世界最悪の剣と呼ばれていた少女。剣が刺さって封印されていた少女。剣を抜いたらマスターと呼んでくる少女。行動は人間に近い少女。正体不明の少女。


 どういう存在なのか判断がつかない。未知のものが一番怖いってやつだ。無知は罪だなんて言ったもんだな。


「だからヴィエルジュ。明日も──」


 半歩後ろを歩いていたはずのヴィエルジュがいない。振り返ると、露店の前で立ち止まっているみたいだ。


 俺は数歩ほど、元来た道を戻り、ヴィエルジュの隣に立つ。


「なんか欲しいもんでもあった?」


 尋ねるが、ヴィエルジュはボーッと露店の商品を眺めている様子だ。俺の声が届いていないみたい。


「ヴィエルジュ?」


 再度名前を呼ぶと、ハッとなったみたいにこちらを見た。


「ぁ……申し訳ありませんご主人様。つい、あのネックレスに見惚れてしまいまして……」


「珍しいな」


 言いながらヴィエルジュが見惚れていたネックレスを手にとって見てみる。真っ赤な石が鎖で繋いであるだけ。特になんの変哲もないネックレスに見えるけども。


「いらっしゃい。ゆっくりみてってね」


 甘い男性の声。同性なのに耳に心地良い声の主は露店の店主だ。


 視線を向けると、絵に描いたような美青年がいた。顔色が青白いけども、それを差し引いても美青年と呼べるだろう。声も相まって数倍増しでイケメンに見える。


「いや、職業間違えていませんか?」


「え゛!?」


 さっきの甘い声はどこへやら。なんとも変な声を出していた。


「こ、ここで店を出すのはダメだったの?」


「あ、いえ、ガチですみません。そういう意味で言ったわけじゃないんです。ただ露店の店主とは思えないほどの面構えだったから」


 こちらの答えに、ホッとした様子をみせる。


「あ、はは……良かったぁ。ここで店を出したら変なのかと思っちゃったよ。昔はここで店を出していたからね」


「へぇ、そうなんですね。何年くらい前です?」


「一〇〇年くらい前かな」


「老舗かっ」


「あははー」


 なんかノリの良いお兄さんだな、このイケメン。初対面で漫才みたいな掛け合いをしているところで、美青年店主が俺とヴィエルジュの制服をまじまじと見つめてくる。


「二人はアルバート魔法学園の生徒?」


「はい。魔法学園の生徒ですよ」


「なら安くしとくよ。彼女にプレゼントで、どう?」


 美青年店主がにっこりとした笑顔で言ってくるのを、ヴィエルジュが険しい顔をして否定する。


「彼女ではなく嫁です」


「……へ?」


 早くも二回目の声崩壊。


 そりゃ、否定文の内容が嫁だなんて言ってきたらそんな反応にもなるだろうけど。いささかびっくりし過ぎではなかろか。


「いや、メイドだろ。ウチのメイドがすみません」


 やたらびっくりしているみたいだから謝っておくと、「あはは」と苦笑いを浮かべていた。


「今の時代、嫁もメイドも同じようなものでしょ」


「全然違うだろ」


 こちらのやり取りに、美青年店主は、苦笑いから微笑ましいものを見る、優しい笑みに変わってくれた。


「二人はとても仲が良いみたいだね。なんだったら今回だけ出血大サービス。無料であげよう」


 美青年店主よ。それ以上出血したら死ぬ見た目をしているぞ。もちろん、言葉のあやなんだろうけども。実際に出血を大サービスされても困るもんな。


「いや、売り物なんだし悪いですよ」


「いいの、いいの。お兄ちゃん私とも漫才してくれた上に、夫婦漫才もしてくれたし」


「いや、今のを漫才と呼ぶには芸人の方々に失礼ですよ」


「笑いについての志高いね。ますます気に入ったよ。持ってけドロボー」


 今日日、そのセリフを聞けるとは思いもしなかった。しかも美青年イケメンから。


 ヴィエルジュをチラリと見ると、ジーっとネックレスを見つめていた。


「欲しい?」


「はい」


「ほんと、珍しいな」


 案外物欲な面もあるのね、なんて思いながらネックレスをヴィエルジュへ着けてやる。


「どう、ですか?」


 正直なところ、ヴィエルジュには似合っていなかった。だけど、彼女が珍しく欲しいと思ったものに対し、本音を出すのもはばかれる。


「ヴィエルジュという素材が良過ぎる件」


 そんな風に誤魔化しながらの返答を彼女は聞いていないのか、ネックレスをまじまじと見つめていた。


「ふふ。彼女さん似合ってるね」


 美青年店主の言葉にヴィエルジュが反応する。


「ですから嫁です」


「あはは。そうだったね」


 姪っ子でも扱うような口調で美青年店主が答えると、こっちを見て来る。


「いえいえ。また会いに来てくれるんだから安いもんだ」


「あれ。勝手に常連にされてる。もしかして、それが狙い?」


「バレたか」


 あははー。なんて苦笑いを浮かべたあと、美青年店主がにっこりとした。


「またのお越しをお待ちしております」


 ♢


 夜、寝る前に歯を磨き、ベッドの上で欠伸を一つかます。


 ウルティムと交換した剣を手に取り、なんとなしに眺めた。


「うむ。何度見てもなんの変哲もない剣である」


 鑑定の才能なんてないのに、自己判断で鑑定結果を口にした。


 いやいや、これ、ウルティムを封印していた剣だぞ。もしかしたらウルティムに関する秘密でもあるんじゃないか。


 なんて思うけども、アルバートに剣の鑑定をしてくれるところなんてない。


 ステラシオンならエスコルさんに頼めばみてくれるだろうけど……俺は学生だし、頻繁にステラシオンに帰ることなんてできん。この前は試験がなかったり、ステラシオン側から呼ばれたから行けただけだ。


 また最高の妹、レーヴェに頼む? いや、いい加減パシリをやらせ過ぎると怒りのレーヴェパンチが飛んできそうだ。


 うーん、どうしたものか……。


 考え込んでいると、コンコンコンと俺の部屋がノックされた。


「へいへーい?」


 誰だ? こんな時間にやって来る不届き者は。


「ご主人様。お時間よろしいでしょうか?」


「ヴィエルジュ?」


 聞こえてくる声は間違いなくヴィエルジュのもの。俺が聞き間違えるはずもなし。


 剣を持ったまま、部屋のドアを開けた。


「夜分に申し訳ございません」


 そこには見間違えるはずもない、まごう事なきヴィエルジュが、いつものメイド服で部屋の前に立っていた。


「こんな時間にどしたん?」


「実は──」


「!?」


 ヴィエルジュは瞬時に氷の剣を創造し、俺を斬りつけてくる。


「あなた様の命をもらいに来ました。ご主人様♡」


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