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凱旋


 戦は、レインリーの圧勝で終わりました。


 魔王の恐怖が残っていたのでしょう。

 ワタクシとミラーの合わせ技の特大魔法を浴びて、敵は大混乱に陥りました。

 

 大多数のものは、逃げ出し、統制のとれずに、攻めてきたものは、志気の高いレインリー軍が倒してしまいました。


 魔王のように一撃とはいきませんでした。

 それでも、レインリーの大金星です。


 ワタクシ達レインリー軍は、祖国を守りきりました。


◇ ◇ ◇


「ふっふっふ」


 戦から帰ってきたワタクシは、王の間でふんぞり返りました。


 大国すら、打ち倒したワタクシです。 

 もはや、魔王に次ぐ、完全悪役だと言っても過言ではありません。


 これで本来のゲーム通り本来の役割を演じることができます。


 ワタクシの本来の役割。

 それは悪役令嬢にほかありません。

 

 ワタクシは皆の前で、宣言いたしました。


「これで、この国はワタクシのものですわ」


 完璧に悪役のセリフです。

 恐怖のあまりか、誰も、否定するものはいません。


 王が代表して、進み出てきました。

 

「つまり、ワシの妻になるということだな」


 王が斜め上のことをワタクシに言いました。

 

「はい? 違いますわよ」


 ワタクシの回答に頭の上にたらいでも受けた表情になりました。


 今度は、ハルーがいいました。


「父上のような、老いぼれと釣り合うはずはない。もちろん俺の妻になるのだな」


「どうして、そうなるのしょうか?」


 ハルーも、馬にでも蹴られた衝撃的な顔になりました。


 今度は、キラルが前に出てきました。 


「レティセルは、俺と国を守っていくのだ」


「うーん。キラルは言うほど、役にたっていませんでしたよ?」


 キラルは、棍棒にでも殴られた顔になりました。


 三人は、支え合うように寄り添いあうと、そろって、隅っこで小さくなってしまいました。


 ちょっと可哀想に思えましたが、三人は、魅了の魔法がかかっているので、味方になってくれているだけです。

 

 ですが、悪役になるのはワタクシ一人だけで十分です。


 というのも、これからが断罪イベントの見せ場です。

 

 なぜならワタクシは、戦に行くまでに、国の金を使いまくった痕跡を、アディーラ王子が気づくようにしていました。


 クラウドラが攻めて来たことが、やらせのように見えているはずです。


 二人の愛が確かであることは、戦の前に確認しました。


 愛の最高潮に達するためには、悪役令嬢であるワタクシを処刑するだけです。


 アディーラ王子と、エレノア様が前に出てきました。


 待ちにまった、処刑タイムです。

『邪悪な悪役令嬢は処刑する』という言葉をワタクシは待ちました。


 ついに、アディーラ王子が口を開きました。


「では、私が宣言しよう。私の持つ第一王位継承権をレティセル・ゼオンに捧げると」


「レティセルお姉様、私達夫婦は、この国のため、お姉様を支えることを誓います!」


 二人はワタクシの前に頭を下げて、かしずきました。

  

「はあい?」


 全く真逆のことを言われて、ワタクシは混乱しました。


「どうしてそうなったのですか?」


 ワタクシは、アディーラ王子にききました。


「ん? この国はワタクシのものと言っただろう」


「そうですわ! だから、」


「女王になっていただける。そういうことであろう」


「そうです。だから、それをアディーラ兄様が……」


 止めるためにワタクシを断罪しないとと続けようとしたところで、アディーラ王子は、みなを振り返り、宣言した。


「偉大な女王の誕生を祝おうではないか!」


 会場から拍手喝采が巻き起こった。

 誰もが『異議なし』といったかおをしていた。


「なんで、そうなるのですか!?」


「なんでもなにも、レティセルは国を救った英雄だろう」


「で、ですが、ワタクシは国のお金を勝手に使い込み……」


「勝手に? ちゃんと父上の許可を取っていたとのことだが」


「そうじゃよ……」


 王が小声で言います。


「そ、それは、そうですが」


 魅了して、許可をもらっていただけです。


「こんなに税金を使っては、国民の怒りは爆発で……ほら、こんなに苦情が届いています」


 ワタクシは、王の間に山のようにどどいた手紙を一つ開けてみました。


『レティセル様、ありがとうございます。レティセル様が企画してくれた数多くのブライダル事業が軌道に乗り、たくさんのお客様がきてくれるようになりました』


 ブライダル事業???

 どうして、感謝されているのでしょうか。

 ワタクシは、欲望のおもむくままに、金を使いまくっただけなのですが。


 アディーラ王子が説明してくれます。 


「レティセルが、いろいろなところに援助をしてくれたおかげで、どんどん経済は発展。払った以上に税金が集まっていて、一気に財政は立てなおった」


「そ、そんな馬鹿な」


 ワタクシは、自由気ままに悪いことをしただけです。

 悪いことをして、褒められたら意味がわかりません。


「かくなる上は……」

 

 花火のごとく、一瞬の煌めきを残して、激しく散ってこそ悪役。


 ワタクシには、まだ散る手段が残されています!

 

「ですが! 見てみなさい。三人はワタクシの悪魔の魅了の魔法で傀儡にしただけなのです。ワタクシは悪魔に魂を売りました。なので、もう余命はありません」


 ワタクシは、大きな声でいいました。


「では、ミラー約束通り、魂を捧げます」


 ワタクシがそういうと、ミラーはつまらなそうにうなずきました。


 ワタクシの体がぽわっと輝くと、なにかが吸い込まれていきました。


「約束通り、寿命はいただいたぞ」

 

 体を見ますが、特に変化はありません。


「ミラー、特に変化がないようですが……」


 まだ、寿命の残りがあるということでしょうか。


「ミラー寿命はどのくらい徴収されたのでしょうか?」


「約束通りいただいた。3日分な」


 ん? 3日分?


「どうしてたった3日なのですか」


「眉、調整分だ」


 確かに、それは三日分と言っていました。


「私はみなを魅了の魔法で虜にして……」


「ああ、私は魔術をしようしようとしたのだがすべて不発に終わった」


 不発?

 そんなわけありません。


「ちゃんと皆、魅力されていましすわ」

 

 ちゃんとバッチリ効果がでています。

 その証拠に、三人はショックから立ち直れていません。


 アディーラ王子が、首を傾げています。


「三人は昔から、君のことが好きだったぞ」


 それは一体どういう?

 ワタクシは意味がわからずに、ミラーを見ました。

  

「つまり、お前は魔術などなくても、魅了していたということだ」


「そんなわけ……」


「最初に教えてやっただろう。お前はこの国一番の美女であると。それに、あんな迫られ方をしたら男は皆惚れるだろう」


 ということは、みなさんあれは素の状態だったということでしょうか。

 なんだか突然恥ずかしくなってきました。

 ですが、ワタクシから全く寿命が取れないということは、人から奪った寿命分生きることができるという悪魔は……。


「それでは、ミラーが死んでしまうでしょう」


「なにを今更、私の心配をしているのだ。それに、心配しなくても死ぬことはないぞ」

 

「えっ」


「言ったであろう。敵から魂をいただくと。悪魔は契約者以外からも恐怖した人間から魂を奪えるのだ。お前が敵兵を倒しまくった時に、魂をたらふく喰ったからな」


 ミラーはワタクシの魔導具です。

 ワタクシの魔法に恐怖したものは、ミラーの餌食になったということです。


 確かに魔法は、それなりに派手で強力はありましたが、戦局を覆すほどではなかったように思えます。


 魔王の恐怖が残っていたところにワタクシの魔法を見て恐怖が爆発してしまい。


 悪魔ミラーにつけ込まれ魂を奪われたと。


 ミラーが続きを説明してくれます。


「むこう1000年は魂喰わなくても大丈夫だ。というより正直、食傷気味だ。しばらく魂は食べたくない」

 

「ということは?」


「私はお前の魂などいらない」


「そ、そんなどうすれば、ワタクシは悪役令嬢に」


 エレノア様が駆け寄ってきて、手を握ってくれます。


「お姉さまは、心の底から私とアディーラとの婚約を喜んでくださいました。そんな方が悪い方であるはずありません」


 エレノア様が手を握ってくれるなんて、天にも昇る心地です。


「レティセルは、誰よりも素晴らしい王になれる」


 アディーラ王子の言葉で、我に返りました。


「いや、ワタクシ王になりたいわけでは……」


 助けを求めて視線をさまよわせると、視線のあったミラーが言いました。

 

「つまり、お前の行いは、すべて裏目に出たということだ」


「裏目?」


「悪役令嬢とやらの裏目だ」


「それは一体どういう?」 


「悪役令嬢とは、みなの嫌われ者なのだろう。つまりどういうことかというと」

 

 ミラーが、ニヤリとしました。

 いままで一番悪魔らしい顔です。


 そして、たっぷり嫌味らしくいいました。


「みな、お前が大好きということだ」

 

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