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ある名無しの魔導師の二人目の友人

新作『アシュテルラの悪女、真珠姫』とリンクする後日談を書きました!

そちらを読んだあとにお読みいただけるとより楽しめると思います♡

 俺がここに封印されてから、どれくらい経ったのだろう。でも、特に不自由はしていない。頭さえあれば、永遠に魔法のことを考えていられる。


 (エンツィアン)も壊れてしまったからか、その思考に汚染されることはなくなった。


 ラヴェンディアもとっくに死んでしまっているだろうな。──ちくりと胸に痛みを覚え、俺は首をかしげた。


 俺は、動けない中で、ひたすらあの魔法を改良していた。頭の中に式を描くようにして。縁結びのリボンを使った、生まれ変わりの検索装置。相手を殺さなければできないのがややもどかしいのだ。


 すでに死んでしまった相手と繋げる方法はないだろうか。そういうことを延々と、千年くらい考えた。


「うん、これでいこう」


 手を使えないからずいぶん効率が落ちたが、頭の中だけでも魔術式が完成した。すでに相手が死んでしまっていても、自分が死ぬ、まさにそのときのエネルギーを使って相手を探す装置を組み上げる。そんな魔法だ。



 そんなとき、一人の男がやってきた。男は自分のことを神だと名乗った。あまりにも面白すぎて、五千年ぶりくらいに大笑いした。いや、生まれてはじめてかもしれない。相変わらず動けないものの、腹の筋肉が引きつって痛い。


「神? 自分のことを神って言った? お、おもしろすぎるなお前」


 俺が言うと、神は顔を真っ赤にした。自分でも不本意らしい。


「俺は、あなたに教えを乞いに来たんだ」

「ふうん? 魔法のこと?」


 暇つぶしになりそうだな、と思って聞いてみた。すると男は目をきらきらさせて頷いた。




 それから七昼夜もの間、俺たちは魔法について話した。


 俺にはソフィしか友だちがいなかったし、あいつはいつもぷりぷり怒っていてまともに話ができたものじゃなかったから、とても嬉しくなった。


「あなたにまた会いに来ようと思っている。だが、すまない……」


 神は眉を下げた。


「ああ、封印? 解かなくていいよ?」

「え?」

「俺、べつに困ってない。頭さえあれば魔法なんていくらでも考えられる。まあ、実践はしたいが」

「そうか……」


 神は微妙な顔をした。


「それでは、俺はもうそろそろ行かなければならない。最後に、あなたの名前を教えてほしい。文献にも残っていなかったんだ」

「はは、俺、名前ないよ?」

「え?」

「生まれたときから名前なんてなかったんだよ。だから名無しって呼ばれてた」

「……」


 その表情を見て、ずいぶんお優しい、育ちの良い神だなと思った。


「では、俺はあなたのことをネモと呼んでいいだろうか?」

「ネモ?」

「ああ。あだ名のようなものだと思ってくれればいい。わが国の言葉で"名無し”という意味だ。……その」

「まあいいよ。なんでも」

「そうか! それではネモ、またいつか来る」

「うん」

「──俺もあなたと同じような体だから。先になるかもしれないが、また来るよ」

「ほーい」


 そうして神は去っていった。


「ネモ、ね……」


 時氷の封印にヒビが入る。俺はくつくつと笑った。


「ペーペー神様なんだろうな。名前を付けるのは力を与えることだって、知らないのかな」


 あと少し力を入れればすべて壊れてしまいそうだ。パキリ。氷が割れる音がして、俺の両手が自由になった。


 でも──。友だちに嫌われるのはいやだな。"ネモ"はそう考えた。だから、またひたすらここで魔法を考えておくことにした。




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