2、みずうみの王さま
ちとせちゃんから、ほう石のありかを聞かれたカラスが答えました。
「みずうみの王さまなら、とても大きくてきれいなほう石をもっているよ」
ちとせちゃんは少しまよいました。子どもだけでみずうみに行ってはいけないと言われているからです。
「おたからを手に入れるためには、あぶないこともしなくちゃね」
カラスがわらいました。さっきのりえちゃんみたいな、いじわるなわらいがおです。
ちとせちゃんは、むっとして、みずうみの方へ走って行きました。
みずうみの王さまは、ちとせちゃんの家ぐらいの大きさの魚で、とてもわるいやつでした。いつでも、人の子どもをつかまえて食べようとたくらんでいるのです。
ですから、ちとせちゃんがひとりでみずうみの近くまで来たとき、これはおいしそうな子どもが来たぞ、とよろこびました。
「みずうみの王さま、王さまのほう石を、わたしにください」
ちとせちゃんが、みずうみに声がとどく、ぎりぎりのところでそうさけぶと、みずうみの王さまは言いました。
「あげてもいいが、かわりに何をくれるかな?」
「ポケットにクッキーが入っているわ」
ちとせちゃんがポケットからおやつのクッキーを出すのを見て、みずうみの王さまは、ばかにしたようにわらいました。
「そんなものじゃだめだ。このほう石は、世界でたった一つのほう石だぞ。おまえのかたっぽの耳か、かたっぽの目か、ゆびの一本とならかえてやろう」
そう言うと、みずうみの王さまは、ほう石を出して、見せびらかしました。
ちとせちゃんはまよいました。みずうみの王さまのほう石は、りえちゃんのお母さんのダイヤモンドよりもずっと大きくて、キラキラと輝いています。もしかすると、あれよりも大きくてきれいなほう石は、はくぶつかんやびじゅつかんにもないかもしれません。
かたっぽの目か、かたっぽの耳か、小ゆびをみずうみの王さまにあげたら……。
ちとせちゃんが、へんじをしようとすると、どこからから、お母さんの声がしました。
「ちとせちゃんよりもキラキラしたたからものなんて、あるわけがないでしょう」
ちとせちゃんは目をぱちくりさせました。
「ちとせちゃんの目も耳もゆびも、みずうみの王さまのニセモノのほう石のかわりになんて、あげられません!」
お母さんの声がさっきよりも、はっきりときこえました。
「ええ、ニセモノなの?」
ちとせちゃんがみずうみの王さまが持っているほう石をよく見ると、それはほう石などではなく、大きなどろだんごでした。
「やっぱり、みずうみの王さまのほう石なんて、いらない!」
ちとせちゃんは、そうさけびました。
「にげなさい、ちとせちゃん!」
こんどはお父さんの声がしました。そこでちとせちゃんは、お父さんの言うとおり、大いそぎで、にげました。ほんとうにあぶないところでした。みずうみの王さまがおこって、みずうみからとび上がって来たのですから。
ちとせちゃんがむちゅうで走ってにげていると、お母さんと、ひいおばあちゃんが、むこうから歩いてくるところに出あいました。
「どうしたの、ちとせちゃん?」
お母さんにそう聞かれて、ちとせちゃんはこたえました。
「みずうみの王さまからにげて来たの!」
「みずうみの王さま?」
「みずうみにいる、大きなお魚よ。みずうみの王さまのほう石がほしいって言ったら、私の目か耳か、ゆびとこうかんだって。でも、本当はほう石じゃなくて、どろだんごだったの。だから、にげて来たの」
すると、ひいおばあちゃんが言いました。
「まぁ。なんという魚でしょう。小さい人をだまして、ひどいことをしようとするなんて。すぐにけいさつをよびましょう。こらしめてやらなければ」
お母さんが、スマートフォンをバッグから出して、すぐにけいさつをよびました。
みずうみの王さまは、みずの中からとび上がって、しばらくは、ちとせちゃんをおいかけていたのですが、その日は天気がよくて、道がカラカラにかわいていましたから、だんだん元気をなくしていたところに、けいさつの人たちが来て、みずうみの王さまを、あっというまに、大きな大きなあみで、つかまえてしまいました。これで、もうあんしんです。
お家に帰って来たちとせちゃんは、ひいおばあちゃんと、お母さんと、お父さんに、たくさんおはなしをしました。みずうみの王さまがもっているというほう石をお母さんにあげたくて、みずうみにいったこと。みずうみの王さまと話しているときに、お母さんとお父さんの声がしたことを。
「でも、どうして、お母さんとお父さんの声がしたのかな?」
ちとせちゃんが、くびをかしげると、ひいおばあちゃんが、おしえてくれました。
「それはね、ちとせちゃん。お母さんとお父さんが、毎日、心から、ちとせちゃんのことを、たいせつだとつたえているからよ」




