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家に帰るまでが冒険です  作者: 雲丹屋
第6章 豪華客船で行こう

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プランB(実行)

タイムフライズ号は、その矢尻型の船体の前方に、船体がすっぽり収まるサイズの"穴"を展開された状態で廃棄船に向かって飛んでいた。

「これで相当近づいても、向こうからは観測されないはずだ」

「ホントにこの速度のまま、突っ込んでいいんだな。パッシブな観測なしのブラインド状態だからオートの回避は働かないぞ」

「それでいい。むしろ自動回避運動で想定外に動かれると困る。等速の慣性航行なら、タイミングは合わせられる」


川畑は、ブルーロータスにいるキャップとリンクしている視点で、ハイパーソナーを確認した。

観測手に抜擢された赤毛の女性は、当初、4つある耳にヘッドフォンをどうつけるか、悪戦苦闘していたが、どうやら2セット使うという結論に達したらしい。モニタにはよい精度でクリアな計測結果が表示されていた。

使っている理力の一部はノイズキャンセルせずにブルーロータスから見えるようにしているので、TF1の位置もちゃんとリアルタイムで表示されている。廃棄船とTF1の距離は等速でみるみる縮まっていた。




川畑は、再接近時に宇宙艇の前に展開した穴の転移面を反転させた。タイムフライズ号は、吸い込み判定で転移され、船体後方に設定された転移先に出現したときには、慣性はキャンセル、速度は最寄りの大質量である相手の船に同期された。

川畑は乗り込み隊の面々を廃棄船内に転移させた。




「無人だって言ったくせに、撃ってくるなんて詐欺だ」

MMは銃撃を掻い潜って、通路の先に滑り込んだ。

「あれは自立型の警備機器だ」

ダーリングは応射しながら、視野の端に表示されている立体船内図を確認した。

「あんなものがいるとなると、艦橋から遠い位置から入ったのが厳しいな」

「出現位置がブレても大丈夫なように、広い空間が確実にあるところを、転移先に選んだんだから仕方ない」

乗り込み乗っ取り隊は、整備格納庫から、艦橋を目指して、戦艦内を移動していた。


「廃棄する船なら、警備装置切っていけよ。痛ってえぁあ、もう」

「だいじょうぶ?おケガした?いたいのいたいのとんでいけー」

MMは傍らに浮かんだ青い妖精を見て、何とも言えない顔をした。

「妖精ちゃん、死ぬ前の幻覚か、ヤバい薬の副作用みたいだから、あんまり優しくしないでくれる?おまじないでホントに痛みが消えるの、マジで怖い」

「ますたー、このおにいちゃん、まだよゆうあるよ」

「負傷は?」

「ころんで、ぶっただけ。もうなおした」

「よし、俺が切り込むから、その間に向こうに見えるラッタルから上層甲板に上がってくれ」

MMとダーリングの視野に、ラッタルへの矢印が表示された。その上の3カウントのカウントダウンの数字が0になったタイミングで矢印が赤くなる。

ダーリングが援護射撃をし、川畑が通路の奥の自立型警備機器に向かって突進するのと同時に、MMは矢印の先のラッタルに跳んだ。

「がんばれ、がんばれ」

「なんで俺、妖精と一緒に宇宙戦艦の中、走ってるんだろう???」

「ますたーにつきあわされて、かわいそうだね。よしよし」

「なんか泣けてきた……」

MMはあっという間に敵を倒して追い付いてきたゴツいの二人をちらりと見て、ため息をついた。




「基本構造はともかく、さすがに細部は入手した図面通りとはいかないか」

通路の行き止まりで、川畑は正面の扉に手をあてた。

「ここも認識証が鍵になってるみたいだな」

「また"穴"で通るのか?」

「いや、向こう側に十分な空間があるのかどうかがわからない。倉庫でものがびっしりかもしれないだろ。基本的に行ったことがなくて先の状態がわからない転移はまだできない」

「ここの格納庫にはできただろう」

「図面から想像した空間イメージと距離感覚だけで跳んだけど、必要のない無茶はしない方がいい」

MMは、想像以上に無茶な行動につきあわされているらしいことに気づいて、ゾッとした。


「私が中の様子見てきますね」

帽子の男がふわふわ漂いながら、扉をすり抜けていった。

MMとダーリングは、もうこの程度では突っ込むまいと心に誓った。

「どうだった?」

「大変ですよ。中に人がたくさんいました」

「なんだって!」

「50人以上。100人はいないと思います。9割はルルド系のあの熊のぬいぐるみみたいなちっこい人です」

「乗員が残っているのか」

「そんな感じじゃなかったです。手枷と足枷つけられて、ずいぶんやつれてましたよ」

「難民か捕虜か……人数を考えると、交換交渉が厄介な捕虜の可能性が高いな」

ダーリングは唸った。

「ここでブルーロータスもろとも片付ける気か?」

「ブルーロータスが、知らずとはいえ、戦艦ごと彼らを排除したら、人道的に非難する気だったんだろう」

「ひでぇな。戦艦が"乗員は全員退避済"って言って、"乗客"が残っているとは誰も思わねぇよ」

MMは顔をしかめた。


「カップ。お前は先に行って艦橋を探せ。お前なら警備機器にも気づかれない」

「はーい。いってきまーす」

「俺達はここの人達を解放しよう」




「こういう時は、マスターキーで開けるのが一番早い」

川畑は愛用の赤い消防斧を取り出した。

万能鍵(マスターキー)?」

なんでも開く(マスターキー)。小屋の扉とか一撃で開く」

「俺、お前がそのカッコで小屋の扉ぶち破って入ってきたら、わめきながら銃乱射するわ」

「物騒な奴だな」

川畑は斧を振り上げたが、慣性航行中の廃棄船内は低重力のため、体が反動で浮いて、うまく振り下ろせなかった。

「そういう"重さ"で威力を出す武器は、低重力環境では扱い方のコツが惑星上とは違うぞ」

ダーリングは浮いた川畑の体を引き寄せた。

「それに戦艦のこの手の扉は、"蛮族返し"がついているから、壊して開けようと衝撃を与えると、警報がなって装甲シャッターが降りたり、鎮静剤が噴射されたりする」

「仕方ない。こっちにするか」

川畑の手からマスターキーが消えて、代わりに銀色の円筒形の何かが現れた。どうやら握って使うものらしい。その道具は彼の手にあわせて作られたように見えた。

「なんだ?爆弾か?」

「いや、刃物だ。非物質的なブレードが出る」

銀色の道具の端から、緑色の棒状の光が伸びた。どういう理屈かわからないが、光は腕の長さほどで止まり、ブレードを形成してした。

「これなら手元の質量しかないし衝撃も与えないからな」

川畑は、刃の長さを短剣程度に縮めた。扉は易々と切り裂かれた。


切り取った扉の金属板を外そうとした時、川畑はその一部が赤熱しているのに気づいた。

「やべ。射線から外れろ!」

MMとダーリングが壁際に避けるのと、扉が外れるのが同時だった。

川畑は身を伏せて外れた金属板を掻い潜り、室内に飛び込んだ。

四脚の警備機器が、レーザー銃っぽいものの銃口を川畑の方に向ける。

光線が川畑の体を薙いだ。

「光線兵器は見て避けられないからタチが悪い」

川畑は、瞬間的に出現した魔王マントで、光線を払い除けた。黒いロングマントを翻しながら、警備機器に肉薄して、光の剣で真っ二つにする。その勢いのまま向かいの壁と天井を蹴って、ダーリング達を銃撃していたもう一機が、銃口の向きを変える前に、その腕を切り落とした。

沈めた体が反動で浮き上がるのに合わせて床を蹴り、四脚機を股下から切り上げる。天井に"着地"して室内に他に敵がいないか確認すると、川畑はブレードをしまって、ゆっくり床面に降りてきた。


比較的大きな室内には、怯えた目をしたルルド人が拘束されていた。

「あーあ、こんなに怯えさせちゃって。お前、ビジュアル最悪なんだよ。なんだそのマント」

ツッコミ衝動に負けたMMが、室内に入ってきて、浮いていた警備機器の破片を脇に片付けた。

ダーリングは捕虜達を見回しながら、声をかけた。

「この中に銀河連邦の公用語か、流通語の喋れる者はいるか?」

「あ、言葉は同時通訳してやるから気にするな。リンク中は言語はフリーだ」

ダーリングはツッコミ衝動に打ち勝って、川畑にはなにも言わずに、捕虜達の方に向かって事情を聞き始めた。


「ますたー、"ぶりっじ"についたよ」

「わかった。今行く」

川畑は、MMの腕を捕まえると、ダーリングに一声かけた。

「ジャックと艦橋に行ってくる。タイベリアス、ここは任せた」

MMを連れて通路に出たところで、川畑はカップのいる艦橋に転移した。

「お前、行ったことないところは転移無理だって言ったじゃん。無茶すんなよ」

半泣きのMMの肩をカップが小さな手で優しく叩いた。

「ますたーは、ボクのみてるものみえるし、ボクのいるところはちゃんとわかってるから、だいじょうぶ。ねー、ますたー」

「まあな。お前らは俺の眷属だから。おい、ジャック、あんたこの船、動かせそうか?俺にはなにがなんだかさっぱりだ」

MMは、妖精を従えた黒マントの怪人のことは頭から閉め出して、戦艦の航法コンソールに向かった。

「いい知らせだ。これなら俺にもわかる」

MMは席についてすぐにそう言った。

「さすがだな。それでどれくらいで航路変更ができる?衝突までもうほとんど時間がない」

MMは川畑の方を見て苦笑いした。

「悪い知らせだ。この船は動かない」




「タイベリアス、艦橋はダメだ。制御系のプログラムが軒並み壊されてて手がつけられない」

「プランAで行くなら、彼らを何とかする必要があるぞ。君の転移でいけるか?」

「これだけの人数を収容できる転移先を俺が知らない。宇宙港は座標を覚えていないし、ブルーロータスの船内ではホールも劇場もプールも、広くて知っている場所は全部破壊されていて、記憶と現状が変わっている」

「ブルーロータスは、20区以外は基本的に大人数を収容できる空間はない。食堂などは今は避難所になっていて、すでに人で一杯だ」

川畑はこの世界以外への転移を検討した。

「D、ここの奴らは思考可能体か眷属かどちらだ」

「こちらのお二人は思考可能体ですけど、あちらの皆さんはほぼ眷属です。思考可能体は多分いても2、3人ですね」

眷属は所属世界以外への転移はできない。川畑は眉根を寄せた。

「ここの格納庫に艦載艇はなかったし、俺の船にもこの人数を乗せるスペースはないぞ」

「救助を呼ぶ時間はないし、一番近い船はこれを仕組んだ奴らの船か、ブルーロータスだ」

あきらめるのが嫌いな男達は、必死に方法を考えたが、あまりに時間と手段が足りなかった。

「八方塞がりの絶対解決不可能案件(コバヤシマル)かよ」

思わず川畑は毒づいた。怪訝そうなダーリングを、川畑は睨んだ。

「コバヤシマル問題っていうのは、絶対解決不可能な悲劇的シナリオなんだよ。どうやっても犠牲者が出るクソ仕様の状況の代名詞だ」

ダーリングは眉間にシワを寄せた。

「戦艦ごとの転移は無理か」

「さすがに最大直径がでかすぎる。そこまで転移面を安定して拡大できるか自信がない」

「本来は、人間1人転移させるサイズの穴を開けるだけの機構ですからね。さっきの宇宙艇を転移させたのだって、私から見れば相当無茶苦茶ですよ」

「なにか!なにか方法があるはず……ぐっ」

ふいにダーリングが身を折った。

「くそっ、まだいたのか」

川畑は通路の先から現れた警備機器を倒して、ダーリングの元に急いで戻った。

「腹を貫通してる。傷口は小さいが、治療は無理だ」

「ちはとめたけど、ボクではなおせないよ」

MMに抱えられたダーリングの前に、川畑はひざまづいた。

「まだ死ぬな。タイベリアス船長ってのは、コバヤシマル問題を解決した男の名前だ」

ダーリングは蒼白な顔を上げた。

「俺はあんたを無事に地球に連れていくと約束した。ただ約束を果たすには、あんたに1つ覚悟を決めてもらわないといけなくなった」

「……なんだ」

歯をくいしばって答えたダーリングの紺碧の目を、川畑は覗き込んだ。

「ちょっと人外の領域に踏み込んでもらう」

川畑はダーリングを連れて異世界に転移した。


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肉弾戦がいっぱい見られてご満悦 マントTUEEEEEw
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