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家に帰るまでが冒険です  作者: 雲丹屋
第6章 豪華客船で行こう

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プランA(準備)

レザベイユは急に呼び出されて不機嫌だった。彼のような天才は、もっと丁寧に扱われてしかるべきだと思う。

「『何のようだ!』」

"どのようなご用件でしょうか"

胸ポケットに留めた翻訳機から穏やかな人工音声が流れて、イラつく。

レザベイユは、顔をしかめて、室内にいた面々を睨み付けた。

「『来たか。まぁ、座りなさい』」

「『天才殿にぜひ頼みたい仕事があるんだ』」

そこには、艦のクルーと一緒に、白い毛並みを綺麗に撫で付けたルルドの導師(メンター)と、ルルド語が話せる青年がいた。




「『戦艦を吹っ飛ばす!?』」

ぴょこんと耳を立てたレザベイユを、クルー一同は同情のこもった目で見た。ダーリング艦長と謎の船客が言い出した作戦は、ひどいものだった。

「『戦艦一隻、跡形も無くすなんて火力積んでない!』」

「『いや、積んでるだろう。強力なのを』」

川畑は機関部の方を親指で指した。

「『あれだけ強力なバニシングエンジンとフォースフィールドジェネレータがあれば、この船自体が巨大な荷電粒子砲になるだろ。これだけ星系の主星から離れていたら、大陽風による減衰もほとんどないだろうし。相手の機関部にピンポイントで直撃させれば、あっちのバニシングエンジンの暴走で戦艦一隻くらい消えるんじゃないか?』」

レザベイユは喉の奥で低く唸った。

「『軍の機密管理はどうなってるんだ……』」

「『明らかにそういう設計に見えたけど、俺の勘違いか?』」

レザベイユは苦虫を噛み潰したような顔をした。

「『確かに本艦の構想段階では計画されていた。バニシングエンジン自体はその機構も備えている。だが、現段階ではフォースフィールドジェネレータがそこまでの精度で荷電粒子を収束させることができるフィールドを形成できない』」

「『エンジンの側は可能なんだろ。ジェネレータだけの問題なら大丈夫。フィールドモデルの設計を頼む』」


川畑は奥のコンソールで青ざめた顔で必死に資料を読んでいる未成年を紹介した。

「『そこにいるフラム・ロシェくん。彼はとても若いが、理論物理学者でフォース制御の論文を学会で発表もしてる俊才だ』」

レザベイユは、異種族の顔の見分けはさっぱりだったが、それが先日少し話して、さっき20区から助け出した子供であろうと推測した。フォース制御理論のわかる異種族の幼体がそうそういるとは思えない。

「『彼を助手に使っていい。フォースフィールドの制御モデルを構築してくれ。ジェネレータでは大まかな構造さえ制御できればいい。細かい制御は、ルルドの導師(メンター)がやるんだ。生身で理力を制御できるんだから』」

レザベイユは、とんでもないことを気楽に言う青年を睨んだ。

「『期限は?』」

「『すべてのタイムリミットは、正面のモニタ右上のカウントダウン。あそこまでに我々がなにもできないと、全員宇宙の塵になる』」

「『ばっっかじゃないのかぁっ!!正気の沙汰じゃない!』」

レザベイユは絶叫した。




「『では、あとは頼みます、"セルダン教授"』」

川畑は、ゲーム友達のルルド人を、ゲーム中のキャラクター名で呼んだ。本名は聞いたことがなかったのだ。"教授"は白い毛の生えた丸い耳をピョコピョコ動かして、嬉しそうに丸い目を瞬かせた。

「『そう呼んでもらえるとは嬉しいね。分かったかな?』」

「『……そうか。その衣装、廟にホログラムで登場するシーンのだ!』」

「『フフフ。この服、いいできじゃろう。船内のショップでオーダーした特注品じゃ』」

ゲームにはまって、コスプレとロールプレイまでし始めたルルドの導師(メンター)様は、目をキラキラさせて、ゲームの話題に脱線し始めた。

「『待ってください。今は一刻を争います。まずはリアルの問題を片付けてしまいましょう』」

「『わかった。わかった』」

「『まずは"教授"のプラン通りに進めておいてください』」

「『お主はどうする?』」

「『俺はもう1つの方に行かなきゃいけないので。何かあったら、うちのキャップ経由で連絡してください』」

白いルルド人は、満足げにうなずいた。

「『行くがよい。現実がプランから外れたときは、そのもう1つが重要になるだろう』」

「(セルダンコスプレ中のホーカのフォース使いの"予言"って絶対当たるやつでは?)」

川畑は芝居がかった調子の"教授"に若干の不安を感じたが、「できるだけプラン通りで進行してくださいよ」と念をおしておくだけにした。




「お待たせしました」

川畑が声をかけて近づくと、観測機器を調整していた技師が悲鳴をあげた。大きなヘッドフォンをあわてて外して、耳を押さえている。

ダーリングは振り向いて、顔をしかめた。

「グレムリンめ。観測機器に近づいただけでノイズが出るというのは、どういう体質なんだ」

「冤罪だ。電磁波なんか出してない」

「じゃぁ、なんだ。理力でも出してるのか。うちの最新鋭ハイパーソナーが、さっきから雑音スピーカーと化してるぞ」

覗いて見ると、付属の小さなモニタにグシャグシャの波形が表示されていて、技師が外したヘッドフォンから結構な音量のノイズが漏れていた。

「え?これ理力拾うの?」

「空間を満たす理力の微かな揺らぎを観測して、周辺の物体の配置を3次元で再構成して、音響情報としてリアルタイム認識させるんだ」

川畑はあわてて、常時周辺に展開していた力を、物理的な肉体の範囲に収束させた。

「すまん。そうとは知らなかった。直ったか?」

モニタの波形はかなり小さくなったが、ダーリングの眉間のシワは深くなった。

「まさか本当にお前のせいなのか?」

「いや、4日前からというなら、俺のせいだけでは……」

川畑はふと思い当たることがあって、口をつぐんだ。試しに、カップやキャップと視覚や聴覚を連携して、マルチタスクで雑談したりしている部分の力を、周囲と干渉しない秘匿回線扱いにしてみる。ついでにカップとキャップの"光量"も押さえる。

「ひょっとして、これでノイズ消えたか?まさか機械的に聞く技術があるとは思わなかった。センサーと基幹部分がどこだか教えてもらえれば、もうちょっと効率的にノイズ減らずぞ」

ダーリングと観測技師は、妖怪か何かを見る目で川畑を見た。


「かつてないくらいクリアです」

観測技師は複雑そうな顔でダーリングに告げた。

「艦自体が出すノイズは普段は補正値で消してますが、その補正値の誤差分まで調整されています。……正直、さっきのノイズで私の耳のほうがやられちゃってるのが、一番のネックになってます。申し訳ありません」

「交代要員は?」

「相棒はメインデッキの騒動で負傷してます。耳がよくて、かつ音響で立体配置を明確にイメージできないと無理ですから、簡単に他の人と言うわけには……」

「あ、そういう人の心当たりならあるぞ。公演前に読んだ紹介文に書いてあった」

川畑は一応ダーリングに尋ねた。

「一般の乗客だけどいいよな?俺やフラムも一般乗客だけど関わってるんだから今さらだし」

「今さらどの面下げて"一般"を自称してんのか、問い詰めたいところだが、この際不問にしてやる。使える奴は誰でも使え。責任は俺がとる」

「よっしゃ!そういうことならウサギ先生も呼んどこう。あ、すんません、これから言う部屋番の人呼んでください」

ためらい無くクルーに指示を出す川畑を見ながら、ダーリングは後でとる責任の種類と量については考えないようにしようと思った。

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― 新着の感想 ―
セルダンコスプレのホーカ人! どっちか片方読んでいれば笑えるネタの入れ方、さすがです。 (^^) 物語が佳境に入り、これまでの色々な要素がひとつの目的に向かって収斂している感じがいいですね。 各キャラ…
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