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家に帰るまでが冒険です  作者: 雲丹屋
第6章 豪華客船で行こう

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どっちもどっち

「TF1、減速にはいりました。やはり彗星核とランデブーするつもりのようです……これ有人機ですよね?無人戦闘機みたいな加減速してるなぁ」

「通常通信の接続は維持。自動補正済です。ったく、通信中継機がうろちょろすんなよ。艦長、なんか言ってやりますか?」


ダーリングは、エザキが雇ったというパイロットの顔を思い出した。ベテランというにはずいぶん若かったが、その分、無謀で体力はあるのだろう。辺境宙域に多い自由民の類いに見えた。あの手のやからは金を払えばかなりの無茶をやってくれるが、細かく指図されるのは嫌う。


「いい。あちらは好きにさせておけ。客室区画はその後、緊急の案件はないな」

「今、保安部より連絡ありました。主犯確保したそうです」

「よし!よくやった」

ダーリングは対応について、いくつか詳細を確認し、指示を出した。

エザキ捜査官が、"犯人確保時に巻き込まれて軽症を負った一般客のフォロー"とやらに回ったというのが多少、気にはなったが、大事は無さそうなので任せることにした。


ダーリングはメインモニタに表示させた彗星核とブルーロータスの予測進路図を確認した。両者は推定軌道通りに進み続けており、衝突予定時刻までのカウンターは無情に減りつつあった。

"TF1"と表示されたタイムフライズ号を示す緑の光点は、彗星核とその周辺漂流物の予測分布域の中央付近で光っていた。ダーリングはもどかしい思いで、彗星核の光点を睨み付けた。


モニタから彗星核の光点が消えた。


「えっ!?」

「ジャン・ポール、何事だ」

「観測中の彗星核、消失しました」

「破壊されたのか?」

「いえ、爆発等の光は観測されていません。……唐突に消失しました」

航宙士のジャン・ポールは、自分でも目の前の事実を信じていないような声で報告した。

「周辺漂流物も広範囲に消失しているようです」

「TF1は何て言ってる」

「連絡ありません」

通信士が「あ」っと小さく声を上げた。

「通信途絶」

「TF1、観なし。座標から消えました」


ダーリングは周辺宙域の観測を命じてから、川畑に渡された端末を取り出した。

「チャンネルDオープン」

「はいはい」

ダーリングの後ろで、能天気な声がした。

「どうなってる」

「何がですか?」

「状況は見ていただろう」

「すみません、よそ事してました」

ダーリングは眉間にシワを寄せた。

「奴の乗った船が消えた。この艦に衝突しそうだった小惑星も消えた」

「わー。相変わらずだなぁ」

「相変わらず……なのか?」

「ぼやいて、文句言って、よく分からない小細工を山ほどして、最終的に力押しで意味不明な解決をさせる人なんです。とりあえず衝突の件は解決してよかったですね」

「無事なのか?」

「会いに行きます?」

ダーリングは、これまで、行動するか、しないかの判断は、行動する側を選択してきたのだが、頭の隅で何か警鐘が鳴っている感覚があった。自分で確認したい欲求を、ぐっと堪える。

「無事なら問題ない。"衝突の件は"ということは、別件の問題がまだあるんだな?」

「はい。まだ終わってないです」

帽子の男は、あっさりそういうと、「呼んできます」と言って姿を消した。




「TF1のことは気にするな。周辺宙域、特に本艦の予測進路方向を警戒。所属不明艦の動きはその後どうなってる」

「光学観測結果と推定加速性能からの予測存在可能範囲を表示します」

ダーリングは星図を睨んでから、青いシャツを着た航宙士に視線を送った。

「ジャン・ポール、どう思う?」

「ここまでは、本艦から彗星への延長線上にいたのが、進路変えてきましたね。直接、当たりに来る気かもしれません」

「向こうからの攻撃もありえるな」

「さすがに非戦闘区域で民間船への発砲まではしないでしょうが、使節団の存在が向こうにばれてる以上、なりふりかまわない行動に出てくる可能性はあります」


ダーリングがクルー達と検討していると、川畑が戻ってきた。

「艦長、呼ばれたから先に帰って来たぞ、こちらで何があった」

ぎょっとした顔のクルー達の間で、ダーリングは一人冷静に川畑を迎えた。

「所属不明艦の動きが不穏だ。何か情報はあるか」

「高次空間通信で悪い知らせを拾った。もうじきこちらにも通常通信で届くはずだ」

川畑はダーリングの視線を正面から受け止めて、軽く顎を引いた。

「その所属不明艦が救難信号を出した。機関の事故で漂流し制御不能だそうだ。乗員は全員、救助に来た僚艦に退避中だとさ」

「そうきたか……」

ダーリングは奥歯を噛み締めた。


「相手は進路直上ドンピシャだ」

「それこそ少し航路をずらせば避けられるのでは?」

「彗星軌道の漂流物は掃除したが、それほど広範囲じゃない。軌道をふるなら思いっきりふってくれよ」

掃除ってどうやった!?って言いたそうなクルーを、ダーリングは目で抑えた。

「おそらくそれでは解決できん。無人船だと言いつつ、遠隔操作で合わせてくる可能性がある。何せ暴走中で制御不能という触れ込みだからな」

「そんな。救難情報に嘘を混ぜるのは通信法違反です!」

「辺境の汚い戦争では常套手段だ」

若い通信士は、腱が白く浮かぶほど拳を握りしめた。

「結局、振り出しですか」

苦々しく呟いた航宙士に、ダーリングはニヤリと笑って見せた。

「いや、無人の廃棄船なら、むしろやりようはある」


日頃、品行方正な艦長さんの悪い笑顔に、川畑は「あ、この人もダメな人だ」と悟った。

重労働を覚悟しながら、川畑はダーリングにいやいや尋ねた。

「それで、乗っ取るか、吹っ飛ばすか、どっちだ?乗っ取るならエザキのおっさんを、吹っ飛ばすならレザベイユを呼んでくれ」

ダーリングは、あきれたような顔で隣の川畑を見返した。

「君、どっちも手を貸してくれるんじゃないのか」

「え?どっちもやるの?」

「同時に打てる手が複数あるなら、全部打っとくべきだろう」

ダーリングは川畑の肩に手をかけた。

「君のプランを聞かせてもらおうか」

川畑は、ダーリングの評価を"ダメな人"から"ヤバい人"に修正した。


もちろん、川畑には逃げる余地は無く、こき使われる道しかなかった。

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