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家に帰るまでが冒険です  作者: 雲丹屋
第6章 豪華客船で行こう

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一難去って

『ますたー、そのヨロイかっこわるい』

『これは、鎧じゃなくて宇宙服』

『なんでそんなのきてるの?』

『真空中で活動するときは、こういう服を着ないと人間は死ぬんだ』

『じゃあ、なんでますたーがそんなのきてるの?』

『……ドレスコードだ』

『なーるほど!』


川畑は作業艇のアームがコンテナを引き出すのを補助しながら、真っ黒な宇宙空間を見渡した。

「(深宇宙の船外活動は観光で楽しみたかったな)」

周囲の理力を掌握し、水を操りながら、妖精としゃべっていると、精霊界にいたときと大して感覚が変わらない。

「(せっかく宇宙なのにもったいない)」

落ち着いてからまた来るために、川畑は近隣恒星からの相対位置で、現在位置を記憶した。ブルーロータス号は加速が止まった今も、結構な速度で動いているので、覚えた座標はたちまちとんでもない後方になった。しかし、時空監査局方式の転移でなら距離は関係ない。宇宙遊泳は後で満喫することにして、川畑は作業に集中した。


作業艇にあった工具……と見せかけて、実はモルに作ってもらった武器で、大道具搬出口に降りた非常用シャッターの端を切り裂く。

『おおーすごい。魔法剣のはずが、ちゃんとモードスイッチで理力コンパチ。やるなぁ、賢者』

『よくきれるねー』

『使い終わったら刃がしまえるのが良いな』

川畑は工具扱いの剣をしまって、シャッターの隙間をこじ開けた。体が入る程度に開けたら、あとは作業艇のアームに任せて、中に入った。


ノリコ達の入ったコンテナを目視で確認して、周囲を保護する力を調整する。開口部の扉をロックすると、コンテナの傷をチェックしてきちんと氷でふさいだ。これで気密が保たれた言い訳はたつだろう。

床の氷を散らせて、コンテナを持ち上げながら、中の密度と温度を確認する。外側が凍るのは方便のためにも必要だが、それでノリコが凍えるのはまずい。理力で水を動かして、コンテナ内の人の位置を調整し、その周囲の温度を常温に保つ。温度調整までやっているのは気づいて欲しくないので、暖かいとも冷たいとも感じない印象に残らない温度がベストだ。

ついでにルルド使節団の様子も診ておくが、問題ないようだ。どうやら、カップとキャップの友達がうまくやってくれているようだった。

彼は妖精達が見えるほどの理力使いで、ゲームでもうさぎ先生攻略に協力してくれる良い人だった。

突然、合流を連絡されたときは驚いたが、この際、この場のあれこれの不自然さは全部、彼の能力だったということにしてもらおうと川畑は思った。

『めんどくさい。正直、もうのりこだけつれてさっさと帰りたい』

『ダメだよ。がんばって』

『ノリコにいいつけるよ』

『よけいなこと言うな』

川畑は顔をしかめた。

船外のカップと、コンテナ内のキャップの感覚をモニタしながら、そっとコンテナを動かす。

作業アームがこじ開けた穴からコンテナを出して、作業艇にあったワイヤーでアームに固定する。

作業完了の合図を出すと、作業艇はメインシャフトの貨物用エアロックに向かった。




貨物用エアロックで彼らを待っていたのは、殺気だった保安員だった。

銃撃戦をやって飛び出したのだから、ある意味当然である。

ルルド人ご一行様は、あっという間に別室に連れていかれてしまった。

一応、エザキが帰還前に通信で釈明していたのだが、コンテナから出て来たミラが、エザキを見たとたんに金切り声を上げて、こいつがテロリストだと叫んだので、事態はもう一周紛糾した。


「私の知り合いの捜査官が、この人がそうだっていってマークしてたのよ!」

「俺が捜査官だ!」

「うそよ!あなた、悪人顔だもの」

「悪人顔で悪かったな。捜査官は顔でやる仕事じゃないんだよ!」


くだらない言い合いをするエザキとミラをよそに、川畑はノリコのことだけ考えていた。

「のりこ、寒くない?どこか痛いところは?遅くなってゴメン」

「ううん、いいの。助けに来てくれてありがとう」

川畑はどこからか調達してきたタオルをノリコに被せると、彼女を抱きしめた。

「君が無事で良かった」

しみじみとそう言って、タオルの上からノリコの首筋に顔を埋めた川畑を、ノリコは幸せそうに抱きしめ返した。

「あなたこそ、大変だったでしょ。無茶しないでね。私の大切な旦那さま」

とろけるような声でささやかれ、川畑は、耳まで赤くなった。低重力環境でなかったら膝から崩れ落ちていそうだった。

川畑はパッと顔を上げると、ノリコを抱きかかえたまま尋ねた。

「すみません、俺ら部屋に帰っていいですか?」

その場にいた保安員全員が一斉に怖い顔で川畑をにらんだ。

「いいわけないだろ!」




結局、川畑はノリコと引き離されて、1人でいつぞやの個室で待機させられた。

『ノリコはちゃんとボクらのおへやにおくってもらえたよ』

『よし、キャップ。お前は引き続きノリコのそばにいてくれ』

『おふろも?ノリコこれからかみをあらうって』

『俺と連携しているときはバスルームは入っちゃダメ。俺は覗きはしない』

『そういえば、またあたらしいピーピングトムがしかけてあるよ』

『いつもどおり壊しとけ』

『あいさー』


キャップに指示を出し終えると、川畑はぐったりと脱力した。

「(あーもー、ままならねーなぁ)」

ひたすら彼女とイチャイチャしたいだけの男子高校生と化していた川畑は、据え膳を取り上げられて機嫌が悪かった。

「こんにちは、川畑さん」

だから、帽子の男が出現したときも、ろくに反応せずにうだうだしていた。

「状況に変化があったので、お知らせに来ました。良いニュースと悪いニュースどちらから聞きますか?」

帽子の男は、川畑に無視されてもまったく気にせずに、にこやかに話を続けた。

「やぁ、川畑さん、機嫌が悪そうなので、良いニュースから話しますね。局の情報管制が限定的に解除になりました。一定条件下で時空監査局としての介入が可能になります。困っていることがあったらお手伝いできますよ」

川畑は机に伏せたまま、だらりとさげた手の先をわずかに動かした。

「はいはい、続きですね。わかってますよ。それでその条件というのがですねー、この船を無事に地球まで届けるっていうミッションに協力することなんです。なんでも、この船が地球に着かないと、この後のこの世界の発展が変わっちゃってまずいらしいんです。そのためなら、ここでの多少の無茶は局が握りつぶしてくれるそうですよ。そうそう、ここの船長さんには、局のこと話しちゃっていいそうです。もともと局の協力者として取り込む予定だったから、ちょっと早いけど問題ないって言われました。むしろ彼がここで死ぬとまずいらしいです」

川畑は顔を机に伏せたまま、機械では拾えない妖精語で問いかけた。

『局が目をつけてたってことは、船長は思考可能体か』

「はい、無自覚ですけどかなり有望な能力者だそうです。世界設定を改変するタイプじゃないですけど、周囲の眷属キャラクターに多大な影響力を発揮するので、世界の安定化には重宝らしいです。地位と人望と能力を兼ね備えているんで、もうちょっと出世したら取り込む予定で、ゆくゆくは局自体の管理職もさせたいみたいでしたよ。こんなところでつまずいて欲しくないようです」

『へー』

川畑は、彼の懇願を無視して立ち去った船長の姿を思い出した。腹は立つが、確かに危機察知能力はある。

『めんどくさいなぁ。船長に事情話そうとしても、あの人きっと聞く耳持たないか、信用しないぞ』

帽子の男は肩をすくめた。

「いざとなったら、私が姿を見せて説得しますよ。それでも信用されなきゃ、そんときはそんときです」

川畑は眉根を寄せた。

『それで悪いニュースってのは?』

「そうそう!それをお伝えしてなかった」

帽子の男はあっけらかんと答えた。

「このままだとこの船は大破して、乗員乗客は全員死亡します」

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